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リターナブルびん、きちんと返せてますか?びんリユースの根幹を支える回収システムとは

前回まで、SO BLUE ACTIONの取り組みの事例を通して、リターナブルびん、びんリユースの仕組みが、循環型社会の実現に向けて大きな可能性を持っていることをご紹介してきました。

しかし実は、まだリターナブルびん、びんリユースについて半分しかお話しできていません。今回取り上げるのはびんリユースの仕組みの復路の部分。リターナブルびん、びんリユースの仕組みの根幹を支える、回収システムについてご紹介します。

お話を伺ったのは、東京壜(びん)容器協同組合の組合員であり株式会社京福商店の代表取締役である笠井聡志(以降、笠井)さん。東京壜容器協同組合で考案し、実践しているガラスびん回収システム『東京システム21』。

SO BLUE ACTIONの1つである、東京23区対象のびんリユース実証事業『足柄聖河』の取り組みでも、このシステムを利用しています。『東京システム21』はどのように構築されたのか、そして、今、東京都のガラスびん回収にはどのような課題があるのか、お聞きしました。

※リターナブルびん、びんリユースの価値を再定義する、
SO BLUE ACTIONの記事はこちらから
https://note.com/binkyo_glass/n/n0b13a181cfad

※東京システム21を活用した実証事業の記事はこちらから
https://note.com/binkyo_glass/n/n22436bc1aa21



会社には回収されたさまざまな種類のびんがキレイに整理されて置かれている

びんのリユースの根幹を支える
「びん商」という存在

東京壜容器協同組合では、酒屋さんに返却されるガラスびんを回収し、リユースすることを主業務としています。

「昔、ガラスびんが貴重な存在だったころは繰り返し使うことは当たり前でした。しかし、紙パック、缶、PETボトルと容器の種類が増えていく中で、ガラスびん商品は徐々に減っていき、回収を行う私たち『びん商』も活気がなくなっていきました」

他素材容器が台頭した要因として、"モノ"を売る場所が変わったことが大きいと笠井さんはいいます。

「例えばお酒では、酒屋さんからスーパーへと売り場が変わったことで、容器はスーパーが売りやすい素材に変化していきました。リユースを前提としたリターナブルびんは回収する必要があり、回収スペースの確保が必要です。また、回収に際して費用がかかります」

みなさんは、酒屋さんにビールびんなどのリターナブルびんを持っていくと返金されることはご存知でしょうか。リターナブルびん入り商品は、あらかじめデポジットのようにびん代金が含まれた金額で販売されており、ガラスびんを戻すことで返金される仕組みになっています。

「大手のスーパーなどではこの返金処理ができないそうです。必然的に、スーパーでは返金処理の必要ない容器に入った商品が積極的に売られるようになったわけです」


行政回収では「すばやさ」と「丁寧さ」が求められる

窮地のびん商を救ったのは
自治体による行政回収

大きな転機になったのは、環境意識が高まったことによるリサイクル・リユースの推進です。

「今ではゴミの分別は当たり前になっていますが、昭和の時代にはびんも缶も他のゴミと一緒に捨てられていました。これらのゴミは埋め立て処分場に持ち込まれていましたが、当然そのままで良いわけがありません。昭和の終わりから平成にかけて、自治体は回収事業への取り組み方を模索するようになりました。」

昭和63年10月には、他の自治体に先駆けて目黒区内の4ヵ所で行政による試験回収が行われました。

「この試験回収で、ガラスびんの4割くらいはリターナブルびん、その他はリサイクルに回すワンウェイびんであることがわかりました。この行政回収されたリターナブルびんを、より品質の良い状態で抽出・確保しようと考えて生まれたのが、後の『東京システム21』です。もちろん、行政回収の他に酒屋さんからの回収も並行して行っていましたが、回収量は減っていく一方でしたので、私たちびん商にとって行政回収の推進は、事業を継続する上で本当に救いになりました」


