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【最近読んだ本】すべてが狂った世界でようやく手にできる幸せもある。

子どもの頃、ノストラダムスの大予言が流行った。「1999年7月に恐怖の大王が降りてきて人類が滅亡する」というもの。まだ先の、と言っても想像はできるくらいの近い未来の予言に子どもだった私は震え、友達と「人類が滅亡するなら、最後に何をしたいか」という話をした。

ノストラダムスの大予言とは関係なくても、誰でも一度くらい「明日、地球が滅亡するとしたら何をする?(何を食べたい?)」というお題で盛り上がったことがあるのではないだろうか。
不思議なもので、10代、20代の若い頃には「これまでにできなかった何か特別なことをしたい(食べたい)」と思っていたが、年齢を重ねた今は、「いつもと変わらない、ごく普通の日にしたい(食べたい)」と思うようになった。

朝起きて、身なりをきちんと整えて、家の近所を散歩して美しい緑を見て太陽の暖かさを感じ、帰ったら我が家の定番料理を作り、夫と二人で美味しいお酒を飲みながらそれをつまみ、何でもない話をして笑って、少し酔っ払ってきたくらいで抱き合って死にたい。
そんなふうに考えると、「地球滅亡の日」もそんなに怖くない。

凪良ゆうさんの『滅びの前のシャングリラ』を読んだ時、ふとそんなことを思った。

「一ヶ月後、小惑星が地球に衝突します」
そんな首相の発表がニュースで流れ、日本中は大パニックに陥る。世界はすでに暴動が起き、日本でも商品の略奪や殺人、自殺などが日常化していく。
学校も仕事も行かないし、交通、流通、いろんな機関もマヒしていく。
「明日」なら美しく死ねるかもしれないのに、「一ヶ月」という耐えがたい恐怖の時間が人々を狂わせていくのだ。

学校でいじめを受けていた「友樹」、友樹が子どもの頃から好きだった「藤森さん」、恋人から逃げ出した「静香」、人を殺したヤクザの「信士」、いつしかこの4人が共に行動し、まさに世紀末ともいえる荒廃していく世界でサバイバルな生活を始める。

ネタバレしては面白くないのでこの4人の関係は書かないが、小惑星が衝突などせずにずっと続いていく世界なら、勇気を持って交わったり理解し合ったりできなかったはずだった人たち。
それが、先のない未来を突き付けられて、ようやくそれぞれが大事なものを見つけて関わっていくのだ。

今あたしはとてつもない幸せを感じている。
正しく平和な世界で一番欲し、一番憎んでいたものが、すべてが狂った世界の中でようやく混ざり合ってひとつになった。神さまが創った世界では叶わなかった夢が、神さまが壊そうとしている世界で叶ってしまった。ねえ神さま、あんたは本当に矛盾の塊だな。

こんなつぶやきを読んだら、私まで「ああ、お願いだから、小惑星などぶつからないで。この人たちを守って!」と祈ってしまう。
だって、やっと幸せになれたのに!
人の命はなんて儚く、そして人の気持ちって、なんて尊いのだろうかと思う。登場人物が愛しくて仕方なく、自然と涙があふれてくる。

それからもう一人、キーパーソンとして描かれているのが歌姫のLocoだ。彼女は最後にこう思う。

明日死ねたら楽なのにと夢見ていた。
その明日がついにやってきた。
なのに今になって、もう少し生きてみてもよかったと思っている。
後悔じゃない、もっとやわらかい眩しい気持ちだ。
これを希望と呼ぶのはおかしいだろうか。

そして、圧巻のラスト。
読み終わった後、しばらく放心状態だった。
悲しいはずなのに、どこか温かいものに包まれているような感覚。

「幸せ」とは何なのか。「家族」とは?「生きる」とは?
いろんな疑問が後から後から湧いてきた。本当にすごい本だった。

凪良ゆうさんの本は『流浪の月』もよかったが、私にはこの『滅びの前のシャングリラ』のほうが響くものがあった。
今のところ、2021年に読んだ本の中では自分のベストワン。
合う・合わないはあるかもしれないが、人にもおすすめしたい1冊だ。

▼『流浪の月』の感想はこちら▼


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