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【ガンはメッセンジャー11】抗がん剤の副作用、痛みとしびれに耐える。

2016年5月、いよいよ抗がん剤治療が始まった。
私の抗がん剤治療はTC療法といって、パクリタキセルとカルボプラチンという二種類の抗がん剤を投与する。
特別なものではなく、日本では一般的な抗がん剤治療だ。
他にも私のガンに適した抗がん剤はいくつかあるようだが、その中でTC療法が一番「副作用が軽いわりに効果もある」ということで、主治医はこれを勧めてきた。

手術のところでも書いたが、私の通っている病院はとにかく「長く入院させるのが好き」だ。
TC療法だと、1泊もしくは日帰りという病院もあるようなのだが、うちの病院はなんと3泊4日!!

スケジュールはこんな感じだ。
1日目:11時に入院手続き。特に何もしない。
2日目:午前中から抗がん剤投与スタート。夕方終了。
3日目:特に何もしない。
4日目:朝ごはんを食べたら退院

普通の感覚の人ならこう思うだろう。
1日目の朝入院してすぐに抗がん剤を始めて、その日は泊まって、翌日の午前中に退院したら1泊2日で済むのでは……?
ほんと、そう。
せめて、1日目の入院を夕食前くらいにして、3日目をなくして2泊3日ならまだわかるのだが、1日目と3日目は本当にヒマで仕方がないし、4日目なんて朝ごはん食べるだけなのに、入院日は「1日分」として換算されるのだ。
おかしいと訴えても、「規則なので」と言われてしまう。
私はまだフリーランスだからいいけど、会社員の人は大変だなぁと思った。だって、副作用が出てくるのは、実は4日目からなのだから。入院している間は元気で、帰宅してからぐったりするという……。だから、入院期間プラス3~4日は会社を休まないといけなくなると思うのだが……。

まあ仕方がないので、言われた通りに11時に行った。
病室に入ったらいきなり放置され、12時に食べたくもない昼食が運ばれてくる。その後、ようやく看護師さんと薬剤師さんが来て、入院と抗がん剤の説明があり、18時の夕食まで放置。
本を読むくらいしかやることがない。はぁ……、これ何の時間?

翌朝、検温と朝食の後、11時頃から初めての抗がん剤投与が始まった。
初回はアレルギー反応が出て続けられなくなる人もいるので、先生と看護師さんが15分ほど見守る。
初回だけは心電図の線もつけられる。
そして、何度も何度もいろんな人に「お酒は飲めますか?」と聞かれるのだ。パクリタキセルにはアルコールが入っているので、お酒が飲めない人はかなり苦しいらしい。
そこだけは「飲めます!」と良い返事をした。ほんとによかった、飲めて!

アルコールに強く、最初の15分もクリアした人は、抗がん剤を点滴している間というのは、全く苦しくも辛くもない。
身近な人や自分自身が抗がん剤の経験がない人は、「吐きながら」とか「苦しみながら」点滴をされているイメージを持っているかもしれないが、少なくともこのTC療法に関しては何のダメージもない。もちろん、吐き気止めの薬を飲んでいるから、ということもある。

だいたい6時間くらいで終了するが、その間、左腕に点滴の管を付けたままで昼食もモリモリ食べる。夕方、終了してからすぐに夕食が運ばれて来るが、それも残さず食べる。
私も知識や経験があったわけではなかったので、まさか自分が抗がん剤を点滴されながらご飯をたいらげているなんて想像したことがなかったから、ちょっとびっくりした。
もしかして私だけ……?と思い、看護師さんに聞いてみたら、「皆さん、そんな感じですよ。ごはんも普通に食べられていますね」と言っていたので、特別なことではないようだ。

翌日(入院3日目)も特に副作用はない。ただヒマなだけ。
そして4日目の朝ごはんを食べて、9時半頃になると、今度は追い立てられるように退院。掃除のおばちゃんが来る。(それなら前日の夜でもよかったんじゃないかとやっぱり思ってしまう)
そこまでは副作用なし。食欲もある。ちょっと拍子抜けするほどだ。

人は、未知なるものに対して恐怖を抱くのだと思う。
だから、1回目を終えるまでは本当に怖かった。
でも、1回目を終えてみれば、「なんだ、こんなものか」という感じで余裕ができた。

それに、入院中は母や姉が来て、あれこれ世話を焼いてくれたり、面白い話をしてくれたりする。面会時間は20時までだったが、夫も仕事終わりの1時間だけでも必ず来てくれた。
私の病室はずっと明るかった。
笑い声で満ちていて、ここに抗がん剤を投与されている真っ最中の病人がいるなんて想像できないだろうな、と思うほどだった。
そういう意味では本当に家族には感謝した。心配はしてくれるが、悲壮感がないというか、「病人は元気づけるものだ」と思ってくれている感じがした。あの家族の明るさにどれほど救われたかわからない。

これを4週に1回、3クール。
家まで帰るタクシーの中で、これならなんとか乗り越えられるだろうという気持ちになった。

しかし、家に着いたくらいからじわじわと痛みがきた。
おお、これか、と思う。

投与後、2、3日目から筋肉痛、関節痛が起こると聞いていてたが、人生で味わったことのある「筋肉痛」とはちょっと違う。似ているけれど、筋肉が痛いわけではなく、足におもりを付けられているみたい。
体中に何かがのしかかる。重い倦怠感。

次にきた痛みは中からだった。
主に頭痛と腹痛。
「副作用ってどんな痛み?」と聞かれたら、私はいつもこう言っていた。
「体の中から破壊されるような感じかな」
大げさでなく、まさにそういう種類の痛みだった。

それから、内臓の機能低下。
表現するなら、胃や腸が固まって停止している感じ。
実際、便秘をする人はすごく多くて、私も便を軟らかくして出すような薬はもらっていた。

パソコンに向かって仕事をしようとしても、頭が割れるように痛く、体にのしかかってくる重さに耐えられず、すぐに切り上げてしまう。
そんな時は料理をした。
料理をしている時が一番楽だったのだ。
この話をすると、「しんどいのに、すごいね」とよく言われたが、単に寝ているほうがしんどいのだ。寝ていると「痛み」に集中してしまう。思考が「痛い、しんどい、辛い」ばかりになってしまう。
かと言って、先ほど書いたように頭を使うような仕事は、これも集中できない。でも、「料理」や「掃除」くらいの軽い家事をしていると、痛みを忘れることができた。
そのうえ、食生活も充実する。一石二鳥だ。

そうやって痛みをごまかし、寝たり起きたりを繰り返しながら過ごす。
副作用はだいたい投与の3日目から始まって、5日目がピーク。そして、7日目には驚くほどケロッとしていた。
いつも7日目になると「そうそう、本来の体ってこういうものだった!」と思い出す感覚があった。頭も体も軽く、手足が自由に動き、胃腸がしっかり活動を始める。そんな当たり前のことを忘れてしまうくらい、副作用に支配されてしまうのだ。
そして、唯一、7日目以降も手足のしびれは残る。生活が不自由になるようなレベルのしびれではないが、いつもしびれていた。

5月にスタートして、6月、7月と、これを繰り返すことになる。
確かに辛いが、耐えられないほどの痛みではないことはわかった。
さあ、問題は、これからくる「脱毛」だ。

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