南野薫

はじめまして、小説を書きたくて参加しました。

南野薫

はじめまして、小説を書きたくて参加しました。

最近の記事

女風シェフのおもてなしキッチン 「第1話」クレオパトラの夢 1

あらすじ  手越リウは高校時代に男性機能を失ったが、反比例するように女性扱いが上手くなる。その能力を使って専門学校でフランス料理を学びつつ女風としてフランス留学と将来の開業資金を貯めている。卒業後フリーの女風セラピストとして独立、性感マッサージと得意のフレンチで、世の疲れた女性達を癒し、いつの日か自分の男性機能を復活させる女性が現れることことを願いつつ日夜戦い続けている。  男性機能がなくなると、反比例するように女性を歓ばす術が向上した。人生とは実に皮肉なものである。高校生

    • キッシュが冷たくなるまえに【第64話】カウンターの内側で

       カウンターの客全員の視線が僕に集まってしまった。ミカさんはそのお客さん達の視線の先に気づいてこちらを振り向くと、お互い目が合い、こっちにおいでと手招きをしている。  「紹介するわね、彼がこの店で料理のコンサルをしてくれてる絲山翔太君です。翔太君こっちに来て」  モタモタしている僕にじれたのか、ミカさんは強引に僕の腕を引っ張って、僕はズルズルとカウンターの中央に連れて来られてしまった。目の前にさっき会話した佐藤さんが座っていて、目が合ったので軽く会釈をしてカウンター席を見渡す

      • キッシュが冷めないうちに【第63話】リエット試作

         「なんだかあの人苦手だなぁ・・・」  「佐藤さんて、そんな悪い人じゃないですよ。月に2回くらいは来てくださってる常連で、気さくだし、料理を食べてもちゃんとワインを注文してくださるいいお客様ですよ」  「悪い人だとは思ってないんだけど、ああいう料理とかワインとかに詳しい人と話すと、違和感が増すっていうか・・・」  「違和感ねぇ、あんまり深く考えすぎないほうがいいですよ、気楽にやりましょうよ。ピザが焼けたら豚バラのリエットの試作始めますか?材料は全部そろってますよ」    考え

        • 【第62話】キッシュが冷たくなるまえに (カウンターの謎の女)

           皿とワイングラスを洗い終えて、余分な水分をふき取っていると、二人が笑顔で戻ってきた。  「翔太君に黙っていて悪かったんだけど、実は今晩あのレバーペーストをワインを飲んでるお客さんに試食してもらってるのよ」  「ミカさんが私達二人だけじゃなくて直接お客さんに食べてもらって、感想を聞いたらいいんじゃないかって、昨夜二人で話をして決めたんです。翔太さんには言ってませんでしたが・・・」  二人は顔を見合わせて、ナゾナゾの種明かしをする少女のような顔で笑っている。  「で、食べた人達

        女風シェフのおもてなしキッチン 「第1話」クレオパトラの夢 1

        • キッシュが冷たくなるまえに【第64話】カウンターの内側で

        • キッシュが冷めないうちに【第63話】リエット試作

        • 【第62話】キッシュが冷たくなるまえに (カウンターの謎の女)

          キッシュが冷たくなる前に【第61話】日常食と嗜好食

           「ベーコンはどのくらいの厚さ?」  「1×4cmくらいで、量は一人前で約60gでお願いします」  急いで切りそろえて、目分量で60gはこんなもんだろう。ちょっと多いかもしれないが気にしない。フライパンに軽くオリーブオイルを入れベーコンを炒めながら生クリームを計量カップでだいたい100㎖程量る。しばらくすると、香ばしい香りと共にベーコンから油が染み出してきて、時折バチッという音と共にフライパンが油が弾く。隣でははるかさんが刻んだニンニクと鷹の爪をオリーブオイルを注いだフライパ

