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ドイツの失業保険③

★抗議
給付を止める理由はその手紙に書いてはいなかったが、前回の面談でのやりとりから、担当者がそのように手配したことは明らかだった。

そのため、私は常に仕事が始められる状態にあったし、いまもあること、私が行ってきたことはすべて就活の一部であり、労働契約や給与が発生したことは一度もないこと、担当者がどうやら勘違いをしていること、などを書いた抗議文を作成。すぐにハローワークに持って行った。

受付の行列に並び、訪問理由を説明した。すると、受付の女性はパタパタとPCをいじりはじめた。私のページの情報を確認しているようだった。そして、すぐに顔をあげると、「ああ、これは手違いよ。給付は引き続きなされるから大丈夫!」とかなり力強い口調で言った。

「え?!」と思ったが、その女性の「大丈夫!」という言葉があまりに力強く、私はそれに押し出されるように列を離れた。が、その後すぐに不安になった。
、、、いや、まてよ。こんな口頭でのやりとりで引き下がってしまって、実はそれが受付の女性の勘違いとか見間違いだったとしたら、抗議期間中に抗議しなかったということで、給付が停止されてしまう。その時に、その受付の彼女と「言った、言わない」のやりとりになるのも嫌だ、、、。
だから私が今日ここにやってきたこと、その女性が言ったことの証拠となる文書が欲しいと思った。

もう一度、行列に並びなおすのは嫌だし、その間に受付の人が交代してしまうかもしれないと思った私は、行列の横に立っている役所の女性にその旨を説明した。すると、彼女は、カウンターの人はPCで見ているだけでそういった文書は作れないから、抗議文をポストにいれておいたほうがいいわ、とアドヴァイスをくれた。そこで、その場で用意してあった手紙をすぐ外のハローワークのポストに入れて帰ってきた。

ううん、、、それにしても、どういうことだろうか。
一つには、私に届いた手紙が本当に単なる手違いであった可能性がある。
つまり、私の担当者とは関係なく、役所がたまたまこのタイミングで手違いをおこした、という可能性だ。だって、もしも私の担当者が給付停止を申しいれていたとしたら、「手違いよ。給付は引きつづきなされるわ」なんてことにはならないはずだ。
もしそうだとしたら、私の抗議文は的を得ていないどころか、役所にとっては新たな問題として、私の担当者から話を聞くなどして調査しなければならないものになる。要するに、私は余計なことをした、ということだ。

もう一つには、もちろん、私の担当者の申し入れによる給付停止の手紙である可能性。ただ、そうだとすると、受付の女性の「手違いよ」がおかしいことになる。彼女が例えば、別の人物のページをみていたとか、読み間違えたとかだろうか。いずれにせよ、受付の彼女の間違いだったとすれば、抗議文をポストにいれてきた私の行動は正しかったことになる。

考えたところで答えはでない。それに、抗議の手紙を出してしまった以上、私はもう待つしかない。

数日後、ハローワークから手紙が2通届いた。
1通は、前回の給付停止に関して、それを取りやめるというもの。つまり、それはどうやら本当に「手違い」だったわけだ。ということでひとまず一安心。

もう1通は、前回の担当者との面談で、私が「仕事」に従事していて「(新しい)仕事を始められる状態ではなかった」と決めつけられ、抗議する機会も奪われて、一方的に給付返還を言い渡された、そのときのものだった。
つまり、その担当者の言い分に従って、給付を返還するように、という通知であった。

これが、私が前回、抗議文を出したことがきっかけで明らかになったことなのか、たまたま私の担当者がこのタイミングで役所に申し入れをしたのかは、私には結局、わからない。ただ、いずれにしても不当なものなのだから、改めて抗議しなければならない。
ということで、前回出したものと同じ抗議文を、この新たな通知に対するものとして再度送付した。

、、、だけど、私と担当者のどっちの言い分を信じるか、はいったい誰が決めるのだろう。役所は役所の人間の言うことを信じるだろうから、私は圧倒的に不利なはず。なんだかすべてが茶番に感じられて、イラっとした。

さて、役所は実際にどんな判断を下したのか。
どうやら、私と担当者の両方の顔を立てる解決策を考えたらしい。
数日後に届いた手紙には、担当者の主張する2週間の給付返還は有効だが、私の失業保険受給期間を2週間延ばす、と書かれていた。つまり、私が受け取る給付金のプラスマイナスはゼロというわけだ。

うーん。担当者の主張が認められた、という意味では納得いかないが、役所からはこれ以上の譲歩は期待できそうになかった。
だから、その決定に従うことにした。最終的に受け取る額に変更がないのならよしとしよう、と自分に言い聞かせた。

★6回目呼び出し
さて、抗議文のあと、6たび、面談の呼び出しの手紙が届いた。
あの担当者とまた対峙しなければならないのかと思うと本当に気が重かった。
が、手紙をあけてみてびっくり。担当者がまた変わっている。

まあ、確かにあの担当者とは相性が最悪(あの担当者と相性がいい失業保険受給者なんているんだろうか、、、)だったから、お互いにとってそのほうがいい。それに、今回はもう最後の呼び出しだ。

私の失業保険給付期間の1年は間もなく過ぎようとしていた。

6回目の呼び出しで行ってみると、今度は学者肌の担当者が待っていた。彼はドイツで失業保険というシステムが導入された歴史や、それにまつわる用語の説明を、時に哲学者の名前をだしたりしながら、延々とし続けた。
私は、ちょっと大げさに「へぇ!」「そうなんですね!」などと相槌をうちながら話を聞いた。こうすることで、その担当者は気持ちよく、持論を展開できるようだったからだ。そうして、彼に気分よく話をさせ、時間切れになるのを待つ、というのが、私の魂胆だった。

こうして私は、約4時間にわたる彼の講義の受講生になった。
途中、それで君は何通、どんなところに応募書類を送ったんだい?と聞いてきたり、ハローワークのサイトを開いて、こんなページではこんなことができるよ、と見せてくれたりもしたが、それらは実質30分くらいだったろうか。残りの3時間半は、彼の体験談を織り交ぜた「大演説」だった。

さすがに最後はうんざりしたし、終わったあとはどっと疲れがでたが、前回の担当者に比べたら1000万倍よかったといえる。

こうして私の1年におよぶ苦痛のハローワーク通いが終了を迎えた。






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