白井烏(シライカラス)

いつか、小説書きたい。練習にお付き合い願います。

白井烏(シライカラス)

いつか、小説書きたい。練習にお付き合い願います。

最近の記事

羽化

青い空を初めて見た。青すぎて怖い。 この世に生まれた頃の記憶は無いが、何億分の一個の個体として生まれたことは知っている。 何億個分の私を、一体誰が見ているのだろう。 何億個分の私は、確かにここに存在している。 生まれて間もないのに、生まれ変わることを考えている。 周りの景色は真っ白で、同じ形で、同じ色。当然私もそう。 私種が与えられたノルマは、花から花へ蜜を運ぶこと。表向きはね。 模様はシンプルで洗練されていること。飛ぶ時は常に美しく舞うこと。散る時も美しくあること。これが裏

    • 記録的小雨警報

      「いらっしゃいませ、ポイントカードご利用ですか?」 何の変哲もない日常。特に心も踊らない。 何連勤目かは数えることを放棄した。 そんな日々が続いていて、微かに、でも確かに、人間味が欠落していくのを肌で感じる。 コンビニの店員の無愛想さに疑問を呈していた過去の自分を嘲笑いたくなった。 日が昇る前に出勤し、開店作業を黙々と行う。目は依然として開かないままであり、かといって30分で納品、新聞出し、清算業務をこなさなければならない鬼畜さで頭は冴えている。 時間に追われた様子のサラリ

      • 羨む、歩む。

        深夜のサービスエリアは、まるで別世界に来たようで好きだ。 僕は用を足しながらそんなことを考えていた。 計3回のトイレ休憩が気になって、結局、深く眠れない。 当然、窮屈な足元と、馬鹿みたいに揺れる意味の無いカーテンも眠れない要因ではあるのだが。 金もなく、時間もないのに、僕は岡山を飛び出した。 行く先は東京。 目的は無い。 ただ、東京に向かう。 憧れか?はたまた逃げたいのか? 知らない。 知らないと言っておきたい。 トイレの真横に所狭しと並べられた自動販売機がジリジリ光っている

        • 浮ついた気持ちのままのシーツの上で、

          「マジでびっくりしてる、男でも惚れるくらいカッコよかったからお前」 人生初めての恋は、こんな形で、たった一瞬で、崩れ去った。 そう言われた私の髪の毛は、彼よりも数センチ短かった。 この傷の深さを知った以上、私は今後恋愛から縁を切ろうと固く心に決めたのである。これは恋愛ではなかった。と。言葉の末尾を想像する。おそらく「女として見れなかった」や「女として見てすらいなかった」それどころか「お前は女では無い」と彼は言いたかったのであろう。正直にその言葉を受け取っていたなら、私は今こ

          華麗なきみ

          「カレー食べに行こ」 「今日気分じゃないんやけど」 「いいから。着替えて」 そう言って君はいつものように真っ白のスウェットを私に手渡す。 「群れからはみ出した白い鳩みたいに魅力的だね。すぐ行こう、もうすぐ行こう」 そう言って君は私の手を掴んで、部屋を飛び出した。 君は少し変わっていた。 カレーライスを食べる時、なぜかいつも白い服に着替えたり。 小さい頃の夢が ”おとなにならないこと” だったり。 悲鳴みたいなくしゃみをしたり。 気持ちを伝えられた時も、どこかの映画監督みたいに

          4月、アパートにて。

          もう1か月、一歩も外に出ていない。 この世界に生まれてきた意味が分からない。 それでもなお、地球上にある限られた酸素を取り込み、二酸化炭素として体外に繰り出し、日々地球温暖化の後押しをしているオレ。生きているかぎり、腹は空くので買い溜めていたカップヌードルを貪り食い、地球上にゴミだけを残すオレ。食べたら出るものは出るので、便器に座り汚物を水に流すオレ。地球に謝るべきだ。地球に住まわせてもらっているのに地球を汚してばかりでごめんなさい。頭を地面にすりすりして土下座するべきだ。も

