【編集担当が語る絵本の魅力】「世界のむかしばなし絵本」シリーズ~第Ⅱ期~
【編集担当が語る絵本の魅力】「世界のむかしばなし絵本」シリーズ、お待ちかねの第Ⅱ期をお届けします!
第Ⅰ期に引き続き、企画・編集を担当いただいている編集者の鈴木加奈子さんに、絵本をご紹介いただきます!
今回は、シリーズ第Ⅱ期の5作品です。
ライオンとタカとアリになった男の子―ノルウェーのむかしばなし
おはなし
雄大な自然をいだく、ノルウェーに伝わる昔話。ある日、ライオンとタカとアリに変身できる力をさずかった男の子は、トロルや竜に苦しめられているお姫さまに出会います。男の子は、変身する力を駆使して…。文は、北欧児童文学の翻訳家の菱木晃子さん。次々と摩訶不思議なことが起こるボリュームのある物語ですが、骨格を大切にしながらも複雑さを回避し、自然とこの不思議な世界に入り込める工夫をしています。流れるような美しい文章で、物語を楽しませてくれます。
絵
この物語の絵を、やわらかな色彩で包みこむように描いたのは、MARUUさん。男の子にお姫さま、神秘的なライオンやタカやアリ、迫力ある竜、奇妙で恐ろしくもユーモラスなトロル、美しい植物などが、緻密に、織りなすように描かれます。また、変身する主人公を場面ごとに、すぐとらえることができるようにと、目とスカーフを印象深い青色で表現しています。ぜひ注目してみてくださいね。繊細かつ迫力ある描写に導かれ、読後は祝福に満ちたイメージが広がります。
チンチラカと大男―ジョージアのむかしばなし
おはなし
コーカサス地方の、かつては「グルジア」と呼ばれていた、ジョージアに伝わる昔話。王さまに、大男の黄金つぼをとってくるよう言いつけられるチンチラカ。チンチラカが盗み出しにいくと「たいへん、たいへん!」と、魔法の楽器パンドゥリが喋りだして…。文は、旧ソ連諸国との草の根文化イベントのコーディネートも務める、ロシア語翻訳家の片山ふえさん。明瞭な語り口、勢いあるセリフまわしが、個性あふれるキャラクターを際立たせ、物語を盛り上げます。
絵
絵を描いたスズキコージさんは、若い頃から、ジョージアの画家ピロスマニの絵画や映画が大好きだったとのこと。さらにこの地を訪ね、素晴らしい旅となり、特別な思いを抱いているそうです。ジョージアに伝わるこの物語もすぐに気に入り、楽しくどんどん描けたとのことでした。山々に囲まれたジョージアの堂々たる景色、知恵ものチンチラカ、わがままな王様、とぼけた大男、喋る楽器パンドゥリなどを、自由闊達に、ユーモラスに描きます。ページをめくるたびに力強い筆致とあざやかな色彩がとびこんでくる、ダイナミックな絵本となりました。
梨の子ペリーナ―イタリアのむかしばなし
おはなし
イタリアを代表する作家イタロ・カルヴィーノが集めた昔話の中のひとつ。イタリア北部の果樹栽培がさかんな地域に伝わる物語です。梨と一緒にかごに入れられ、宮殿にやってきた女の子。皆にペリーナ(梨の子)と呼ばれ愛されますが、魔女の宝をとってくることができると、ありもしないうわさを流され、宮殿を追い出されてしまい…。訳したのは、イタリア語翻訳家の関口英子さん。みずみずしく、やわらかな語り口が、やさしく幻想世界へと招き入れてくれます。
絵
絵は、この物語に魅了されたという酒井駒子さん。特に「かまどの女」や「血のように赤い川」といった描写、小さなペリーナが理不尽な目にあいながらも、自分の運命を淡々と受け入れ、出会う不思議なものたちの苦しみを解放していくというストーリーを、とても面白いと感じたそうです。酒井さんの新たな魅力に出会えるような、神秘的で迫力ある表現に圧倒されます。また、ペリーナの愛らしくひたむきな姿、その透明感に心うばわれ、読後は幸福感が訪れます。
ヘビと船長―フランス・バスクのむかしばなし
おはなし
フランスとスペインの国境にまたがる、バスク地方に伝わる昔話。不幸が重なり船を失った心優しい船長に、ある日、ふしぎなヘビが話しかけてきます。船長は、ヘビの言うとおりに船を用意し、人を集め、海を越えていきますが…。文は、フランス語、英語の翻訳作品を多く手がけるふしみみさをさん。このとびきりユニークな物語を、無駄のない心地よいリズムで語り、物語のもつ飄々とした空気感を、見事にとらえています。ふしぎなヘビの秘密とは、さて…?
絵
絵は、フランス人アーティストのポール・コックスさん。コマ割り、古い版画をイメージしたタッチに加え、7色に限定された配色が、本全体に独特のハーモニーを与えています。特にポールさんにとって「赤」と「緑」は「バスクの色」なのだそう。とんでもない展開にドキッとしながらも、終始、ゆるやかな空気に包まれ、絶妙な味わいがあります。ポールさんの、どこかおかしみのある、チャーミングな表現に、心をわしづかみにされてしまう一冊です。
ヴォドニークの水の館―チェコのむかしばなし
おはなし
ヨーロッパの内陸部、チェコに伝わる昔話。ある日、生きる希望を失った娘が川に身を投げようとしていると、水の主ヴォドニークに、水の館へと連れていかれます。ヴォドニークは、日本でいう河童のようにチェコで親しまれている存在。緑の体に燕尾服を着て、愉快だったり恐ろしかったり、様々な様子が伝えられています。この物語のヴォドニークは、怪しく恐ろしげ。チェコ語翻訳家のまきあつこさんが厳かに語り、水底にのみこまれるように不思議な物語の世界へと引き込まれます。娘はヴォドニークに、とらわれたのか、救われたのか…深い余韻が残る物語です。
絵
絵を描いた降矢ななさんは、チェコとかつてひとつだったスロヴァキアに、長く暮らされています。いつか、とらわれた魂を解放する場面のあるヴォドニークの絵本を描きたいと思っていたという降矢さん。魂が光となって飛び出していくその場面は、ハッとするほど印象深く、息をのみます。謎めいたヴォドニークの姿、逃げ出そうと決意し、駆け出し、水底の幻想世界をさまようむすめの姿も胸に迫ります。チェコの伝統的な模様を取り入れた衣装や壷、館の装飾など、細部まで楽しませてくれる絵本です。
鈴木加奈子さん、ありがとうございました!
「世界のむかしばなし絵本」シリーズを読みながら、第Ⅲ期刊行開始も楽しみにお待ちくださいね!
情報は、BL出版公式Twitterにてお知らせいたします。
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