【ガンはメッセンジャー 2】静謐な暮らしとは真逆の生活が私を壊していった。
「汗問題」は解決しなかった。「自律神経の乱れ」が原因ではないかといわれ、そうかもしれないなとぼんやり思う。2014年~2015年は私の人生で最も忙しくハードな期間だったからだ。(レディースクリニックに初めて相談に行ったのが2015年10月)
酒蔵取材で全国を飛び回るほか、学生の就活向けに関西の中小企業を1000社掲載した本に携わり、このボリュームがとにかくすごかった。それ以外にも、女性の定着支援、若者の定着支援、知的障がい者支援、中小企業の処遇改善など行政の事業に関する制作物(主に20~40頁くらいの冊子)、家電メーカー広告、求人サイト、あとは細かい諸々の仕事を同時進行で進め、とにかく取材して、資料を読み込んで、書いて書いて書きまくる日々だった。
いよいよ追い込みとなると、もう「朝」も「夜」も関係ない。とにかく「起きていられるところまで」起きていて、限界が来たら3時間後に目覚ましをセットして活動する。夜中2時半くらいから仕事をして、ふらふらのまま取材に行き、夕方帰ってまた書き続けるということも珍しくなかった。
一時期は「布団で寝ない」ようにしていた。布団で寝ると気持ちよくて起きることができないので、あえてテレビをつけっぱなしでホットカーペットで、半分座った感じで寝る。そうすると目覚ましでちゃんと目が覚め、寝坊することがなかった。
……こんな日々が体にいいわけない。
口周りを中心に顔に吹き出物ができ、膿んでただれてきたときには、さすがに限界やなと思った。それでも皮膚科に行く時間も惜しんでガマンしていたら、もう顔じゅうに広まってきたので、取材帰りに皮膚科に飛び込んだ。
おそらく不摂生やストレスによるホルモンバランスの乱れが原因とのこと。
薬をもらって飲んで塗ったら、これは一発で治った。
話を戻そう。汗問題はさておき、レディースクリニックでもらった生理不順の薬を飲むと、先生が言っていた日数ぴったりに生理がきた。あまりにぴったりで、ちょっと薬が怖くなったほどだ。でも、嬉しかった。なんとかホルモンバランスを整えて、体を正常に戻していこうと思った。自分の体のいろんな部分が乱れて壊れていくのを感じていたし、「手遅れになる前になんとかしなければ」という気持ちだったのだ。
薬を飲みだして2カ月経った頃だったと思う。急に下腹部にズンと強烈な痛みを感じるようになった。ずっと痛いわけではない。1日のうちに何回か、急に痛みがきて、それが数分続く。生理痛などとも違う、一度も味わったことのない鈍痛だ。短い時間だが、かなり強烈で、「あれ?これは何かヤバイやつなんじゃないのかな」と思った。なんでもないよ、と自分で自分をごまかせないほど痛いのだ。
そんな痛みと不安を抱えたまま2015年が終わり、2016年を迎えた。お正月休みが終わるのを待ち、6日にレディースクリニックに駆け込んだ。「生理はくるようになったけど、下腹部が時々すごく痛むんです」という話をすると、先生の顔色が変わった。「ちょっと気になるからMRIをとってみましょう」と言われ、近くの病院を紹介された。あの薬はもう飲まないように、とも言われた。
それから数日後、MRIをとり、結果を持ってまたレディースクリニックへ。待合室で何気なく手を伸ばした雑誌。占いを読んでみると、「2016年はのんびりしたほうがよい、ずっと忙しくしてきたけれど、忙しさに生きがいなどない」という意味のことが書かれてあって、あまりに状況がぴったりすぎて笑ってしまった。その中にあったこの言葉が今も忘れられない。
「あなたが何のために生を受けたのかを探ってみるときです。
宝物は静謐の中で発見できるものです。
時にはお茶を点てたり、
筆を執ったりして、静かに過ごしましょう」
宝物は静謐の中で発見できる……。静謐かぁ、静謐な暮らしなんて、ずっと縁がなかったなぁと思う。このMRIの結果がどうであれ、もう一度自分の生き方を見直してみよう。もっと自分の体と心を大事にしてみよう。そんなことを考えていたら、私の名前が呼ばれた。
診察室に入ると、先生の顔が曇っている。嫌な予感が走る。
「MRI画像では確定はできないんだけどね、ここに何か映ってるでしょ。もしかしたら子宮体ガンかもしれない。今度はもっと大きな病院で、ガン検査を受けてみて」
「ガン」という言葉に恐怖は感じたが、それほど驚きはなかった。ハードでむちゃくちゃな生活、大量の汗が出るほどの自律神経の乱れ、顔の吹き出物や生理不順になるほどのホルモンの乱れ。どれだけ自分の心身を痛めつけてきたか、自分が一番よく知っている。何度も体の悲鳴を聞いてきたじゃないか。それを聞かないように耳をふさいで、ただ仕事に追われ続けた。
手遅れにならないようにと、ようやく生活を見直し始めた時には、もう遅かったのか。
これからどうなるんだろうかと呆然としたまま、この辺りで一番大きな大学付属病院への紹介状を手にクリニックを出た。このレディースクリニックに行ったのは、これが最後だ。
連載【ガンはメッセンジャー】について
2016年にガンになり、手術と抗がん剤治療3クールを経て根治した。……と思ったら、3年後の2019年に再発。もう「根治」の可能性はなく「延命治療」しかできないと言われ、それから抗がん剤治療を9クール受けた。そして今は何も治療をせずに1年以上経つ。よく「闘病記」や「治った」人の話は聞くけれど、私はまだガンが骨盤リンパ節や腹膜に散らばっている。ステージ4だ。定期検診は受けているが、治療は一切していない。仕事もするし、お酒も飲むし、キャンプもするし、痛みなどもない。この奇跡の話をこれから少しずつ書いていこうと思う。日本人の二人に一人が生涯でガンになると言われている時代。<治療法>ではなく、私のような新しい<ガンとの付き合い方>が、ご自身や周りの人の参考になれば、うれしいです。
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