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コサックダンス:Torquayにて

20代のひと夏、イギリス南西部デボン州の街、Torquay で過ごしたことがある。アガサ・クリスティー生誕の地で、多くの小説の舞台にもなった、静かな海辺の保養地である。

6歳のお嬢さんのいる若い夫婦の家にホームステイをして、午前中は、各国から来た人達と共に英語クラスで学んだ。8〜10人程のグループにテスト分けされ、サロンのような居心地良い部屋で、ディベートやディスカッション、ロールプレイなど、充実の時間を過ごした。学生もいたし、キャリアを積んだ社会人もいた。

ある日、ホールで自然発生のパーティとなり、誰かがお国の言葉で歌い始めると、次々に各国の歌やダンスが続き、みんな手拍子で調子を合わせて盛り上がった。

すると、普段寡黙だった若者が、やおらバレーダンサーのようにひらりと飛び上がって中央に進み、腰を低く落として踊り出した。長い手足の、優雅でしなやかな動きと、日頃の姿とのギャップにみんなびっくり、彼は一瞬でヒーローになった。

連日の痛ましいニュース映像を見ていて、騎馬民族コサックの舞踏(ronak ホパーク)を魅力的に踊ってみせてくれた、あのもの静かな美しい顔立ちの若者を思い出した。彼も今、侵略者から家族と国を守るために、武器を手にしているのだろうか。

世界が注視する中で続く、この理解し難い狼藉。たったひとりの理不尽な執着心のために、地球が住めなくなる惑星にもなり得る事態だ。

この侵略の果てに幸せになる者が誰かいるのか。ISSを打ち上げる技術があっても、宇宙からの視点で、この惑星の未来を考えることはないのか。数多の過ちを重ねてきた人間の歴史を逆行するかのような映像に、呆然としている。





 

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