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羽化

ちょう【蝶】
鱗翅(りんし)目の昆虫。二対の美しい羽で、花から花へと蜜(みつ)を吸って飛ぶ。種類が多い。幼虫は青虫・毛虫。ちょうちょう。

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【蛾】
蝶(ちょう)に似た昆虫。主に夜、灯火を求めて活動する。幼虫は毛虫・芋虫・螟虫(ずいむし)など害のあるものが多いが、蚕もこれに属する。

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青い空を初めて見た。青すぎて怖い。
この世に生まれた頃の記憶は無いが、何億分の一個の個体として生まれたことは知っている。
何億個分の私を、一体誰が見ているのだろう。
何億個分の私は、確かにここに存在している。
生まれて間もないのに、生まれ変わることを考えている。
周りの景色は真っ白で、同じ形で、同じ色。当然私もそう。
私種が与えられたノルマは、花から花へ蜜を運ぶこと。表向きはね。
模様はシンプルで洗練されていること。飛ぶ時は常に美しく舞うこと。散る時も美しくあること。これが裏向きのノルマ。
「あぁ、めんどくさ」
みにくいアヒルの子に憧れてはダメだろうか。
誰かのために生きるのは好きじゃないし、私だけの体だから、私好みの模様でいたい。
蚕の私をみんなこぞって「綺麗」と言う。そんな自分の体に嫌気が差してきた頃、私の体の色が徐々に変わってきた。みんなと違って少し嬉しくて、少し誇らしい気持ちになった。


みんなと違うことが、自分らしさだと思っていた。
綺麗な真っ白な羽を広げた仲間達は、私を置いて、飛び立っていく。
私は、依然として蚕のままであり、いやでもこれこそが私なのだと言い聞かせていた。人と違っていいじゃないか。と。
人と違うことこそが正義であるのに、どうしてこんなにも胸騒ぎがするのだろう。
人と違うことこそが正義であるのに、どうしてこんなにも焦っているのだろう。
答えは分かっている。しかしそれに蓋をする。聞きたくない。気がつきたくない。早く、みんなみたいに、飛び立ちたい。
行かないで。────


そしてついに、私は私に気がついた。気づいた頃にはもう手遅れだった。
私は蝶ではない。蛾だ。人間が「気持ち悪い」と豪語するあれだ。
周りから誰もいなくなった。
みにくいアヒルの子に憧れたことを後悔した。
人と違うことこそが正義、これは間違い。
自分の個性を磨くことこそが正義、これも間違い。
信じる正義を履き違えた代償を負ったのだろうか。もうあの頃みたいに「人と違っていいじゃないか」というエゴでは自分を守れなくなった。
自分の全てを愛すことこそが正義、これが正解。
自分を愛してくれる人を愛すことこそが正義、これも正解。
自分のエゴに縛られて、ずっと蚕のままだったんだな。
そのことに気がついた時、私の羽が大きく開いた。


自分らしさとは、他人に自分の個性をアピールすることじゃない。
個性なんかどうだっていい。みんなと同じでもいい。
ただ、自分の気持ちに素直になること。
それが自分らしさであり、自分を生きると言うことだ。
私は気持ち悪い模様でいる事に劣等感を抱く訳でもなく、
誇りを持つ訳でもなく、
みんなの色に染まりたいと思う訳でもなく、
染まりたくないと拒む訳でもない。

ただ自分のままで生きたいと思う。ってこと。
今日は空が晴れている。気持ちがよさそう!


あとがき

この作品は私にとって、忘れられない作品になりました。
人生に腐りそうになって、勝手に独りになって、不貞腐れて、仲間が救ってくれて、新しい自分の在り方を模索できるようになった、この転機を「蝶と蛾」という生き物を使って表しました。大嫌いな虫をテーマとしたのも、今までの自分を脱したかったからです。

撮影当日は、車が脱輪してしまい、地域の方々や、偶然パトロール中だった消防隊員の方々に助けていただき、撮影を続行することができました。私は本当に人に恵まれていると改めて感じたし、人のことをもっと幸せにしたい、優しくありたい、大切にしたいと改めて思いました。美談ではさらさらありません。ただ、私に大切なことを気づかせてくれた全ての人へ、心からの感謝を伝えたいです。これからも自分らしく、色々なことにチャレンジできればいいな…!!

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