旅の宿…仕舞い風呂

かつて、日本中をテレビに釘付けにした朝のドラマ、「おしん」の撮影クルーが定宿にしていたというお宿が、山形県酒田市にある。

心尽くしの夕食の、中でも、初めて食べた蕎麦雑炊が忘れられない。蕎麦の実を形のまま、野菜やキノコ、鶏肉と炊いたしみじみ美味しいお味で、いつか是非再訪したいと思いつつ、行きそびれている。

愛想の良い、女将さんが仕切る、家族経営のこじんまりした居心地良いお宿で、連日、雪の中の撮影を終えたスタッフや役者さんが、どれほど疲れを癒されたか、想像ができた。

夜更け、お風呂に行くと先客が。「失礼します」「どうぞどうぞ」とご一緒させていただく。先に洗い場に上がった女性が、ふと気づくと、自分の体を洗うついでに、鏡や棚、ガラス戸をチャチャっと拭っている。

色白のふくよかな女性は、先程和服姿で給仕をして下さった女将さんだった。

仕舞い風呂の女将の仕草が、お宿の、人を惹きつける心地良さのすべてを語っていると思われた。

当分旅は叶いそうもないけれど、また行ってみたいお宿、今は無くなってしまったけれど忘れ難いお宿、を書き留めておこうと思う。