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エッセイ491. 引越し−1.あと何回するでしょう

先週、転勤から戻ってから1年7ヶ月住んだ家から、引っ越しました。
人生で8回目の引っ越しです。
多いのか少ないのかわかりません。
生まれたところから移動しない人から見たら、落ち着かないというか、おそろしく引っ越す人だなと見えるかもしれません。

私が尊敬する人に、「N村さんのご主人」いう人がいます。
それは奥様が、
「私がうちの旦那で一つすごいと思うのは、どんな引越しをしても、
次の日には住めるようにできることなのよね」
と言っていたからです。
ご本人にお会いしたことはありませんが、
私などはどんなに引越しを重ねても、そういう神の境地に至ったことはないので、死ぬまで尊敬しつづけることでしょう。

我が家は今も、引越しの翌日から数えて6日目ですが、全然片付いていません。
トイレに入るさえも、段ボール箱を足で押して動かして入ったり、あらぬところでつまづいたり、お家の中は危険がいっぱい。
早く普通の生活にしないと本当にいけないと思っています。

「先生はこの引越しが最後ですか?」
と、よく生徒に訊かれました。

「最後にしたいのですが、あと2回、いや3回は引っ越すかな」
「えっ、もうそんな先のことが決まっているのですか?」
「はい、決まっていますよ。
今度引っ越す家から、高齢のために病気や怪我で一度は入院するでしょう。
そこから直接お墓に引っ越したら、それを入れて引越しはあと2回。
病院で死ななくても、退院時には自宅には戻らず、今度は老人施設に入ります。
そうでないと家族が困りますから。
そうなると引越しは、このあとあと3回ですね。
次からは自分で荷造りしなくていいから、楽しみです!」

こう私が言うと、洒落にならないので、生徒も困ったかもしれません。

私の生徒たちの中には、日本と母国と、国際引越しをした人がたくさんいます。
会社から言われて赴任する人は引越し代も会社持ちですが、そうでない人は、コンテナなどに荷物を積んでの船便で、お金も時間もかかって大変だと言う人が多いです。
家具などは持ってこられないので、売る・人にあげる・捨てるなどして苦労しています。私などは、前の家から今の家まで歩いて2分、走ると1分半ですから、羨ましがられること限りなしです。

「私はね、荷造りについて、どこが一番大変だったって、台所ですね」
「先生、それは私もそうでした」
「あれはなぜでしょう」
「食器から調理用具から什器から、
何でもかんでも、いろいろなサイズがあるからじゃないでしょうか」
「ですよね。
あと、どうでもいいものも、引き出しの奥にしまい込んでいて、
次々と出てくるのに対して、あんたは捨てる、あんたは連れて行く、というジャッジをするのに、すごく気疲れしませんか?」
「しますします!」
「私なんか、年に2回ぐらいしか作らない温玉くんを、
今回も連れてきてしまいました」
「それは誰ですか?」
「温泉卵を作るための器具ですよ。
幼稚園バザーで20年ぐらい前に150円で買ったのに、捨てられません」
「気疲れしますよね」
「しますよね」

どんなに疲れていてやりたくなくても、引越した途端に、保冷ケースに入れた最低限の食料を冷凍庫と冷蔵庫に移す、調理器具を引っ張り出す。
お風呂や洗面所の用品を引っ張り出す。
・・などはその日のうちにしなければなりません。
私はことに、引越し前にだらけて、ウーバーとか外食とかコンビニ食に走っていていたため、夫婦揃ってもう、人の作ったご飯は嫌、という状況になっていました。
もう、卵かけご飯でもいいから、作って食べたかった・・
だから、這うようにして「台所」と書いて、台所に置いてもらったはずの箱を探しました。

悪いことに、
引越しギリギリまで使いたいもの=引っ越したらすぐ使いたいもの
です。
であるために、引越し当日、あと数時間で引越しやさんがいらっしゃるというようなときに、まだ駆けずり回って荷造りをしています。
これはもう、いつもそうです。

なので、最初のうちこそ、箱に、夫とは違う色のペンで、各々のイニシャルなんかつけちゃって、2階のMという部屋の入れてくださいなどとやっていたのに、最後の最後はおざなりもいいとこ。

引越し屋さんも困って、

「これどこに置きますか?」
「え〜と、あっ、何も書いてない!
え〜・・2階のMの部屋で」

ということになり、1階にあってほしいものがだいぶ、私の部屋に来ています。

「奥さん、この新聞は」
「し、新聞。新聞。えと、2階のMの部屋へ」

回収の日に出し忘れた古新聞まで私の部屋に。

実は、この前まで住んでいた賃貸には、なんと2畳分ぐらいの物置が各戸についていました。
また、押入れという魔窟があって、そこも大量の収納ができていました。
どうせもう一回引っ越すので、とりあえず・・と開封もせずに突っ込んでいた箱がたくさんあり、それが今回の引越しを、メンタル面からも圧迫してきました。

「夫夫、これだけ預かってくれない?」
「あとあと! こっちが片付いてから」
「あっ、夫にこんな広いクローゼットのついた広い部屋をあげたのに、
あんなところにたくさん合気道の道着が積んである!
そんなことしてるなら、さあ、これ預かってください」
「あとあと!」

夫婦仲が険悪になりそうです。

続きます。


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