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2024オフシーズン記事② ”5-3-2システムのビルドアップ例 ” ~インテル、マルセイユ、ローマ、ウディネーゼの場合~


 5-3-2システムにおけるビルドアップの話パート2。今回はパート1に引き続きのインテルに加えて、その他3チームをザッピングする形である。筆者が視聴可能なリーグ(環境=DAZNのみ)よりフランス:リーグアンからマルセイユ、イタリア:セリエAからローマとウディネーゼをチョイス。
 なお今回はタイミングが合わずスペインからはモデルなしとした。5-3-2を採用しているアトレティコは今後チェックしてみたい。


パート1はこちら。


・モデル1:インテル

 セリエA首位のインテルより、1/14に行われた11位モンツァとのアウェイゲーム。前節ヴェローナは4バック(4-2-3-1)、今節モンツァは5バック(5-4-1)で相手のシステムによってインテルの選手が立つ位置が変わっている点に注目したい。

開始時の立ち位置

 注目するのは両WBの位置。ヴェローナ戦では降りてCBからのボールを受けていたが、この試合では逆に高い位置を取って前線に張り続けていた。これにより対面するモンツァのWBが押し下げられて5バック化、残りの5人でプレスをかけることを強要させていた。
 湘南のゲームで思い出されるのは10月に行われたホーム神戸戦の後半立ち上がり、両WGの武藤とパトリッキをCBだけで抑えきれずに押し込まれ続けた場面。後ろ5人と前5人で分断されてしまうと5バックを採用するチームは厳しくなる。WBがプレスにも最終ラインにも参加出来る位置でないと、徐々に追い込まれてしまうのだろう。

WBとFWの位置でスペースメイクに成功
モンツァSHがプレスに来てもIHやCHにパスすればOK

 5バックのモンツァにとってキツい状況を意図的に作り出した上、FWが中盤まで降りることでプレス隊が前に出るのを牽制。その結果3バックの左右CBがフリーとなって開いたスペースをドリブルで運び、余裕をもってモンツァ陣内侵入に成功した。

 ヴェローナ戦では相手SBを引っ張り出したり迷わせたりするためにWBが降りていたが、モンツァ戦では相手WBを最終ラインで釘付けにするためにWBが高い位置で張っていた。つまりWBは対面する相手守備者を都合のいい位置に置く(=釣りだして背後にスペース生成、押し込んで自陣側にスペース生成)ことがビルドアップにおける重要な役割の一つであることが分かる。どこに立てばよいかは相手守備者と守備方法次第であり、原則とルールを繰り返し実行してピッチ上で解法を見つける過程を楽しみたいところだ。


・モデル2:マルセイユ

開始時の立ち位置

 続いてフランスはマルセイユより、1/13に行われたストラスブールとのホームゲーム。マルセイユは7位、ストラスブールは9位の中位対決である。

 マルセイユはインテルと異なり、4バック相手でもWBを下げずに高い位置に上げる形。GKが3バックの間に入り込んで疑似的な4バックに移行していた点も特徴的だった。
 しかし対するストラスブールは4-5-1で構え、マルセイユの中盤からFWまでマンマークで捕まえている状態。構えられた守備ブロックには穴がなく、マルセイユは最終ラインでボールを回さざるを得ない時間が生まれていた。

マルセイユの特徴的な配置

 ストラスブールは無理してプレスに行くことなく人を捕まえることを優先していたため、マルセイユは中長距離のパスを使ってWBかFWの1on1に委任。勝てればチャンスにつながるが、印象では勝率5割未満。どちらかといえばストラスブールがカウンターを発動するシーンの方が目立っていたように思う。
 やはり5-3-2システムにおいてはWBとFWにかかる負担が大きく、チームによってはこのポジションに入る選手の個人能力任せとなりがちなのかもしれない。

WBとFWの個人能力に任せた組み立て


・モデル3:ローマ

開始時の立ち位置

 三番目は再びイタリア・セリエAのローマから、1/15に行われたミランとのアウェイゲーム。ミランは3位、ローマは9位の上位と中位の対決だ。なお先日解任されたモウリーニョ監督は、前節退席処分を受けた影響でこの試合ベンチ入りしていない。