回収したびんを色別に選別

東京23区のガラスびん回収コンテナが
黄色いワケ

行政回収のルールは自治体によって異なりますが、その多くが似通っている印象を受けます。ガラスびんの回収ルールは、東京壜容器協同組合が策定したのでしょうか。

「京福商店の先代社長である私の父が目黒区の検討会でヒアリングを受けた際に、『ガラスびん、特にリターナブルびんは質を下げないためにも、コンテナに入れた状態で回収するのが良い』と提言したそうです」

ガラスびんをビニール袋に入れて出されると、回収する際に袋の中でガラスびん同士がぶつかり合い、欠けてしまう恐れがありました。先ほど述べた通り、当時は行政回収したびんの4割ほどがリターナブルびんだったので、先代社長はできる限りリターナブルびんの品質を保てる状態で回収したいと考えたのです。

「目黒区の行政回収では、事業の立ち上げ当初から私たち京福商店が二人三脚で取り組ませていただきました。資源としてのリターナブルびんの重要性や取り扱い時のコンテナの重要性を区職員に十分にお伝えできた結果、目黒区ではガラスびんは黄色のコンテナ、缶は青色のコンテナで回収することになりました」

ガラスびんをコンテナで回収するか否か、コンテナの色分けをどうするかなど、回収ルールは各自治体が決めることですが、先行していた目黒区の事例が他の自治体にも参考にされたそうです。

「目黒区での先行事例がありましたので、各地域のびん商からは『自治体にガラスびんの行政回収の件で呼ばれたがどうすればよいか』とよく相談されました」

その際、笠井さんたちは目黒区で培った経験や知識を惜しみなく提供。各自治体に呼ばれたびん商が、そのアドバイスをもって行政回収のルールづくりに参画した結果、黄色など暖色系がガラスびん、青色など寒色系が空き缶、というコンテナの色分けが多くの自治体で採用されることになったそうです。

「東京23区内でのガラスびんの行政回収ルールが似ているのは、東京壜容器協同組合が主導したからではなく、各自治体の行政回収に各地域のびん商が立ち上げから参入できたという理由が大きいです」

回収システムは
仕組みを作っただけでは運用できない

ガラスびん行政回収の黎明期から、笠井さんを始め東京壜容器協同組合に加盟するびん商が自治体と共同で、資源としてのリターナブルびんの最大活用を目指して、リターナブルびんの品質を維持しながら行政回収できるように作り上げた仕組み。これこそが東京23区内で運用されている『東京システム21』なのです。
とはいえ、リターナブルびんの品質を維持したまま回収するには、システムだけではなく、作業員の知識やノウハウがとても重要です。

「教育に関してはとても大きな課題です。特に若い世代の作業員はリターナブルびんという存在も意義も知らない人が大半です。ですから、ガラスびんを回収した後のリターナブルびん抽出作業を担当してもらいながら
・リターナブルびんの種類
・リターナブルびんは少しでも欠けてしまうと再利用できないこと
・ガラスの破片が飛んで人にケガをさせてしまわないように荷扱いは丁寧にすること
など、リターナブルびんの基本知識を実践で学んでもらっています。
またリターナブルびんの以外のガラスびんでは、異なる色が混ざるとリサイクルできないので、白色、茶色、その他の3つに正確に分けるよう指導しています」

回収業務において、一番重要なのはやはり“人”。教育を行い、特にリターナブルびんの意義を知ってもらうことに力を入れているといいます。


行政回収され、ケースに積み上げられた足柄聖河

行政回収は清掃事業?
それとも環境事業?

