#01 新しい人生のはじまり
2019年1月、夫と一緒に離婚届を出した。
周りからは、婚姻届を出した夫婦のように見えていたかもしれないほどに、2人でケラケラと笑いながら市役所を出た。
「今までありがとう。これからお互いがんばろうな!」
「うん。応援してる。」
私たちには子供が居なかった。というか、子供を産んで育てる余裕がなかった。だから、これからの人生はお互い自分のやりたいように生きよう。という思いで10年間の結婚生活に終止符を打った。
43歳。2人で育てていた5歳のウサギは私が引き取った。父は母に「家を出て20年、残ったのはウサギ1匹か」とぼやいたらしい。
実際は、ウサギ1匹と生活苦による借金も背負っていた。
そんなことは両親には秘密だ。これ以上心配かけたくなかった。両親は「いつでも帰っておいで」と言ってくれたけど、私が20年前に実家を出てから、両親は2人用の小さな家に越したため、私の居座る部屋などない。
40を過ぎて1人になる娘を、可哀想に思っただろう父は、当面の生活資金として少しまとまったお金をくれた。そのおかげで私は家を借り、新たなスタートを踏み出すことができた。
43歳にして、はじめて一人暮らしをした。実家を出て20年も経つけれど、いつも誰かがそばにいてくれて、私は一人暮らしなどできない人間だと思っていたけれど、実際やってみると快適この上ない。もちろん、最初の数ヶ月は時折襲い掛かる不安と寂しさで涙が溢れる時もあったけど、それ以上に、これから始まる新しい人生にワクワクしていた。
私は2007年にホームページや印刷物をデザインする仕事で個人事業を開業していた。結婚していた間も続けてはいたけれど、クリエイターとして活動していた夫の仕事のフォローや家事を優先していたので、かなりセーブしていた。
「これからは、自分一人で食べていかなくちゃ」
そう思って、昔からのお客様へDMを送り、仕事を本格的に稼働させる報告をすると共に、定期収入を得る目的で平日夜と週末にアルバイトをすることにした。
運良く近所のアパレルショップの仕事が決まる。アパレルショップなんかで働いたことはなかったけれど、どうせバイトをするなら、全く別の職種で、できれば人と接する仕事を選んだ。自分の仕事はほとんど家で孤独な作業な上、一人暮らしとなると、誰にも会わず話さない日が続くからだ。
「未経験」、「おばさん」、「ぽっちゃり」の3拍子が揃っていたのに、面接を通していただけたのは、本当にありがたかった。よほど人が居なくて困っていたのかもしれない。
理由はともかく、ここでの経験は普段の仕事だけでなく、後の勉強にも現在の仕事にもにかなり役に立っている。
こうして2019年春、私の新しい生活が始まった。ゼロからというよりも借金を抱えてマイナスからのスタートだ。けれど幸いなことに、DMを見たお客様からいくつか連絡をいただき仕事をもらった。慣れないバイトも、スタッフのやさしさに救われて、忙しくも楽しい毎日を過ごしていた。
ーこれはまだ診断士という資格に出会う2年前の出来事ー
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