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卵子凍結を考えてみようかなと親友に言ってみた日 2024/3/20


特に親しく付き合っている友人を、あえて「親友」として書いたり呼んだりするのは少し気恥ずかしいのだが、ほかにぴったり関係性を説明できそうな言葉が無い。つまり、親友、であるNとは、いま住んでいる大阪から東京に帰省した時に必ず会うようにしていて、この日もそれで池袋にいた。

祝日で、どこもかしこも人だらけ。駅から少し遠い大箱のカフェに入りなんとか席を確保した。広い空間に人々の話す声が折り重なって、ざわざわという音になっている。

Nとわたしは2人でいると一分一秒と黙っておらず、あらゆることをとにかく話しまくる。カフェの前の昼食時点で大まかな近況報告は済ませ、次は互いのホットなトピックについて掘り下げ語り合うターンだ。今日はわたしが新たな恋についての報告をしたところで、話題の中心をかっさらった。

Nは20代前半に結婚し、そこから10年の間に3人の子をもうけている。
一方のわたしは未婚で、結婚や出産を強く希望していないがパートナーの存在は重要だと思っており、ふらふらと伴侶を探し続けている。しかしなかなか良縁には巡り合えず、その定着率は低い。キャッチ&リリースの繰り返しである。

そんなふたりだから、わたしに恋の予感があると恰好の話のタネとしておおいに盛り上がるのだ。今回もいつものように状況を説明し、意見を交換し、このケースにおける今後のわたしについて語り合う。

Nの意見はとても現実的で、恋愛だって人間関係のひとつでしかないと視点を人生に置いて大局を見据え、しかし乙女心にも配慮しつつキレッキレの女子トークを展開する。


めちゃくちゃ喋るから早い段階で飲みものはもうない。おかわりを注文する。夕方に近づきまだまだ人が減る気配は無い。ショーケースに並ぶケーキを頼みそうになり、グッとこらえる。


Nはもともと自分の意見をしっかり持つタイプで、好き嫌いがはっきりとしている。思いやりと愛が深く、道義と筋の通った態度を貫く。快楽に流されずすべきことをきちんとなす。かっこいい女なのだ。すべてわたしが苦手でできないことでもある。
あれは高校2年生、同時期に同じハンバーガーショップにアルバイトに入った。わたしが苦手な仕事を要領よくこなすNを横目で見て、改めて憧れたものだった。

こうして友人関係こそ長く続いているが、わたしはNに自分の近況を報告するのがあまり得意ではない。言いたくないわけではなく、正常な状態で語ることができないのだ。
順を追って状況を説明し、理解のために必要な情報を伝えていくのだが、その中には良いものもあれば悪いものもあり、ちょっぴり自慢したいこと、判断ミスや欲にまみれた自分勝手な行動など、あまり人に聞かせたくないような内容も含まれる。
かっこよく生きている彼女に、わたしはいつもかっこ悪い報告しかできていない。良く見られたいし、幸せで順調な報告がしたい。なのにわたしは。

かっこ悪い自分が恥ずかしくて、ちょっと良い印象を持ってもらおうと言葉を選ぶとなんだか今度はちょっと嘘っぽくなったりして、見栄を張ってしまう。よりかっこ悪くなってしどろもどろが加速。報告タイムはいつもちょっと居心地が悪い。

2杯目を干す頃にはあらかた話し尽くし、白熱のヤマも過ぎていた。

ふぅと落ち着き、少し経ってNが言う。
「もったいないなー、ひーちゃん向いてるのに」
わたしは下の名前「ひとみ」から取って、「ひーちゃん」と呼ばれている。

何が?と問うと、子育て向いているのに、と言うのだ。驚いた。
わたしは昔から色々な人に子育てが向いていそうだと言われてはいるのだが(わたしは肝っ玉母さんみたいな見た目と性格だ)Nに言われるとは、Nがそう発言するとは。わたしがなぜ子どもを欲しいと言わないのか、わたしよりわかっていそうなNが!

「ひーちゃんは面白がれるでしょ、どんな形になったとしても。たとえシングルマザーだったとしても、実家でママさんとお姉ちゃんと一緒に暮らして、ひーちゃんが稼いで、ママさんもお姉ちゃんもものすごく子どもを可愛がってさ。」

Nはわたしの家族のこともよく知っている。孫を産まないわたしの代わりに自分の子どもの顔をうちの母に見せてくれている。子どもが大好きな母のために。

「向いている」評価は初めて耳にしたわけではない。そして、言われてもいつも何も感じない。しかし今日はほんわりと嬉しい。
嬉しいと思えたことも嬉しい。それにNの言う未来像はわたし自身も容易く想像できた。保育園の園長を長年しているNの言葉は客観的にも信頼感がある。浮かぶのは幸せそうな母の顔や、なんだかんだ色々してくれる姉の笑顔だ。

刻まれてしまった。どうやらわたし、子育てに向いている可能性があるらしい。


まだまだいくらでも話せそうだが夜になった。わたしは次の予定である飲み会の約束へ向かうため席を立ちNと別れる。子を孕んだらもちろんお酒は飲めない。いまのわたしからお酒を切り離すとどういう暮らしになるのか、考えながら歩いていたら、すぐ飲み仲間と落ち合えて、忘れた。


今日の頓挫

卵子凍結は、今年のお正月にイトコと話していて勧められたことをキッカケにゆるりと考えていた。しかししばらく忘れていて、ここ1か月くらいでそういえばと再検討していたのだ。現時点で子どもが欲しいとは思っていないが、いざ欲しいと思った時にどうする中年!高齢出産!36歳の本年のうちに一応保存しとくか!?

Nに少し伝えて一緒に調べてみたらびっくら高額だったので、再度棚に上げた。そこまで本気度高くないので、たぶんしない。

少子化が加速する理由の一端を体感した瞬間だった。

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