「SO BLUE ACTIONの説明を受けた時、私たち東京壜容器協同組合の存在意義が問われているなと思いました。リターナブルびんの回収こそが、私たちびん商の商売なわけですから」

『足柄聖河』は従来の酒屋さんを通さない、EC販売での新しいリユースの仕組みを構築しようという試みでした。この仕組みを成り立たせるためには、回収が一番大きな課題です。

「私たち東京壜容器協同組合が培ってきた『東京システム21』を活用し、行政回収の中から確実にリターナブルびんを抽出できないと成立しませんし、リターナブルびんの価値を誰よりも知っている私たちが協力しない理由もありません。『ぜひやりましょう』と即答しました」

この協力により、足柄聖河はEC販売をスタート出来たのです。

※東京システム21を活用した実証事業の記事はこちらから


回収時にリターナブルびんがあった際は素早く取り分ける

現在のびんリユースの課題についても伺いました。

「今後、必ずリターナブルびんは増えてくると思います。しかし、まだメーカー、流通、そして消費者が本気になっていない状態ではないでしょうか。環境負荷、健康問題、海洋汚染、どれをとっても一番優れているのはリターナブルびんです。世界的に見てもPETボトルに対して『NO』が突きつけられているにも関わらず、日本ではなかなか大きな変化が生まれない状態には歯がゆく思っています」

「ただ、リターナブルびんが増えても、昔のように酒屋さんに戻すことは難しいので、私たちの『東京システム21』による行政回収の仕組みが重要になると考えています。行政回収の中で、いかにリターナブルびんの品質を保ったまま確実に抽出できるか。これこそが、リターナブルびんが再び私たちの生活の中で当たり前の存在に戻れるかどうかの、重要なポイントだと思います」

SO BLUE ACTIONの取り組みの1つに、東京家政大学内のコンビニで足柄聖河を販売し、そのお店で空きびんを回収するという事例があります。この活動についてはどのようにお考えでしょうか。

「お店で買って、お店に戻すことがベストな形ですよね。例えば、夜の帰宅時にお店で買ったリターナブルびん入り商品を、朝の出勤時にそのお店に戻すことができれば、私たちの回収の手間も大きく軽減します。回収トラックが出すCO2排出量も削減できるという環境負荷の面でも、リターナブルびんの質を保つという意味でも理想的ですよね」


リターナブルびんの今後の利用拡大について熱く語る笠井さん

東京23区は『東京システム21』によってリターナブルびんの行政回収が機能していますが、行政回収の基本は、各家庭でルールを守って排出することです。回収してから分別しようとすると、人手も時間も必要になり、コストも環境負荷も大きくなってしまいます。

「現代では、環境のために分別排出しましょうという意識を多くの人に持っていただけていると思います。ここでもう一歩踏み込んで、ガラスびんの行政回収は『ゴミの廃棄』なのか『資源の返却』なのか、『清掃事業』なのか『環境事業』なのか、考えていただけたら嬉しいですね」

学校や銭湯にある牛乳びんや、居酒屋のビールびんなど、私たちの身の回りにはまだまだリターナブルびんが活躍しています。笠井さんは、これらの存在意義を丁寧に説明することが重要だといいます。

「『リターナブルびんは返却するもの』と認識し、丁寧に扱ってもらえるように、積極的に伝えて、丁寧に出していただいたリターナブルびんの品質を保ったまま回収する。この『東京システム21』の仕組みを維持し、改善し続けることが私たちの使命です。」

今回、びんリユースの屋台骨である回収業務を担当しているびん商のお話を伺い、『リターナブルびんは廃棄するのではなく返却するもの』『びんのリユースは回収して初めて機能すること』を知ってもらう重要さに改めて気づきました。

普段何気なくガラスびんを排出していませんか?その手に持ったガラスびんは、リユースできるリターナブルびんでしょうか?リサイクルできるワンウェイびんでしょうか?きれいにすすいで、丁寧にコンテナに入れていただけてますでしょうか?
明日ガラスびんを持ってゴミ置き場に向かうとき、一瞬でも気に留めてもらえると嬉しいです。


株式会社京福商店 代表取締役 笠井 聡志さん

株式会社京福商店
代表取締役 笠井 聡志
https://kyo-fuku.jp/
ガラスびんの回収・選別・再資源化事業


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