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絵本にしたいのです。LILIUM マイク版


 
「ねえ

耳を澄まして
 
聞こえてくるでしょう?
 
 
いのちの、期限を刻む

兵隊たちの靴音が」
 
たくさんのツバメが    
 
恋を歌う季節に
 
たくさんの戦闘機が      
 
エンジンを全開にして
 
戦いの歌をうたっていた
 
 
1935-1945
 
 
いろんな国旗を
 
まとった飛行機が
 
 
空中で弾け 散っていった
 
ホウセンカの種に
 
ふれたように
 
カエデの種が
 
落下するように
 
 
スピーカーは うつむくゆりのかたちで

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敵機の来襲を
 
警告し続け

沈黙は被弾を意味した

 
 
散り散りに散って

 
 
ゲットーを出て広場へ

全員が
 
胸にユリの形を縫いとめて


俯いて足速に
 
誰の目にも止まらないように
 
トランク一つで
 
貨物列車に乗った
 
 
オラニエンブルグ エステルヴェーゲン
 
バーベンブルグ 
 
終点の地でついた 吐息は まだ

生きている証
 
リヒテンブルグ ゾネンブルグ
 
ブランデンブルグ
 
気づかれないほど かすかな いのちの声
 
アウシュビッツ=ビルケナウ
 
マイダネク

 
線路に残されたのは
 
片方だけの小さな革靴 
 
腕のもげたぬいぐるみ
 
それから
 
解き放たれた星の種


散り散りに散って
 
 
誰かのズボンのすそに
 
犬の毛の間に
 
こどものくつしたに
 
気づかれないように
 
海を渡る
 
誰の手も届かない場所へ
 
生き延びるために
 
あの日
 
胸に縫いとめられていた
 
星のワッペンは 
 
見知らぬ土地の片隅で
 
うつむいている
 
誰の目にも止まらないように
 
時々空を見上げ
 
期間を決めて去っていく

ため息ひとつこぼして
 
外来種と呼ばれ

茎を折られ 花をむしられている

 
ねえ
 
耳を澄まして
 
聴こえてくるでしょ?
 
ほら あれは
 
恋するツバメの声
 
生きる歌



もう少し推敲が必要ですが。

今年絵本にしたいのです。


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