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水晶を探しに行きたい!

子どもの頃から、
きれいな石がスキでした。

特に、ひんやりとして透明で、
光に当てるとまばゆく輝く、
水晶が大好きでした。

どうしてこんな美しい造形が
天然自然にできるのか、
今もって不思議です。


ボクの住む名古屋の下町には
道ばたの砂利はあっても、
水晶なんてあるわけがない。


でもボクは知っています。
小指位の小さなものですが、
砂の中に水晶が埋もれている
秘密の場所を。

そして何年かに一度、
ある日突然、突発的に
水晶を探しに行きたい!
と熱情にかられるのです。

そう、ボクが行きたいのは、
世界遺産でもなく、
有名観光地でもなく、
昔、友だちと行った、
砂に埋もれた水晶が眠る、
あの約束の地



国鉄中央本線70系電車に乗って約束の地へ(1974年)

そこは、岐阜県N市N町。
同じ石好きの友人と共に、
ボクの住む街の駅から、
70系電車に乗って2時間。


そこからローカル私鉄の
かわいい電車に乗り換えて
30分。


たった一両のローカル電車で無人駅へ(1974年)

ホーム一面だけの、
小さな無人駅で降り、
そこから田舎道を、
ひたすら歩いて2時間。

駅前からはるかに見える、
標高500ほどの山の中腹に、
その約束の地はあるのです。


その行程がまたステキ。

田んぼは一面の蓮華草れんげそう
せせらぎには小魚が踊り、
山のふもとの森に入れば、
可愛い小鳥たちの囀りが
ボクたちを迎えてくれます。


駅から歩いてほぼ1時間半。
緑繁った山の中腹に現れる、
そこだけ木が無い、
土がむき出しになった荒地。
その奥には崖に挟まれた洞窟。

そう、こここそ、約束の地!
この荒地の土の上や中に、
美しくも透明な水晶の結晶が
ひっそりと眠っているのです。



実はここは、昔の鉱山跡地。
長石という鉱石を採掘し、
いらない石や土を捨てた、
通称「ズリ」と呼ばれる、
鉱山のゴミ捨て場なのです。

そんなゴミ捨て場に転がる
純粋で透明な水晶。
ボクたちは地面に這いつくばり、
それを懸命に探すのです。


水晶の眠る、ズリ


それはまさに、本物の宝探し

水晶はあまりに透明なため、
ボクたちは顔を揺らし、
水晶のきらめく面が、
一瞬陽光で反射するのを見つけ
拾い上げるのです。


陽光に光る水晶


見つけた時の感動と言ったら、
もう、言葉にできませんでした。

売っても10円にもならない、
小さな小さな水晶。
決して宝石にはならない、
小さな水晶のかけら。

でも、大きくても小さくても、
これが天然自然の水晶!
ボクたちだけの宝物!



残念ながら、今はこの場所は、
立ち入ることができません。

そもそも山の中とは言え、
誰かの所有地。
許可なしに入る事は違法です。


でも、この山から流れる小川や
付近の山の小川は、
入る事ができます。
そこにはきっとまだひっそりと、
水晶が眠ってることでしょう。



今はもうない、あの無人駅

こうして昔を思い出していると
実は、ボクにとっての宝物は
自分で見つけた水晶はもちろん
むしろ、そこまでの電車旅や、
田んぼ一杯のレンゲ草の花や、
小川のサラサラとした囁きや、
小鳥たちの歌声と共にあった
あの少年時代の、
水晶探しの旅
そのものだったんだなあ、と。


あの、ワクワクした時代へ、
キラキラとした自然の中へ、
もう一度、行ってみたいと、
心から思うのです。



あの頃ひろった水晶たち


映像作家 増田達彦 2024.03.31.