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『フリーター、オーロラを見にいく』 #3



#3


それから男は、働いた。
それこそまさに、週8で働いた。
あまり好きではないが、分かりやすいから具体的な数字で言うと、半年間一月平均20万円を稼いだ。
どちらかと言うと体力はある方なので、身体にガタがくることはなかった。
最初は塾講師と怪しいイベント会社の掛け持ちで働いていたが、それだけでは稼ぎきれなくなったため、新たにイタリアンも始めた。
ブライダル(3ヶ月で辞めた)以来のホールとキッチンで、少し苦手意識があったが、店長さんが仏のような人格者で懇切丁寧に1から教えてくださったため、恵まれた環境で働くことができた。そうして、3つのアルバイトを掛け持ちして働き詰めて、幻のような丸一日オフの前日の夜は、ハイボールの褒美を自分に与えた。

10月。見知らぬ番号の電話が、ぼくの携帯を鳴らした。取るとその電話は、ぼくのアパートの管理会社からだった。
あまり思い出したくもないのでサクッと書くと、その電話の内容は、来年の4月から家賃が2万円上がるという話しと、来年の4月にアパートを更新すると、更新料が9万円かかるという話しだった。

ぼくはマリアナ海峡ぐらい深く暗い溜息をついた。「生きるって金がかかるなぁ...」
これはその時自然にぼくの口から出た言葉だ。
それでも、オーロラを諦める気は決してしなかった。だが、その後の生活が不安になった。
まずぼくは、更新するかしないかを真剣に考えた。結果的には、引越しでさらに金がかかるし、新たな環境に慣れていくエネルギーも考慮して、今のアパートを更新する選択を取った。だが、家賃が二万円上がるのは流石に痛く、この電話により、オーロラ後もぼくは、週6バイト生活が決定した。

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