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母に聞いてみたいことがあった日 2024/4/25


しばらくぶりに晴れ、溜まった洗濯ものが母により洗われ干された。その間わたしはコッテリ寝ていて、飛び起きて仕事を進めた。

お昼ごはんを一緒に食べに行こうと母と家を出る。

その前に少しお墓参りに付き合ってよ、と母を誘い、スーパーで供花を一対買ってお寺へ向かった。実家とお寺は目と鼻の先で、帰省ついでに先祖にヤッホーしやすくて助かる。
お寺の奥さんにお線香の火付けを頼む。4本お願いします、400円です、1000円渡す。お釣りは結構ですので、あらすみません。ああお墓参りに来たなあという恒例の行事をこなす。

お線香、供花と鋏とビニール、桶と柄杓を手分けして運び、祖父と父のおさまっている墓石の前へ歩く。途中の木にさくらんぼがなっていて、母と2人で鳥に食べられちゃうねえなんて話しながら。

墓石の前につくと忙しい。母は花を囲んでいたビニールを切り開いて備え付けの花瓶に合わせて茎をカットし、花の顔が見えるようととのえ、不要な葉をもぎ生ける。わたしはその横で湯呑みを洗い水を注ぎ、墓石が汚れていれば軽く拭くし、暑い日なら脳天からパシャリと水をあびせる。
この役割分担はいつものお決まりで、母が花を扱うし、わたしが掃除と水係。チームワーク良くテキパキこなす、この時間がなぜか好きだ。

場がととのったら最後にお線香を供え、せーので手を合わせ、しばし沈黙。

我が家はこのお参り行為を「のんのん」と呼び、前述の準備が終わると、さぁのんのんしましょ、と皆揃ってする。

のんのん中、皆はいったい何を考えている、もしくは伝えているのだろうか?

わたしはもっぱら挨拶をしている。
じーちゃん、パパ、やっほー!げんき?暑くなってきたねー、久しぶり。わたしはとりあえず元気だよーん!
大体それくらいの尺で周りがのんのんし終えている気配がするので、慌てて、んじゃまた来るね!で終わってしまう。本来なら近況の報告などすべきかもしれないが、なんだか、こう、何を言っていいのか分からないのだ。祖父も父もわたしが小さいころに他界していて、どういう会話をしていたのかまったく覚えていない。記憶としてはほとんど話したことがないのだ。

この墓に眠る「祖父」は母の父親だ。そして一緒に墓にいる「父」はわたしの父、母から見た夫で、つまり義父と義息子がふたりきりで同じ墓に入っているのだ。気まずくはないのだろうか。酒盛りでもしてるかな。(参加してみたい、それなら色々話せそう)世間一般の人々は父という立場の人間とどう相対し、何を話題に会話しているのだろうか?

のんのんし終えると荷物や道具をまとめ移動する。周囲にいくつかある親類の墓や水子地蔵もまわるのだ。各墓にも線香をやりのんのんして寺を出た。これが我が家の墓参りルーティン。主催者や参加者の数、節目によっては全墓に供花が用意されるが親類の中で末っ子のわたしは自分の親だけで良いとされている。なんというか、免除されているのだ。

車で近隣の大型スーパーへ向かう道中に色々話す。

この間パパの法事だったんだよね?どうだった?
「無事おわったよ」
27回忌かーそんな経つかねー
「そうねー」

家もかなり古くなったよね、築40年か。
「雨漏りするのよねー、外壁もいい加減塗らないと」
外壁か、100万くらいする?
「いま200はするだろうね」
ゲッ!雨漏り修理も合わせるとかなりだな。ちなみに、建て替え住み替えも検討してたりする?
「してもいい位だね。先立つものを考えるとどうしても先延ばしにしちゃって」
そういう制限を取っ払って、要望だけで言うならどうしたいとかある?
「うーん」