          キッシュが冷たくなる前に【第61話】日常食と嗜好食

          キッシュが冷たくなるまえに【第60話】  大至急でカルボラーナを

             ミカエルの駐車場に入るとほとんどが埋まっていて、一番奥に一台だけの空きを見つけてプジョーを滑り込ませると、ダッシュボードのオレンジ色に光るデジタル時計は20時ちょうどを示していた。運転席からミカエルの窓越しに見える店内には、8割がた座席が埋まっているようで、ミカさんが忙しそうに速足で動いているのが見えた。本来はミカさんの娘さんの明日香ちゃんがいて三人態勢でお店を回しているのだが、今は交通事故で入院中の明日香ちゃんなしで2人でお店を運営している。こんな込み具合だと今頃厨

          キッシュが冷たくなるまえに【第60話】  大至急でカルボラーナを

          キッシュが冷たくなるまえに【第59話】金曜の夜はモスでテリヤキバーガー

           金曜の19時過ぎの郊外に向かう国道は、まだラッシュアワーの余韻が残っていていた。右折の車線にいる僕はただいま二回待ちの途中で、右折の矢印のサインがでないと車が進まない。僕の車の前には5,6台の車が信号待ちをしていて、帰宅の人達とこれから郊外型のレストランでの外食や遊びに出かけたりする人達でごった返している感じがする。今からミカエルに行って、新しいメニュー作成と昨日作ったレバーペーストの試食をするためにハンドルを握っているのだが、正直どんな顔をしてはるかさんに会ったらいいのか

          キッシュが冷たくなるまえに【第59話】金曜の夜はモスでテリヤキバーガー

          【第58話】キッシュが冷たくなるまえに (朝のモノローグ)

           早朝の国道をひとり車を走らせている。眠れない朝にすることと言えば、10代20代ならばジョギングで汗をかいてシャワーを浴びてすっきりなのだろうが、さすがに30を超えるとなかなか運動する気力も失せて、つい車に乗ってしまう。天気は晴れ、湿度は高くなく気持ちのいい朝だ。海沿いの道を窓を開けて流れ込む風は、潮の香がしてやさしく僕の前髪を揺らしてリアシートに抜けてゆく。時折見かけるコンビニの配送車と、老人が運転する軽自動車が新聞配達をしているのを見かけるだけで、いかにも地方都市の朝のラ

          【第58話】キッシュが冷たくなるまえに (朝のモノローグ)

          【第57話】キッシュが冷たくなるまえに

           喉の渇きで目が覚めた。ベッド横のサイドテーブルに手を伸ばしてスマホを手に取ると、暗い室内の中でディスプレイの明かりが枕元を照らす。眩しさに目をしかめながら画面を覗くとデジタルの文字は3時15分を示していた。まだちょっと酒が残っていて頭がぼおっとしている。もう一度眠りにつこうと目を閉じるが、昨夜の事が頭に浮かんでしまって眠れない。明日の朝も早いので無理にでも寝ようと自分に言い聞かせて、何度か寝返りをうったが、だんだん頭が冴えてきた。とりあえず水を飲もうと布団を跳ね上げてベッ

          【第57話】キッシュが冷たくなるまえに

          【第56話】キッシュが冷たくなるまえに

           「おっ、帰ってたんだ。試作はうまくいったの?」  引き戸を開けて姉さんがキッチンに入ってきた。テーブルの上の芋焼酎を見て、「私もいただこうかしら」と言ってグラスを戸棚から出すと、冷蔵庫から氷を出してグラスに入れてテーブルの上に置いた。父さんが芋焼酎を注いで、ペットボトルに残った炭酸水を残らずグラスに注ぎ込むと、ちょうどグラスにすりきれいっぱいまで満たされて、表面では炭酸の泡がシュワシュワ音を立てて弾けている。姉さんは口をグラスまで近づけて、ちょっとだけ飲んでマドラーでグラス

