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障害があってもなくても誰もが楽しめるユニバーサル・ミュージアムは、鑑賞側が「発信する」美術展

滋賀県立美術館で開催している「”みかた”の多い美術館展」に行ってきました。

”みかた”の多い美術館展の看板。この展覧会は、「見る」だけじゃない。

「見る」だけではないユニバーサルな展示への取り組みは、現在、世界最先端の取り組みです。

美術展というと、黙々と作品を見て、足の裏を痛くして帰ってくるものだという印象があります。
友人とジェンダーについてわいわいお喋りしながら鑑賞していたら、ごっつ怒られたこともあるので、基本的に美術館ではお喋りしてはいけないのです。

そうすると、視覚障害者にとって美術館は単に足音が響くだけの空間なのでは……。

「”みかた”の多い美術館展」では、展示に説明文をつけずに、あえて一般の人の感想を表示してありします。
わくい犬は、説明文があるとつい展示品はそこそこにして説明文に見入ってしまうのですが、それじゃせっかく実物を見に来ている意味がないですね。この展示では、「美術館は何をするところなのか」に立ち返らせてくれました。

展示作品に対する感想の数々がポストイットで貼られています。専門家による解説はありません。

実際に触れる作品もたくさんありました。
展示物を見て、触って、感じたことをディスカッションするよう促す構成なのです。
わくい犬はいつもの通りひとりで行きましたが、これは絶対に誰かと一緒に行ったほうがいいです。

スティックで焼き物を叩く楽器が置いてあります。
さまざまな形をしているので、それぞれ異なる音が鳴ります。
「僕はたまーに立派カエル」。横綱みたいなしめ縄を閉めたカエルの焼き物。
これももちろん触れます。
芸術作品は非日常な形状のものも多いので、直接触れることには大きな意味がありますね。

そしてなによりわくい犬が感動したのは、上映していた映像作品です。
『聞こえない木下さんに聞いたいくつかのこと』という作品で、作者である美術家の百瀬文さんが、ろう者の木下さんにインタビューをするというもの。上映途中からの入場ができないのですが、その理由は見ているうちにわかりました。
点字などのサポートが必要な方には対応してくれるそうなので、、ぜひスタッフの方に配慮を申し出て欲しいと思います。

あまりに感動したものの、ネタバレは絶対に言えないしフラストレーションを溜めていたところ、百瀬さんのサイトを発見し、思わずファンメールをお送りしました。
すぐにお返事をくださり、このようなことをおっしゃっていました。

わたしはアクセシビリティというものを「みんなが同じ経験を平等にできるようにする」ためのものではなくて、「同じ出来事をそれぞれが違うやり方で経験する」ことをいかに尊重できるかということなのかなと思っています。
その人の身体の特性によって、この経験をすぐに理解できる場合もあれば、時差がある場合もあるということを、むしろ考え直すような機会になればいいのかなと思っています。

現代アートというのは、造形そのものにあらゆるメッセージがこめられているものですが(って美大で習った)、この作品も、さまざまなことを考えさせられました。

さて、感動にうちふるえたあと、レンタカーを飛ばして、近江八幡へ。
そこでは「蝕の祭典『ユニバーサル・ミュージアム さわる!めぐる物語』」を開催していました。

ボーダレス・アートミュージアムNO-MAの入口にかけられた看板。
古い木造の建物に、赤、青、黄、緑の図形でデザインされたビビッドな看板のコンストラクトが印象的


こちらは2箇所の会場で開催されています。近江八幡は古い町並みが残っていることで有名で、会場となっている場所も古民家を改造した味わいのある建物です。

思う存分触っていい彫刻の数々。
iPhoneのカメラは性能がいいのでしっかり写っていますが、実際は照明がかなり落とされていて、部屋はとても暗いです。晴眼者も視覚障害者と同じような状況で作品に触れる取り組みなのでしょう。

等身大の彫刻など、ここにある芸術作品すべて触れます。
床の間にギッシリ敷き詰められた陶器の白い鈴。
動かすとカラコロと音が鳴ります。

別会場でも触れる展示がいっぱい。
高松塚古墳の壁画レプリカを触れる展示も!

高松塚古墳の壁画レプリカ。壁が剥がれた凹凸も再現されています。
暗闇に立つ僧侶の後には、蛍光塗料で書かれた漢字が散らばっています。

ちなみに同じ建物にあるナッツ屋さんのナッツスムージーが美味しいです。

どちらの建物もバリアフリーになっていて、車いすで入れます。

現代アートって難解なので、敬遠されがち。でもユニバーサルになったことで、一般の人にもすごく敷居が下がったように思います。
小難しいことを考えなくても、自分が感じたいまま、感じていいのです。

鑑賞者がお客様になるのではなく、主体的に表現するのがユニバーサル・ミュージアムの特徴なのかもしれません。

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