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きみはたいせつ きみがたいせつ

2021年秋に出版された絵本『きみは たいせつ』(クリスチャン・ロビンソン作 横山和江訳)。
出版以来好評を得てすでに重版もすすめているほか、絵本ナビが注目し推薦するネクストプラチナブックにも選ばれています。

今回、訳者の横山和江さんが、絵本にまつわるエピソードとメッセージを寄せてくださいました。

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わたしが『きみは たいせつ』の原書 "You Matter" をはじめて読んだのは2020年の秋で、 黒人の父親と白人の母親を持つ主人公の葛藤を描いた『キャラメル色のわたし』 (鈴木出版)刊行まもなくのころでした。2020年5月25日にアフリカ系アメリカ 人の黒人男性ジョージ・フロイドさんが警察官に殺害された事件もあり、わたし は人種差別、とりわけ黒人に対する差別に対して強い憤りを感じていました。 
"You Matter"には、まず表紙に惹きつけられました。さまざまなバックグラウンドをもつ子どもたちが力を合わせてパラバルーンを支えているからです。 そして顕微鏡でしか見えない生物から物語がはじまることに驚きました。人類 誕生前の地球が登場するなど、「きみは たいせつ」というメッセージを伝えるために作者が選んだすべての「きみ」に対する視野の広さと懐の深さに感じ入り ました。
人種差別問題解決には気の遠くなるほどの道のりがありますが、ひとりひとり が大切な存在といわれることが小さな第一歩なのではと思いました。そのため、 クリスチャン・ロビンソンのやさしさが詰まっている本作をぜひ日本に紹介したいと思った次第です。

 わたしがテーマ性の強い作品を好きなせいかもしれませんが、「翻訳者は翻訳する作品に傾向がありますね」と、ある編集者さんから伺い、たしかに!と思いました。なぜなら『きみは たいせつ』(BL出版)と、同じ年に刊行された『地球のことをおしえてあげる』(鈴木出版)の2作は、地球規模で子どもたちを想うテーマの作品だからです(さらにいえば、2020年は「いのち」をテーマにした作品を3作訳しました)。

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 さまざまな作品に絵を描いているクリスチャン・ロビンソンは、『きみは たいせつ』ではじめて絵と文の両方を手がけました。『おばあちゃんとバスにのって』(鈴木出版)では、アメリカで最も優れた児童文学作品の作者に贈られるニューベリー賞と、最も優れた絵本作品の画家に贈られるコールデコット賞のオナー賞を2016年にダブル受賞しています。

 
『きみは たいせつ』で特徴的なのは、とても言葉が少ない点です。そのため今回は作品の背景にあるエピソードをご紹介しようと思います。

 星がばくはつしそうになっているページ(こころが ばくはつしそうになっても)は、じつはアメリカの子どもたちは笑ってしまう場面です。原文は、Even if you are really gassy.で、この星は太陽です。太陽はガスでできているので、「きみがgassy(体じゅうガスだらけ)だとしても」――つまり「オナラやゲップがやたら出る、調子のわるいときもあるけれど」という意味をかけたシャレなんです。下記に紹介している読み聞かせ動画でも、クリスチャン・ロビンソンはクスリと笑っています。
      
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 本書を訳す際、大いに参考にした、クリスチャン・ロビンソンによる読み聞かせ動画をご紹介しますね(クリックすると音が出ます)。印象的だった個所を一部訳してみました。

導入部分)
この本を作りたいと思ったのは「きみはたいせつ」とみんないわれているわけじゃないからだよ。自分はたいせつな存在だと、みんなが感じているわけじゃない。そんな人たちや、この本を手にとってくれた人たちに、「きみはたいせつ」と伝えたかったんだ。

読み聞かせをするなかでの話の抜粋)
「人からいやなやつだと思われたことはある? 迷惑をかけていると思われたことがある? 蚊はいつもそう思っているんだろうな。いつも人の耳のそばを飛んで人を刺すからね」


「このページの木は、ぼくが好きなシャーマン将軍の木だよ。木は、とても長生きだって知ってる? 世界で最も大きいシャーマン将軍の木は、樹齢2000年以上なんだって」

※シャーマン将軍の木は、アメリカ合衆国カリフォルニア州バイセイリア、セコイア国立公園にあるセコイアデンドロン(セコイアオスギ)で世界一体積が大きいとされています。

一番伝えたいこと)
この本を通してなにを伝えたいんだろうと考えたとき、「きみは たいせつ」というのが答えだった。ぼくは言葉だけじゃなく、それを示したかったんだ。いろんな子どもたちが、本のなかで自分自身を見られるようにしたい。登場するすべての子が、たいせつだとわかるようにね。いろいろな視点や経験を通して「いのち」を表現したかったんだ。

そして一番重要なのは、ぼくたちはみんな、どこかでつながっているということだよ。

どうして「きみはたいせつ」という言葉を聞くのがたいせつだと思う? 子どもにも大人にも、自分がたいせつな存在であることを知るのは重要だ。

成績がいいとか、トロフィーをいくつとったとか、そういうことじゃなく、きみが存在することそのものがたいせつだからね。きみがいるからこそ、きみはたいせつなんだ。

自分はとても小さくて、宇宙がとても大きいと、そのことを忘れがちだよね。でも、どんなに小さくても、どんなに近くにいても遠くにいても、たいせつに思うし、愛すべき存在だよ。

子どもたちにこのメッセージを聞かせることは重要だ。子どもは未来だからね。もしも、小さいときから「きみはたいせつ」と聞いて、それを信じられれば、この世界はよりよい場所になると思うんだ。

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 日本の子どもたちに、「きみは たいせつ」というメッセージが届きますように!
                              横山和江


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