          【第56話】キッシュが冷たくなるまえに

          【第55話】キッシュが冷たくなるまえに

           「実は・・・」 「いや、言わなくていいよ、想像できるから」  ためらいがちに言葉を探しているはるかさんが痛々しく思えてきて、思わずはるかさんの言葉を遮ってしまった。はるかさんは驚きを隠せずに両目を大きく見開くと、急に恥ずかしがった表情を見せ、どんどん顔色がピンク色に染まってうつむいてしまった。その表情を見ていたらどんなことが起こったか想像がついてきた。多分はるかさんは凪人と関係を持ったんだろう。もちろん肉体を伴う関係だ。昨日はこの店と凪人の店も休みだったから、充分に可能

          【第55話】キッシュが冷たくなるまえに

          【第54話】キッシュが冷たくなるまえに

           インスタの画像には凪人のレストランの入り口で、凪人が女性二人に挟まれてキメ顔をしている。食事の後に女性達にせがまれて玄関前で撮られた写真なのだろう。女性達は露出の多い身体の線がくっきり見える服を身にまとい、ワインをしこたま飲んだらしく、ほんのりピンク色の笑顔でピースサインをしている。画像が数枚貼り付けられていて、最初のシャンパンから前菜、ワインボトル、メイン、デザートとフルコースの料理がずらり。ところどころにブランド物のバッグが映りこむように計算されて写真が撮られていて、思

          【第54話】キッシュが冷たくなるまえに

          【第53話】キッシュが冷たくなるまえに

           「前から聞こうと思っていたんですが、どうしてこのビアズリーの絵を飾ってるんですか?こういう店だったら、わかりやすくミュシャとかロートレックとか、女性が喜びそうな絵ってあるじゃないですか。どうしてそういう絵を選ばずに、こういう怪奇というか幻想というか、はたまた耽美というか・・・」  間接照明でぼんやりと照らされた額には、惨殺されたヨカナーンの首を持ったサロメが口づけをするようにしている絵が描かれている。白黒なので生々しさはないが、タトゥーの絵柄になってもおかしくはない妖しさが

          【第53話】キッシュが冷たくなるまえに

          【第52話】キッシュが冷たくなるまえに

           「試作はうまくいってる?どのくらい進んだの?」  ミカさんが厨房に入ってきて、作業台をキョロキョロと見渡した。  「もう終わっちゃいました。ココットに入れて冷蔵庫の中です。冷えて固まるまで待って明日試食をしようって翔太さんと話をしていたところです」  フードプロセッサーのガラス製の容器を洗いながらはるかさんは答えた。  「もうできたの?あっという間じゃないの。こんなに早く出来るなんて意外だわ。もっと時間がかかる物じゃないの?」  「普通ならオーブンで湯煎にするんですが、もう

          【第52話】キッシュが冷たくなるまえに

          【第51話】キッシュが冷たくなるまえに

          「それじゃ、フライパンの中身をフードプロセッサーに入れて、固形から液状にしよう。バターも入れて、最後に塩が足りないなら足して味見しようか」  作業台の上でフードプロセッサーのプラグをコンセントにつなぎフタを取ると、はるかさんはフライパンの中身をシリコンベラで丁寧にそぎ落とすようにプロセッサーに入れていく。セラミック製のカッターがみるみるうちに鶏レバーと玉ねぎで見えなくなり、はるかさんは真剣な目でシリコンベラを動かして、プライパンの中のぎらついた残っているオリーブオイルと塩コシ

          【第51話】キッシュが冷たくなるまえに

          【第50話】キッシュが冷たくなるまえに

           「失礼します」  と言って厨房内に入り、設備を見渡した。意外と言っては失礼だが、厨房機器はしっかりとした業務用のものが入っていて、狭いながらもガスオーブンが鎮座している厨房は、カフェというよりもイタリアンやフレンチに近い。ステンレスの銀色で統一された厨房は、プロの世界の雰囲気が漂っていて身が引き締まる。  「いやぁ、緊張するね。十年ぶりかな・・・」  僕はそういって調理台の前に立ち、僕は大きく深呼吸をしてそこにあった包丁を握った。まな板の上で野菜をカットするまねをしてみる。

          【第50話】キッシュが冷たくなるまえに