 対戦相手のミランは4-3-3を採用、ローマWBは降りてCBからのパスを受けていたが、ミランSBはさほど強くアプローチをかけずに背後のスペースを気にしていた様子。ローマの中盤~FWでパスコースを作る動きは多くなく、FWはWBの斜め前に立つが簡単に消されていた。
 というのもローマにはピッチ中央に位置するアンカーを起点としたい意図があったようで、彼にボールを届けるための動きが優先順位の上位にあったように思われる。同サイドのIHがボールを持つWBと同じライン(平行のポジション)までサポートに降りるランニング。後ろ向きで相手からのマークもあり、ボールを受けたらすぐに奪われそうな状態から一気に反転。相手陣内へ向かって走り出すと、先ほどまでIHが使おうとしていたスペース周辺がガラ空きに。そのタイミングでアンカーの選手が顔を出してボールを受け、逆サイドや先ほど反転してランニングしているIHに展開していた。

IHは囮で本命はアンカー
ピッチ中央で展開力のある選手に
ボールを渡すのが第一目標

 しかしながらハイプレスで食いついてくれる相手であれば有効な手段かもしれないが、この日のミランは早い時間で先制(11分)したのもあり、そこまでボールへの圧力を高めない。試合展開も相まってローマがアンカーにボールを渡すころにはミランは守備ブロックの形成を済ませており、起点作りに時間をかけただけのリターンがあったかは微妙なところであった。


・モデル4:ウディネーゼ

開始時の立ち位置

 最後はウディネーゼより、1/15に行われたフィオレンティーナとのアウェイゲーム。フィオレンティーナは4位、ウディネーゼは16位で上位下位の対決である。

 ウディネーゼはバックラインからのショートパスによる組み立てはほぼ放棄。RWBに入る選手の身長とフィジカルを活かし、ハイボールからのセカンドボール回収が主な前進方法だった。ピッチ上での約束事として競り合い役と回収役が明確で、相手よりも速い反応でセカンドボールを拾うのが狙い。仮に上手く拾えなくてもその場から強いプレッシングを開始。相手ボールホルダーに集団で襲い掛かり、ボール奪取を企んでいた。2023シーズン終盤戦の湘南も似たようなサッカーを見せ残留を掴んだが、強い既視感を覚えた。

ショートパスやドリブル以外の前進方法
これもまたチームで約束事を共有している


・4チームを見ての所感

 簡単ではあるが、欧州5大リーグから5-3-2システムを採用している4チームのビルドアップに注目して取り上げてきた。偶然かもしれないが同じ手法を取っているチームは一つもなく、それぞれ独自のやり方で相手ゴールに迫るための準備を行っていた。
 しかしながらビルドアップにおける練度の高さとリーグ順位はある程度相関関係があると言えそうで、相手合わせて臨機応変に対応しながら組み立てられるインテルはリーグ首位、組み立ての形があるローマやマルセイユは中位、組み立てを放棄しているウディネーゼは下位となっている。ボールゲームであるサッカーなので当たり前ではあるが、ボールを主体的に握るチームの方が勝率は高くなるのだろう。

 筆者の印象として、昨シーズンの山口監督はインテルを参考にしていたように思われる。とくにLWB(杉岡)が降りてLIH(平岡)が斜めのランニングでスペースに飛び出す動きはそっくりであった。したがって目指すサッカーを成立させるためには選手たちはかなりの成長を見せる必要があるし、教科書的なわかりやすい形が提示されない(=相手によって最適解が変わる)ため選手の理解と判断力が足らないと行き詰まってしまうのも理解できた。サポーターが"ビルドアップを何とかして欲しい"と一言で希望を言うのは簡単だが、難易度の高い要求をしているかもしれない点は心に留めておく方がよいだろう。
 昨シーズン負けが込んだ際の”選手にやらせます”という監督の発言がサポーター間で物議をかもした記憶があるが、発言の本意としては、”(より理解と成長をさせ、勝利につなげるためのトレーニングを)選手にやらせます(=自分たちスタッフはそれを用意します)”にあったのかなと想像する。確かなことは何もわからないが。

 勝率を高めリーグ上位に食い込むことを目指すのであれば、ビルドアップの練度を高めるのはほとんど必須事項である。新体制発表会では明確な目標は掲げず”結果を残す”とコメントしていた監督であるが、志半ばで諦めた道を新シーズンもチャレンジするのか、はたまた異なる別の道を目指すのかは注目したいところだ。
 サポーター各位においても、インテルの試合を見て湘南が目指す理想形がうっすらとでも頭にあると新たなサッカーの楽しみ方が見つかるかもしれない(何より大体の試合に勝利するのでストレスがない!)。


 次回はビルドアップに関する記事を踏まえ、湘南の5-3-2システムにおける各ポジションの役割や新戦力たちに期待するポイントを妄想込みでまとめるつもりである。
 それでは今日はここまで。続きはまた次回。

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