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靴の工具 ナイフ編

靴作りをするには沢山の工具を使用します。

 また、工具は使い易いように職人それぞれ独自の工夫を凝らして形を作り替えて使用します。

 そんな工具の種類や使用方法を少しづつお伝えしていこうと思います。


 今回はナイフ。 

 ハンドソーンの靴作りにはこれが無くては始まりませんし、また持っているだけでシャープに研げないとお話しになりません。

 
 靴作りの基礎中の基礎がナイフを研げるようになることです。

 靴作りが全然上達しな~いと嘆いている人達はこの第一歩で躓いています。

  面倒でも大変でも、ナイフをちゃんと研げるようになることが上達の第一歩です。頑張れ~。

さて、ナイフの種類は色々ございます。

 

私が靴作りのお仕事で使用しているのは↑の12本。


 国産の切り出しナイフ、特注で短く逆刃に作って貰っているもの、刃先にカーブがかかっているカーブドナイフ、アッパー用の細くて薄いスカイビングナイフなど。


 長い切り出しナイフが一番良く使用します。

右利き用と逆刃と両方使用しています。

 生徒さん達にはカーブドナイフはどんな時に使用するのかとよく聞かれますが、インソールやソールを薄くする際に使用します。

カーブがかかっているので、広い面の真ん中辺りをスカイビングする際には欠かせません。またウェルトとソールを縫った後、カーブを利用して横面を凹ませてカットするのにも使用できたり、色々と使えます。

 

カーブも微妙に違うので、削りたい形に合わせて選べます。

 ヒール用の短いナイフはアッパーを傷つけないように作業するのに便利です。逆刃と両刃と持っています。どこにどう使用するとは意識していませんが、作業中に無意識に使い易いものに変えながら作業しています。

当教室で使用している特注ナイフ。イギリスではこの形のナイフをほとんどの靴職人が使用しています。


 イギリスでは両刃のナイフしか使用していませんでしたが、日本では切り出し包丁か片刃の切り出しナイフが主流です。

 私は包丁も使用したことがありますが、個人的にナイフの方が使い易いです。

 イギリスでは”工具は手の延長”として使用するため熱する工具と握りにくい工具以外は柄がありません。


 工具を握るときにお教室で「人差し指でコントロールしてね」とたびたびお伝えしていますが、人差し指が柄の役割をします。

 ですので、私は柄の付いていないナイフが体の一部になってくれて使い易いのです。


 こちらはアッパーの革用のスカイビング・ナイフです。

ドイツ製の両刃のナイフ


 ナイフ選びの基本は切りたいものが薄ければナイフも薄いもの。厚い革の時は厚いナイフです。

 ですので、アッパーの場合は薄めのナイフが必要になってきます。

 私は漉き機を使用しないので、幅広であっても問題なくスカイビングできるように、ナイフを出来るだけ長くなるように研いでいます。

 ナイフの長さの調節は研ぎ方で簡単に調節できます。


 長く研ぎたければ、研ぎ石やラップスティックの縦面とナイフの縦面を平行になるように研ぎます。

ナイフをしならせて上下に動かしながら研ぎます。


 短く研ぎたければ、研ぎ石やラップスティックの横面とナイフの縦面が垂直になるように研ぎます。


こちらも画面の上下方向に動かして研ぎます。



そうそう、ナイフを研ぐには普段はこのラップスティックを使用します。

3面に番手の違うサンド・ペーパーと1面には革を貼ってその上に研磨剤の青棒を塗り込んでいます。

 月に2.3度は、研ぎ石を使用してしっかり研ぎ直します。気分によって色々使用しますが、

 ダイヤモンド研ぎ石は水を使用せず、オイルを使用して研ぎます。

水を使用するとしっかり乾かさないとすぐに錆びるので、オイル使用が断然楽です。

他には”刃の黒幕”(ネーミングがグッとくる研ぎ石)も好きですが、こういう普通の研ぎ石は、”研ぎ石を研ぐ研ぎ石”で研がないといけないのですが、(早口言葉みたい!)、細かい番手でピカピカにしたい場合はこの研ぎ石が良い仕事をします。

研ぎ石の研ぎ石


 それから、研ぐにあたっての注意点は、何段階かに番手を変えることです。

 番手を最低3段階は変えるとシャープさが長持ちします。私は本当に気分によるのですが、緊張するような靴を作る際には5段階くらい番手を変えてしっかりと研ぎます。ナイフもスーパーシャープになりますし、心も落ち着いて”無の境地”状態で作業ができます。

 工具と人が一体化して “職人” です。

  弘法筆を選ばず…は、職人の世界にはないな…


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