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一人じゃ描けない未来図がある、走れ!  2024.05.15 柏レイソルvs湘南ベルマーレ マッチレビュー

開始時の立ち位置と嚙み合わせはこちら。

開始時の立ち位置
各ポジションの噛み合わせ




■柏の策と湘南の対応

 雨が降り出しそうな空模様の柏でキックオフ。湘南は2名のメンバー変更。累積警告による出場停止の田中に代えて、古巣対戦の茨田がアンカーを務める。FWは福田に代わって鈴木章斗が入り、その他のメンバーは前節町田戦から変更なし。
 柏は前節から1名変更。島村に代えて戸嶋がSHに入る。ここ数試合は左サイドでジエゴとのコンビネーションを見せていたサヴィオが右へ移動。左に戸嶋が入った。変更の理由としては、対面する畑を攻撃面で圧倒してプレーエリアを押し下げることが第一に考えられる。また後述するが小屋松と戸嶋の2枚で大岩を迷わせる狙いもあったのではないかと推察する。


 試合立ち上がりはどちらもゴールに迫るシーンを作り出して主導権を争う。9分は柏がおそらく用意してきた形。最終ラインをFW細谷が引き付け、ボールサイドである大岩の周辺にFW小屋松と左SH戸嶋を配置。鈴木雄斗は幅を取る左SBジエゴに引っ張られているため、フリーになった戸嶋は池田の背後、茨田の横のスペースで前を向いた。
 柏がサヴィオを右においた理由として、彼がフリーにしてはいけないリーグ屈指の要注意人物なためである。何を当たり前ことをと思うかもしれないが、それ故近くにいる大野はサヴィオをマークせざるを得ない。3バックの1枚がSHのケアに当たると、必然的に残りの3枚(2トップ=小屋松・細谷+SH戸嶋)のいずれかが空いてしまう格好になる。小屋松と戸嶋が立ち位置を入れ替えながら大岩の周辺を漂い、フリーの状態で茨田横のスペースでボールを引き出すシーンが前半は繰り返し見られた。

柏の左サイドでフリーの選手を作る狙い。
大岩と雄斗を迷わせてスペースを突く。



 10分の湘南は左サイドの良い関係が表れたシーン。大野がボールを持っている場面、平岡が関根に寄っていきピン留め。サヴィオがボールに寄って行った背後で畑がフリーでパスを受けた。ここ数試合畑が前向きで仕掛けられているのは、こうした平岡のサポートがあるからだろう。
 11分にはその逆の関係が生まれた。同じく大野がボールを持っている場面、畑に対して右SB関根が寄ったことで生まれたスペースに平岡がランニング。タイミングよく大野からのパスが出て、左サイドからボックス内まで侵入した。

左サイドの関係。畑に対して関根が寄れば、平岡は背後をとれる。


 18分には畑に決定機。ミンテからのフィードに抜け出して絶妙なファーストタッチでボールをコントロールすると、迷わず左足を振り抜いた。しかし松本のセーブによって阻まれる。

 20分には柏にチャンス。味方が湘南の選手を引き付けて生まれるスペースにまたも戸嶋がタイミングよく走り込んでチャンスメイク。サヴィオから小屋松のクロスは大野が弾いて事なきを得る。
 25分~30分ごろから湘南のWB、とくに鈴木雄斗が下がって後ろの人数を確保、大岩を助けるような位置関係に。だが32分、戸嶋と小屋松が狭いスペースをコンビネーションで巧みに突破、関根のクロスから細谷のヘッドというシーンを作られた。大岩の周辺が埋まったので今度は茨田の周辺を狙ってきたように思うが、狭められたスペースでよく正確にプレーしたなという印象だ。

柏の戦法を湘南は人海戦術で解決。


 その後はセットプレーから両チーム共にゴールへ迫る。最大の決定機は43分の柏。右サイドからのフリーキック、サヴィオのボールに細谷が頭で合わせてファーサイドを狙うが、ボールはポストを叩きゴールならず。



