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青と茜を繰り返して、やっと少しだけ自分らしさを知る。 2024.05.06 湘南ベルマーレvsサガン鳥栖 マッチレビュー

開始時の立ち位置と嚙み合わせはこちら。

開始時の立ち位置
各ポジションの噛み合わせ


■試合の振り返り

 大型連休最終日、強めの風が吹く不安定な空模様の平塚でキックオフ。両チームともに中二日で迎える連戦の中、湘南のメンバー変更は2名。DFラインに入っていた髙橋に代わって大野、FWルキアンに代わって阿部がスターターに名を連ねた。U-23日本代表に参加していた田中はベンチ入りを果たす。
 一方の鳥栖も2名の入れ替えを実施。原田と木村が入ってDFラインの並びが変わる模様。前節左SBを務めていた長沼は一列ポジションを上げ、CBだったキムテヒョンが左SBへ移動。代わってCBに入る木村はU-23アジアカップ決勝ウズベキスタン戦にスタメン出場していたにもかかわらず、帰国後も元気にピッチに立った。


 序盤は風上に立った湘南が押し気味に試合を進めるが、決定機を作るところにまでは至らず。鳥栖も思ったようにチャンスは作れていなかったが、13分に手塚のコーナーキックを富樫がヘディングで合わせて先制。湘南はまたもセットプレーから失点を喫した。

 しかし連休唯一のホームゲームで気合の入った観客の声にも背中を押されたのか、この日の湘南は失点後も気落ちせず。畑が左サイドを積極的に駆け上がり、反撃の姿勢を見せる。24分は自身のクロスが跳ね返されたところ、素早くプレッシャーをかけボールを奪い返して阿部へパス。阿部はタッチライン近くに立つ平岡へのパスをちらつかせつつ、僅かな空間から左足でクロスを上げる。ボールはCB山﨑の頭上を越え、その背後に走り込んだ福田が頭で合わせて鳥栖のゴールを破った。湘南が10分ほどで試合をイーブンに引き戻す。
 その後も畑の大外裏抜けや池田のランニングからチャンスを作る湘南。38分には池田の抜け出しから福田がこの日2点目のゴール…かと思われたが、池田がパスを受けたポジションがオフサイドのためゴールは取り消し。前半のうちに逆転とはならず、スコアは1-1のまま折り返す。


 後半は風下となる湘南だが、立ち上がり早々に歓喜の瞬間を迎える。大野のフィードを平岡がDFを背負いながら受け、サポートに寄って来た畑へパス。鳥栖の守備陣が全体的に湘南の左サイドに寄っていたところ、池田が目の前に空いた広大なスペースへ走り込む。畑からのパスを引き出してボックス手前でワンタッチで内側へ落とすと、フリーで走り込んだ阿部が丁寧なシュート。ボールは弧を描いてGKの手から逃げるように飛んでネットを揺らした。難しいシュートを力まずあたかも簡単なように決め、後半開始早々に湘南が逆転に成功する。

 得点後も試合は互いにゴール前へ迫る展開に。鳥栖は立て続いてボックス内でヒアンにシュートチャンスが訪れるがモノにできず。湘南も3点目を取って楽になりたいところだが、GK朴のセーブに阻まれる。


 82分に湘南は1ゴール1アシストの阿部に代わり、2025年シーズンの加入予定が発表されたFW渡邊啓吾を投入。桐蔭横浜大学所属の特別指定選手としてJリーグ初出場を果たす。ピッチに入ってすぐにあった鳥栖のコーナーキックの場面では、長身を活かしてニアサイドに飛んだボールを跳ね返して見せた。その直後に横山がボックス手前から右足で巻くように枠内ギリギリのシュートを放つが、ソンボムグンが右手一本で掻き出すビッグセーブ。
 試合はそのまま湘南が逃げ切り、2-1でリーグ戦10試合ぶりの勝利。加えて今シーズンのホーム初勝利(1勝目は第2節:アウェイ京都戦)にもなった。順位は最下位から降格圏外の17位にジャンプアップ。次節もホームで5日後、昇格チームながら首位を走る町田ゼルビアと対戦する。


■まずは自分を大切に

 ここのところ欠けていたボールへの執着心や味方を助けるランニング、そして勝利に対する熱量を画面越しにも感じる試合だった。前節鹿島戦では相手への対策に重きを置いた内容に行き詰まりを感じたが、この試合はどちらかと言うと自分たちの原点にフォーカスしていたようにも思われる。縦に早い展開でゴールに何度も迫り、サイドから繰り返しチャンスを作った。

