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【ガンはメッセンジャー 6】徹底的に調べて納得したから後悔しない!

私のがんの診断は1aという、きわめて初期の段階でホッとしたものの、標準治療は「子宮全摘出+卵巣・卵管全摘出+骨盤のリンパ節切除」とのこと。それが最善だと頭では理解しながらも、どうしても「何かほかに方法はないのか」と思う気持ちを抑えられなかった。

家族や友達に相談すると、皆、私の気持ちに寄り添い、慎重に言葉を選びながらも、「辛いだろうけど、それであなたが生きてくれるなら、病院の提案通りの手術をしてほしい」と、そういう意味のことを言う。

わかっている。私は病院のやり方を否定しているわけでも、手術を断固拒否しているわけでもない。ただ、「お医者さんがそう言ったから」「今の標準治療だから」という理由で、頭を空っぽにして何も考えずに「はい、はい」と従っていくようなことはしたくなかっただけだ。なぜなら「自分の体のこと」だからだ。そして、取った臓器はもう二度と元には戻らないからだ。絶対に後悔したくなかった。

ふと、少し年上の友人が数年前に子宮筋腫で子宮を全摘出したことを思い出した。筋腫は悪性ではないものの、彼女の場合とても大きく、貧血や腹痛、出血など、日常生活に支障をきたしていたので、迷いながらも結局は手術を選択した。

彼女のように、摘出手術で痛みや体の不調から逃れられるとわかっていても迷う人だっているのだ。私の場合、がんとはいっても、痛みも出血も何もない。手術など受けなくても日常生活に何の支障もない、ということも納得のいかない理由だった。

そこに、「手術しないで治した人がいる」と聞いたり、知り合いの東洋医学の先生に「がんなんて切らずに放っておいて、免疫力を上げれば勝手に治る」などと言われたりすると、よけいに迷った。

だから決めた。徹底的に調べて納得して、どうなっても後悔しないと思えたら、手術へ進もう、と。

結果的に、この後のいろいろな治療、3年後の再発でも、自分のこの考え方こそが、今も私を生かしていると思っている。

それから私は夫と一緒に、がんについて勉強した。すると、今の日本の医療では、やはり標準治療しかないということ、どこの病院でも同じ治療しかできないことがわかってきた。東洋医学の先生が言うように「切らずに自然治癒力で治す」という医者もいるようだったが、それを選択する勇気は私にはなかった。

それからこう思うようにもなった。がんになった時、「手術ができる」ということは幸運なんだと。ステージが進んだり転移したりしていれば、もう手術すらできないことだってあるのだから。幸いにも子宮がんは「摘出ができる」臓器であり、私のように初期なら「摘出さえしてしまえば」転移や再発の恐れもほとんどない。早期発見で手術ができるのは、ラッキーだったんだと思えるようになった。

また、いろんな病院を調べているうちに、私が通っている大学付属病院は関西でも全国でも、腹腔鏡手術の症例がずば抜けて多く、婦人科の手術をするならこれ以上ないほど安心だということもわかった。

こうして、ようやく納得して覚悟を決め、主治医に手術を受けたいと伝えたが、ここでちょっとだけあがいてみた。「骨盤のリンパ節切除」だけはやめてほしいとお願いしたのだ。1aだとリンパ節にまで転移している可能性はほとんどない。それに対して、切除後に浮腫(足のむくみ)や排尿障害など、後遺症が起こる可能性は高い。それだけはどうしてもいやだった。

すると、主治医から「センチネルリンパ節生検」の提案があった。これは、最初に転移が生じると考えられるリンパ節だけを手術中に迅速病理診断し、そこに転移がない場合は、その他のリンパ節は摘出せずにおくという方法だ。乳がん手術ではよく行われているが、子宮がんではまだほとんど症例がないため、どこの病院でも勧めていない(5年以上前なので、現在はよくわからない)。ただ、私の行っていた病院は大学付属病院ということもあってか、新しいことも患者の同意があればやっていくという方針なので、提案してもらうことができたのだ。(私がしつこかったということもあるだろう)

この提案を聞き、やった!と思った。やっぱり1つでも「摘出しなくて済む方法」があったじゃないか。私が主治医の言うことをただ「はい」と聞いていたら、全く転移のないリンパ節まですべて摘出されていた。もしかしたら、術後に後遺症があったかもしれない。その後、出張取材もキャンプもできるような状態じゃなかったかもしれない。もし、そうなった後で「センチネルリンパ節生検」のことを知ったら、どんなに後悔しただろう。ああ、知らないことは怖い。最後まであがいてよかった、と思った。

そうして手術が決まってから当日まで、自分で言うのもなんだが、私はそれほど悲観することもなく、落ち込むこともなく、神様を恨むこともなく、わりと堂々として勇敢だったと思う。ヘタレで大げさで、すぐ悲観的になる自分の性質を知っているから、よけいにそう思った。自分でも意外だった。

ただ、一度だけ、入院する数日前の夜、さあ寝ようと布団に入った時に、なぜか急に悲しくなってきて、ポロポロと泣いた。
「あれ?なんか涙が出てきたよ……」
そう言葉が出たくらい、自分でもどうして泣いたのかわからなかった。
夫の前で一度だけ泣いた。この夜は涙が止まらなかった。

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連載【ガンはメッセンジャー】について
2016年にガンになり、手術と抗がん剤治療3クールを経て根治した。……と思ったら、3年後の2019年に再発。もう「根治」の可能性はなく「延命治療」しかできないと言われ、それから抗がん剤治療を9クール受けた。そして今は何も治療をせずに1年以上経つ。よく「闘病記」や「治った」人の話は聞くけれど、私はまだガンが骨盤リンパ節や腹膜に散らばっている。ステージ4だ。定期検診は受けているが、治療は一切していない。仕事もするし、お酒も飲むし、キャンプもするし、痛みなどもない。この奇跡の話をこれから少しずつ書いていこうと思う。日本人の二人に一人が生涯でガンになると言われている時代。<治療法>ではなく、私のような新しい<ガンとの付き合い方>が、ご自身や周りの人の参考になれば、うれしいです。

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