運転する母は、ブレーキを踏む判断が少し遅くなった気がする。

車はスーパーに着き、しばし買いものをしてからいよいよ昼食、回転寿司屋に入った。わたしはビール、母はノンアルコールビールを頼んでからお寿司もいくつか見繕う。

先ほどの住まいの話題を続けるようにして、実家のローンの話を持ちかける。家を購入した当時に遡って聞く。そしてまた話題に父を登場させる。

オーダーした寿司が届き、食べる。なんと、まずかった。
最近食べたものの中で一番と言っていいほどで、思わず母と顔を見合わせた。決して2人とも舌が高級寿司に慣れきって、回ってる寿司なぞ、という話ではない。明らかにおいしい状態から遠い食べものなのだ。
数皿試すも感想変わらず、ビールを消費するアテとして、ポテトフライとかぼちゃの天ぷらを追加注文し、それはおいしくいただいて店を後にした。

車に乗り込むとまずかった寿司の話で盛り上がる。いや現実問題、寿司ってだいたいおいしい。ひと皿100円だろうがスーパーのお惣菜だろうがおいしい。母もわたしも昔から大体のものをおいしがっている人種である。貴重な経験だった、と、でもポテトフライは異様にうまかった、と語っていたら実家に着いた。

着いてしまった。

今日も聞けなかった。母に聞いてみたいことがあったのだ。切り出せず、核心のまわりをうろうろオロオロしているうちにタイムオーバーだ。いつもこうなのである。わたし達家族は仲が良いが、どうも互いのコアな領域には踏み込まず、気まずい話題を避けがちだ。それは単純な逃げもあれば、主義もあり、ならわしになってもいる。

実家に着いたらあとはめいめいの用事をこなす流れになり、散り散りに。わたしも仕事をしに自室へ。

日が傾いてきたので、洗濯ものを取り込みたたんだ。そういえば3人分の洗濯ものってこの位量があるよなあ。わたしが実家に暮らしていた時分、姉と私の衣類を見分けられず困っていた。特にキャミソールやタイツ、ストッキングのような特徴とサイズの分かりにくいものが。そこで、品質表示タグに油性マジックで「ひ」「ま」と名前の頭文字を書き区別してた。実家を出て10年経っているので、さすがにもうその区別マークがある衣類はもうない。けど手が自然とタグを探している。大事な話はしにくくても互いのパンツをたたんだり裸を日常的に見たりする。変だなー、家族。


玄関のチャイムが鳴り、6軒先に住むご近所さんのTちゃんがやってきた。母の友達でわたしも小さいころから仲良しなおばちゃんだ。母が夕飯にシウマイと筍ごはんを作ったので、おすそ分けを引き取りに来たらしい。Tちゃんとは年中あらゆる食材や料理をおすそ分けし合う。

わたしはTちゃんと顔を合わせるのが1年ぶりくらいか。元気そうだねと再会を喜び挨拶する。「アーンタ結婚しないの~?このうちの娘はみーんなどうなってんのよ~」出会い頭にツッコんでくる。Tちゃんは昔から家庭内で話題にのぼらない恋愛事情にのっけからツッコんでくる。Tちゃんが来た時が数少ない家族間の情報開示タイムで、回収タイムだ。話しながらTちゃんは炊飯窯からタッパーにごはんを移している。うーん、予定ないねぇ~。と濁しながら返すと、お決まりの、早くドレス姿と孫の顔が見たいわぁ~と言ってくれる。近頃の世間ではNGな発言かもしれないが、わたしはTちゃんがこう言ってくれるのがすごく嬉しい。タッパー3パックとシウマイの入った大皿を抱えてTちゃんが去り、同じものを並べた卓を囲んだ。どれもすごくおいしくて沢山食べた。


明日は大阪に帰る。準備をしていると、母が今日スーパーで買ったものを小分けにし、姉が土産物を持たせてくれた。

荷造りが済み、母が焼いたパンを夜食に仕事を進める。だめだ、ねむい。また今日も寝落ちすることになった。


今日の紹介

我が母はお料理マメな人で、あらゆるものを作る。冷蔵庫にはいつも手づくりの佃煮やジャム、漬物が常備されていたし、シウマイ、餃子、コロッケは買うものではなく作るものというのが常識の食卓だった。ひとり親で働きながら、豊かな思いをさせてもらっていたのだなぁと、大人になった今感謝に堪えないとともに、シウマイ餃子は手づくりが圧倒的に好きな体になってしまって困ってもいる。

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