 ハーフタイムで湘南は選手交代。FWは章斗に代わって福田が入る。柏は選手交代なし。
 48分はその福田に決定機。柏のコーナーキックをミンテが阻んで福田へ繋ぐ。持ち味のスピードあるドリブルで長い距離を運び、左サイドで待つ阿部へ預けて相手ゴール前に侵入。鳥栖戦と同じような形で絶妙なクロスにあわせスペースに飛び込みシュートを放つが、ゴールの左へわずかに逸れてしまった。身体を左に向けるがやや早かったこと、松本が瞬時に寄せてシュートコースを狭めたことが影響したのだろう。
 50分も大きなチャンス。雄斗が右サイドで相手を剥がしてドリブルで運ぶ。阿部がボールを引き取り、空いたスペースに逆サイドから走り込んだ畑へパス。右足でファーサイドへ向かって巻くようなシュートを狙うが、ボールは枠の外。立て続けに湘南が長いドリブルと阿部のパスの組み合わせでシュートチャンスを作る。53分には畑の突破から得たボックス左からのフリーキックを阿部が直接ゴールを狙うが、松本のセーブに遭う。



 柏は後半に入るとカウンターを除いて大きなチャンスを作れない時間が続く。前半は効果を発揮していたフリーの選手を作るギミックを見破られたこと、池田がボールへの寄せよりも背後の選手を消す意識が高まったこと、福田の投入で最終ラインへのプレッシャーが高まったことなどが原因として考えられる。
 58分に柏も選手交代。小屋松を下げて長身の木下をFWに、DH白井に替えてテクニックに秀でた島村を右SHに投入。戸嶋がDH、サヴィオは左サイドへ移動した。準備してきた策を諦め、いつもの交代でペースを取り戻そうとする狙いか。
 63分には関根に代えて川口。右サイド2名を入れ替えたのは、どちらも畑とのマッチアップでイエローカードを受けたのも影響しているのかもしれない。
 59分、なおも湘南のチャンス。大野のパスを受けた平岡が反転し、阿部から池田と繋ぎピッチを左から右へ横断。フリーで抜け出した雄斗がゴール前45度の位置からシュート。しかしまたも松本によって防がれる。



 木下が前線に入った柏は、彼を基準点として細谷が引いて受けたり、逆に木下がサイドに流れてほかの選手がゴール前に入ってきたりと、前半よりもピッチを広く使って湘南の守備陣形を広げようとする意識が見られるように。単純な高さ狙いの戦いをしてこなかったところが前節よりも難しさが生まれた要因だろう。また前半と違いボールを引き出せる細谷がサイドに流れても、ゴール前にターゲットが居る状態を作り出せていた。


 68分に湘南は3枚替え。阿部、平岡、茨田を下げてルキアン、山田、奥野を投入。
 その後73分に湘南が先制。木下へのシンプルなフィードを大野が頭で畑へ繋ぐと、中央に向かってドリブル。フリーの状態から乱れたDFラインのギャップを突いた池田へロングパス。抜け出した池田がボックス内で時間を作ると、中央への折り返しにあわせたのは福田。チーム内得点王が途中出場でも結果を残した。サポーターが歌う自身のチャントを両手を広げてうなずきながら聞く姿は、さながらロックバンドのボーカルのようだった。

 湘南が先制した直後の76分、柏が同点ゴール。右サイドのスローインに対して山田がボールに食いついたのをきっかけに生まれたスペースを戸嶋が利用。島村から戸嶋、サヴィオ、細谷と繋いで最後は木下がゴールに押し込んだ。山田は試合を通じてプレーの中に味方も敵もおらず、主語がすべて自分だけだった印象である。結果が出ていない焦りなのか、コンディションが十分でないのか、いずれにしてもこの試合では精彩を欠いていた。