          4月、アパートにて。

          雨宿りの方法は、眩い。

          「キミってさ、おもしろいよね」 そう言って振り返った君の顔を、 「手ー出してー!チョキ!勝ったぁー!」 そう言って戯けた君の顔を、 「これ、やばいね、、すご、、」 そう言って空を見上げた君の顔を、 僕は直視できなかった。 何故ならそれは眩しすぎるからで、 僕の目に映るのは勿体無いからで、 僕の目に映っていいものではないからで、 それでもやっぱり一番の理由は眩しすぎたから。 君の全てが。 「あ、ねぇ、キミ!何見てんの?」 「ふぇ?!」 アガツマカメラという老舗のカメラ屋

          雨宿りの方法は、眩い。

          I AM ALL YOURS

          「何読んでんの」 「貸してくれたやつじゃんよ」 「はーい」 気の抜けた返事。興味がなさそうな返事。 「これ、全然分からんわ」 「ふーん」 はたまた気の抜けた返事。興味が絶対ない返事。 「英語だし、意味分かんない。でもやたらと日本が出てくんだよね」 「意味わかってんじゃん」 「いや、TOKYOくらいは分かるでしょ」 「これ原作者日本人だから。それを英訳したやつだから」 「へ〜」 「気の抜けた返事するな!」 本が大好きな彼女は、顔を真っ赤にして、単純に怒った。 いや、お前に

          アンバランスな彼女

          お気に入りの喫茶店、といっても初めて来た喫茶店で僕はコーヒーを飲んでいる。 ミルクと砂糖を追加で注文した。 店に入った瞬間、鼻腔をくすぐるコーヒーの香り。 机や椅子は木目調に統一されている。 それぞれの机には小さな小瓶挿しがあり、色とりどりの優しい色をした花が2、3輪ささっていた。 壁にはびっしりと並べられたコーヒーカップ。 僕にはお洒落すぎる。どう考えてもお洒落すぎる。 僕はこの店の雰囲気に危うく押し返されるところだったが、なんとか入り口に近い席に留まった。 綺麗に文字が

          アンバランスな彼女

          ユリと黒電話

          「これ僕からのプレゼント」 「何これ」 「これで毎晩電話しよ」 「うっそなんで黒電話」 「うーん何でだろ」 「え?」 「すんごいロマンチックじゃん、相手のこと思ってダイヤル回すの。0、6、0って」 「まあね」 「それにさ、忘れてほしくないんよ僕のこと」 「こんなことせんでも忘れんよ」 「こんなことせな忘れる!」 「というか忘れられたくないの表現の仕方が変なんよ」 私の元に訪れたサンタクロースは少し変わっていた。 変わっていたけど、 確かに変わっていたけど、 そういうところが

          胡桃チョココロネ

          店内に漂うバターの甘い香り。 ここ最近は特に、鼻腔が甘さに過剰反応。 それもそのはず、私は恋をしている。 断言してもいい、私は恋をしている。 毎日昼の11時に決まって来るお客さんに、私は恋をしている。 そのお客さんは決まってチョココロネを2個買って帰る。 期間限定の季節のパンには目もくれず、彼はチョココロネにゾッコンである。 彼にそこまで好かれるチョココロネ。 コロネよ、彼を魅了する方法を教えてくれ。 コロネよ、確かに君はフォルムがかわいいな。 コロネよ、求められる時どんな心

          嫌いな季節

          「なー、あのさぁ」 「うん、なに?」 「もう3月終わるな」 「うん、せやな、終わるなぁ、、てかさぁなんで3月から4月になる時ってさぁ、わざわざそんなこと言うんかな」 「あぁ、たしかに」 「そんな名残惜しい?3月終わんの。そんな3月好き?」 彼女はストローで、カップの底に残った、ギリギリ飲めるか飲めないかくらいに浅くなった、桜色のフラペチーノを巧みに吸い込みながら僕に言った。 「いや、名残惜しいとかではないけどさ、なんか新学期始まるし、心機一転的な感じやろみんな」 「ふーん」