見出し画像

スパイスターミナル

大きなスクリーンを砂浜に貼って日が暮れてくると始まる映画上映会。海辺で開催されている映画祭の初日のテーマがインドということで小さなブースを構えて「あなたのスパイスミックスを作ります」コーナーを設えた。映画を見る前の時間はどことなく旅に出る前の駅や飛行場に似ている。それぞれが色々な気持ちを持ってその場所に集まるので人々の気持ちの高揚感が作り出す独特の場所になっている。

 映画の始まる前。旅に出る前。スパイスで調理する時に醸し出される異国感あふれる香り。どれも特別な場所に気持ちを連れて行ってくれる。私はスパイスの人なので、そんな気持ちが良い場所をスパイスを通して作ってみたいと思った。
 穏やかな陽気の湖畔の辺りでテントを張りヨーグルトに漬け込んでも持ってきていたタンドリーチキンを焚き火をしながら焼こうかと思っていたら思いの外寒かったのでそのまま鍋で煮込み、トマトとバターを加えてバターチキンカレーにした。その残りをビリヤニにしてみた。簡単なビリヤニを作り、焚き火の火でじっくりと火にかける。スパイスの香りと薪の燃える匂い。その香りと燃える火をつまみにキューバのラム酒を呑む。

 旅に出る前や映画が始まる前のあの気持ちの高揚感と似ている感じがした。

 ラム酒を呑みすぎた後には旅先ではなく酔っ払いができているのがちょっと違うところであるが、だいたいのは一緒である。

 色々な味のフィリングを作ってサモサを揚げながらクラフトビールを楽しむのもなんだか違うところに連れて行ってくれるような気がする。インドを代表する屋台料理「パニプリ」のスパイス水に色々なフルーツを入れフレッシュな野菜と楽しみながらシャンパンを呑む。ウィスキーとスパイスナッツ。熱燗とカレーうどん。ビールとタンドリーチキン。ワインとスパイスつまみ。

 お酒とスパイスで行きたい場所に連れて行ってくれる。その会に合わせた映画の上映があったらなお良いし、ジャズの演奏、楽器の演奏があったらとても良いだろう。

 それぞれの高揚感を持ち寄ってここではないどこかに連れて行ってくれる。スパイスというなの気球に乗ってゆっくりとゆっくりと旅をする時間を作る。出発する前の独特の雰囲気が結構好きなのかもしれないし、そんな気持ちがずっと続けば良いともたまに思ってしまう。

 消えそうな焚き火に新たな薪を焚べ、ラム酒を呑んだ時、なんだか「ターミナル」みたいだなと思った。

 スパイスを通して造られる特別な場所「ターミナル」。集まった人々が行く先はわからないが独特の気持ちの高揚感を味わえる場所。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?