 それは湘南の出来が良かっただけではなく、鳥栖側の守備対応にも問題があったというのも大きい。ボールサイドへの寄せが甘く、とりわけ両WBへの対応が遅れ気味であったのが縦に早く攻めることができた理由だろう。鳥栖は4-4-2(4-2-3-1)の配置で構えていたが、湘南のWBにボールが出た際には鳥栖のSBかSHがスライドする約束。しかしそのスライドを徹底してやり切る様子はなく時折遅れていたため、背後のスペースに向かって池田や平岡、福田が走り込めていた。とくに出し手として優れる雄斗がボールを受けたときには、池田は受け手としてハーフスペースにタイミングよく飛び出し、何度もボールを呼び込んでいた(残念ながらオフサイドになる機会が多かったが)。そこに反応して動く福田もまた良い働きだった。
 畑も再三左サイドを突破し、皆が彼に求めていた姿を体現しつつある。中に切れ込んでのシュートやクロスと見せかけてマイナスへの折り返しなど求めたくなってしまうが、J1のDFがわかっていても止められないほどの縦への推進力を身につけてほしい。

WBのケアが中途半端で、ボールを受けた後に時間をもらえた。

 鳥栖は片方のSBを押し出して同サイドに起点を作り攻略していくのがよく見られる形であるが、この試合は右SB原田がその起点となる役割。しかし前半はその立ち位置が効果的でなく、意図を持ってボールを動かしても中々チャンスには繋がらず。むしろポジションを動かしすぎてマークが曖昧になったり、セカンドボールに対応できない場面が目に付いた。湘南が食いついてきたプレスをかわした場合か、ミスを突いてカウンターに出る場合を中心にチャンスを作っていた。
 後半に入ると修正が入ったのか、原田で平岡を食いつかせてその背後のスペースを使えるシーンが見られるように。51分のシーンはその典型で、河原が絡み右サイドから突破してヒアンのシュートチャンスを生み出した。直接のチャンスメイクだけでなく、サイドに張ったSHがDFラインを押し下げて中盤との距離を開かせようとしていたが、湘南は田中のフィルター力や池田・山田のカバーで事無きを得ていた。


 互いに自分たちの良さを見つめ直し、それを相手に押し付けるようなサッカーが見られた90分。軍配は配置的な優位を味方につけた湘南に上がった。

■守備の改善はどこから?

 この日の湘南は相手を待ち構える守備ではなく、前から奪いに行く守備に回帰。自分たちの良さをもう一度見直した結果なのだろうか。同点弾は迅速なトランジションを見せた畑のプレッシャーがきっかけであるし、良い意識付けが反映されたシーンだった。
 しかし当然ながら課題も残る。15分のシーンは前のプレス隊と後ろのDFラインの意識が揃っていなかったことによる陣形の間延びによって生じたピンチ。前から行く守備を行うのであれば、DFラインも同様に縦にスライドする必要がある。前から奪いに行く場合、DFラインが相手と同数になるリスクを引き受けなければ、かえって相手をフリーにして危険なシーンを作られることになる。

前から行くならDFラインは同数を受け入れて、
ミンテか大野は縦にスライドして23番のマークを担当し、
茨田をもっと早く前に行かせるべきだった。

 35分にミンテがスライドして菊池にチャージしたシーンはこの場面の修正とも受け取れるが、まだタイミングが遅い(その結果としてアフターチャージでイエローカードを受けている)。ミンテ自身がスライドして対応する場面での判断にはまだ迷いが見られるようなので、彼が安心して後ろを任せられるように他の守備陣との連携を高めてほしい。

 次節の町田は長いボールを使いながら、相手の守備陣形を縦に横に引き伸ばそうとするサッカーを展開する。そんなチームに自分たちから間延びしてしまうのはもはや自滅に近い。思い出し始めた自分たちの良さを再確認し、コンパクトな陣形の一枚岩となって相手の攻撃を跳ね返していきたいところである。


試合結果
J1リーグ第12節
湘南ベルマーレ 2-1 サガン鳥栖

湘南:福田(25')、阿部(46')
鳥栖:富樫(13')

主審 木村 博之

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