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エル・デスペラードVS.金丸義信(2024年1月23日後楽園ホール)について語らせてくれ。

この試合を無料で、しかもリアルタイムで観られたことに感謝を。サンキューAbema TV

今にして思えば冒頭のワト欠場挨拶からバックステージでのSHO襲撃までつながったなあ、とかそっちも語りたい気持ちはあるんだがそれはそれ、今回はこの試合についてのみに集中したい。
SHOに関しては私もデスペラードと同じく「誰かと予選会やってこい」とは思う。
襲撃したら即挑戦が決まるのでは実績を積む意味などない。
「今回の金丸も襲撃して挑戦決まっただろ」って?
いやいや、他ならぬデスペラード自身が金丸との対戦熱望してたんだしそっちは何の問題もないでしょうよ。
では試合へ。

デスペラードが求める握手を足蹴にする金丸。
H.O.Tの一員としての意志表示かそれとも。
H.O.Tのメンバーがセコンドとして揃い踏みするもあっさりバックステージに引き上げる。
お?今日は完全に個人同士での戦いか?
って、そんなの誰も信じてなかったし。
きっちりしっかり後ほど乱入三昧。
知ってた。
とはいえ金丸自身がそこに積極的に加わっていた印象はなく、H.O.Tメンバーの役割をやらせていただけに映った。
やはりこの試合は金丸の中にも特別な想いがあったのでは、と想像。
想像でしかないし、本人もきっと否定するだろうが。

それにしても金丸の攻めが実に多彩だった。
デスペラードも試合後に「脚殺しでくると思ってたから面食らった」とX(旧Twitter)で述懐していたが、首に胸に背中……まさにオールラウンダー金丸義信。
「やれない」のではなく、「やらないだけ」なのがよく分かる。
他のレスラーなら攻めに一貫性がないと叩かれるところだが、彼に関してはその指摘は当てはまらない。
常にその場所その瞬間の最大効率を求め、それを実行してのけているからだ。
序盤の場外戦でパイプイスを踏み台にして鉄柵の上に首を預けた状態のデスペラードへのギロチンドロップを敢行していたが、かつてのムーブということもあるが、かつて全日本プロレスに参戦していたサブゥーロブ・ヴァン・ダムなどを想起して私は独りニヤリとした。

その金丸の多彩で華麗な技の数々の中で異彩を放っていたものが2つあった。
それはヘッドロック逆エビ固めだ。
どちらも若手レスラーが使える数少ない技であるが、知る人ぞ知る基本にして究極。
逆エビ固めはクリス・ジェリコ『ウォール・オブ・ジェリコ』としてフェイバリットホールドにしているのでその威力は名高いが、ここで特筆しておきたいのはヘッドロックの方だ。
上手い人がやれば痛い、ぐらいなら誰でも想像が付くだろうが、そんなものではない。
かつてかの鉄人ルー・テーズが『ルー・テーズ自伝』(ベースボール・マガジン社刊)の中で「『実際に喧嘩で使っていい技を1つ選べ』と言われたらヘッドロックを選ぶ」と語っていたほどの実は拷問技なのだ。
それをあのテクニシャン・金丸義信が全力で繰り出せばあのエル・デスペラードとてたまったものではない。

今回の試合で改めて感心、さらには戦慄させられたのは金丸義信の技の的確さ、正確さだ。
ご存知のように正確な技はフォームが美しく、威力が高くなる。
それすなわち力学的に優れているからだが、金丸義信のムーンサルトプレスはそのフォームの美しさで名高いが、威力たるや推して知るべしだろう。
しかもトップロープに登ってから放つまでが早い。
なので相手に避けられることも少ない。
正確無比に相手にヒットさせ、その上背中に降って来られたのでは大ダメージ必至。
ディープインパクトブリティッシュフォールも最大ダメージを与えるためには位置も角度もタイミングも完璧である必要があり、さらっとそれをこなせているところに彼の恐ろしさと真価がある気がしてならない。

こちらは「改めて」ではなく、驚愕させられたのが咄嗟の機転だ。
瞬時に最適解を閃く発想力、そしてそれを正確に行なえる実行力
解説のミラノコレクションA.T.「頭の中どーなってんの!?」と絶叫していたが、まさに同感だ。
常にありとあらゆる場面を想定してあるのか、スパコン並みの頭脳によるものか。
おそらくその両方だろう。
特にデスペラードの蹴り足を掴んで引っ張りつつそのまま下に叩き付けた股裂きは、プロレスを観始めて30年を超える私でも記憶にない。
金丸義信はクラシカルなレスラーに思われがちだが、むしろ最先端であることが証明された形だ。

あと分かっていても結局引っ掛かってしまう三味線とかね。
堪んないよなあ。
場外戦で鉄柵に振った相手が帰って来たところをすかさずのボディスラム。
「まるで吸い込まれるように」って解説されていたが、言い得て妙。
相手をどこへどう投げるとどうなるかを知っていて、計算した上で最小限の労力で最大限の効果を発揮する。

金丸義信はプロレスを知り尽くしている。

『ヒールマスター』どころかもはや『プロレスマスター』ではないか。
あれ?だとしたらディック東郷の『レスリングマスター』と被っちゃうな。
同じユニットだしまあいいか(よくない)。

案の定のH.O.Tの乱入があり、その迎撃メンバーにデスペラードの同期のタマ・トンガの姿があり、なんと流れの中で合体マジックキラーまで観られてしまった。
初めての共同作業?
冗談はともかく、この試合の勝者は紛れもなくエル・デスペラードである。
まるで天龍源一郎VS.ジャンボ鶴田でパワーボムで勝ったのは天龍なのにケロッとしていた鶴田の評価がさらに上がった……みたいに金丸義信ばかり褒めてしまって本当に申し訳ない。
だがデスペラードの金丸義信へのリスペクトあってこその徹底した研究の成果は各所に表れていた。
私が特に目を瞠らされたのが2発目のバックドロップ
1発目も旋回式で工夫されていたが、2発目のそれは抱え上げておいて空中でポップアップしたのだ。
金丸義信は受け身の達人としても名高い。
同じ技を続けたところで対処されていたであろうことは想像に難くない。
なので受け身のタイミングをズラすことで追加のダメージを与えることに見事に成功したのだ。
そしてフィニッシュホールドとなったヌメロ・ドス
両手両脚をガッチリホールドしていても、身体がマットに着いていては金丸は微妙にポイントをズラしつつロープまで逃げてしまう。
なので持ち上げて浮かせた。
デスペラード本人の身体への負担も尋常でないものがあっただろうが、そこまでしなければ金丸相手にギブアップは奪えない。
ああなってしまってはさすがの巧者・金丸もあれ以上どうしようもなかった。
脱帽だ。

一体デスペラードはこの試合のためにどれほどのイメージトレーニングを積んだのだろうか。


試合後のマイクではデスペラードのトークスキルが冴え渡った。
秘蔵エピソードを披露して和ませておいての宣言。
この試合を経ての最大の収穫は、エル・デスペラードが新日本プロレスジュニアを引っ張っていく決意表明を公的に行なったことではないか。
彼はこれまで「対外的にアピールするためにはベルトが必要」的なスタンスを取り続けていたように思う。
それが、ついに。
何がその決め手となったのかは一介のファンには不明だが、拍手喝采で歓迎すべきことだ。
ライバルではない、最大の難敵を退けたエル・デスペラードの今後からますます目が離せなくなった。
自分をさらけ出すようになってからどんどん魅力を増してきた彼がどこまで行くのか。
「ならず者ルチャドール」ではもう収まりきらない。

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