店で一人で飲むのが好きだ。

世の中には「一人で飲食店に入って食事をすること」ができない、もしくは苦手とする人が結構な割合でいるらしい、と気づいたのは、まあまあ大人になってからだ。
私は若い頃からまったく平気で、ファストフードやカフェはもちろん、食事をするレストランやカウンターの天ぷら屋、立ち飲み、照明を落としたバーでも一人で入れた。

人と食事をするのは好きだ。特に酒飲みだから、「一緒にお酒を飲んでくれる人」がいれば、初対面でもホイホイついていくようなところがある。
美味しいものを気の合う仲間と一緒に楽しむ時間は最高だとも思う。

だけど、同じくらい一人の外食も好きだ。「外食」というより「一人飲み」かもしれない。さすがに場所は選ぶが、「一人」ということに関してはなんとも思わない。選ぶ基準は、「一人で飲んでいて心地がよいか」ということだけだ。

若い時はよく「前世はおっさんだったのかも」と思うことがあった。
いや、おっさんだって、赤ちゃんの時もあれば若者の時もあるはずで、生まれながらのおっさんであるはずがないのだから、「前世がおっさん説」は微妙に間違っている気もするが、とにかくそう思ってしまうほど、思考回路がおっさんだった。

仕事と酒が好きで、食道楽で、仕事をやり切った後に飲む一杯が生きる目的で、「この一杯のために生きている！」というフレーズ（自作）を好んで使っていた。（今も）

若い女性が好むおしゃれなカフェやスイーツなどまったく興味が持てず、たまにそういう店に入ると、「えええ……若い女子ばっかりやん……」ともじもじしていた。異世界に入り込んだようで居心地が悪かった（自分も若い女子なのに、だ）。

一方、肩が触れ合うくらい狭い立ち飲みの店で、串カツをソースにつけてビールを飲み、仕事帰りのおっさんに紛れていると安心した。でも、見た目は全然おっさんではなくて、服装は８割ワンピース。今は若作りにならないよう気をつけておさえているが、基本的にフェミニンな服装が好きで、少女趣味でもあったから、花柄やレース、ふわっとした素材の服ばかり着ていた。
だからよく、「見た目は少女、中身はおっさん」と言われたものだ。

ある時、珍しく母と二人で外食をしたことがあった。食事目的ではなく別の用事があって、その帰りにたまたま寄った店だった。老若男女が満遍なく来るような一般的なレストランだったと思う。
そこに20代くらいの女性が一人で入って来て、少し離れた席に座った。それを横目で見ていた母が「今の女の人は一人でもこういうお店に入れるのねぇ……」と感心したようにつぶやいたのだ。

ぎょっとした。
あの……、あなたの娘、一人で立ち飲みに行きますけど……。
おっさんに紛れて、ぷはーっ！ビールうめー！とかやっていますけど……。

とは言えなかった。
「う、うん。そうやねー」と私。
「かおりも行けるの？」
「ま、まあ、これくらいの店ならね」
「そう！お母さんは無理だわ～、やっぱり感覚が古いのねー」
「あはは……お母さん、古いよ～」

ということもあり、「あれ？女性が一人で外飲みできるって変なのかな？」と思うようになった。

でもやっぱり一人飲みは落ち着くのだ。
家と違って自分で作らなくても料理やお酒が出てくるし、後片付けもしなくていい。店内のざわめきを聞きながら、ただ料理と酒に向き合う。誰にも気を遣わなくていい。何もしゃべらなくていい。
普段、初対面の人に根掘り葉掘り聞く仕事（取材）をしている私にとって、こういう時間は「リセット」になる。それは、家で一人で飲むのとも、楽しく夫や友達と飲むのとも違う特別な時間なのだ。

また、若い頃は「行きつけの店」を持っているというのがちょっとカッコイイかなとも思っていて、せっせと通っていたこともある。
今も行きつけのバーはあるが、昔からバーに行くとすぐに覚えられた。
というのは、私はカクテルなどは苦手だし、ウイスキーが好きなので、ウイスキーをストレートで注文するからだ。20代の頃からそうなので、マスターはだいたいびっくりする。「そんな若い女の人で、ウイスキーをストレートで頼む人、初めてです」と何度言われたかわからない。

昨年から一人だろうが二人だろうが、とにかく飲みに行くこと自体が難しくなり、今もまだ行きつけの店に顔を出せていない。やっと世の中が元に戻りつつあるのに、今度は仕事が忙しくなってまた行けず……。
今年は無理かもしれないが、来年早々にでも、仕事が一段落したら、久しぶりに一人で行きつけの店をまわりたい。
あと、早く立ち飲みに行きたい～！！（切実）

※トップ画像は、10月末に京都の「浅野日本酒店」で結城酒造さんのフェアをやっていた時に一人で行って、6種類をきき酒した時のもの。多く見えますが30mlずつなので、これで1合です。（安心してください！笑）