 阿部が下がった後の湘南はアタッカーこそ揃っているものの、そこどう届けるか?が町田戦に続いて不明瞭だった。違っていたのはルキアンと福田頼みの縦狙いだけでなく、畑を使った横の選択肢も生まれたことか。本来であればつなぎ役を山田に任せたいところであるが、それは叶わなかった。押し込まれたWBも後半の半ばごろまでは勢いを持って前に出て行けていたが、徐々に鳴りを潜めるように。さすがに90分を通してハードなアップダウンは発揮できなかった。
 そして89分に福田が危険なタックルで一発退場。湘南が持つ縦の矢のひとつを失った直後、セットプレーからサイドに張った島村が引き取ってクロス。胸からお腹あたりでトラップした細谷が、素早い反転からゴールへ叩き込んで逆転弾。終了間際に柏のエースが待望の今期初ゴールを挙げた。


 雨中の試合は終盤に動く最後まで目が離せない一戦となった。自分たちの良さを見失った札幌戦の頃に比べればフォームを取り戻しつつあるが、ライバル達は同じかそれ以上のペースでチャレンジと修正を繰り返している。進化のペースを上げなければ、順位をあげることは叶わないのを今一度認識する必要がある。


■守り切れないのはなぜ?

 先制ゴールまでは押し気味に試合を進めながらも、徐々に相手に押し込まれて最後には決壊。今シーズンすでに何度も見たような光景だが、なぜこの試合もリードを守り切れなかったのだろうか。

 筆者としてはゲームプランの上で阿部の存在があまりにも大きいのでは、と感じている。彼のいるいないでボールの進み方がガラッと変わってしまうためである。
 町田戦でもそうだったが、阿部が下がってルキアンや福田、章斗といった前線の顔ぶれになると、引いてボールホルダーの味方を助ける選手がいなくなり、より直線的にゴールへ向かう選手が増加する。それは彼らの特徴であるため、ゴールへ向かうことが悪いというわけではない。問題はピッチ上での役割の話だ。
 自陣やハーフライン付近でDFライン・中盤の選手がボールを持った時、阿部はプラスワンとして味方を助ける動きとともに、周囲の選手(特にIH)の上がりを促す。それがボールホルダーの選択肢となってボールを保持する時間や場面が増えることに繋がり、ひいてはチャンスを生み出すのである。

現在ストライカーと中盤を繋ぐ役割を担っているのが阿部。
チャンスメイクだけでなく、ボール保持の時間を保つのにも寄与している。

 だが体力的な問題で60〜70分前後で交代すると、湘南はアタッカー陣の特徴を活かしてDFラインの裏狙い、あるいはポストプレーを期待するフィードが極端に増加する。問題はそのフィード自体というよりは、成功確率の話である。相手のDFライン裏に蹴ってルキアンがマイボールにできる確率はどれほどのものだろうか。おそらく1試合の中で1〜2回起きれば良い方だろう。逆に言えばそれ以外は相手にボールを渡している状態である。
 ようやく奪ったボールを相手DFラインの裏に蹴って奪われ、また守備に戻る…というのを試合終盤で疲れが見えてくる時間帯にやっていたら疲弊するのもやむなし。失点シーンで畑の寄せが甘くなるのも必然だろう。
 前節のように相手が見せる攻撃の形が数パターンであれば守り切れるかもしれないが、長身FWのポスト、DFライン裏へ抜け出し、アンカー横のスペースアタック、サイドのドリブル突破など複数の形を見せられたら難しい。もっとシンプルに言えば、ボールを渡して相手の攻撃回数が増えるのだから失点の確率が上昇するのは当然、という話である。

 つまり一番苦しい時間帯に自らの手で首を絞めているような状態にあると筆者は考えている。選手が入れ替わったとてボール保持に関する取り組みを変えなければ良いのだが、ある部分から先は阿部という個人の力量に頼ってしまっているのが現状である以上、それも望めないというところだろうか。
 だが阿部と同じような役割ができそうな小野瀬は負傷離脱中であるし(そもそも彼が中央でのプレーがどれほど得意かはわからないが)、そのようなプレーができる選手はなかなか市場にも出てこない。ではどうすればよいか?を筆者なりに考えてみたので、そちらを列挙して今回は締めとしたい。よければ皆さんも考えてみてほしい。あなたが監督なら、どうやって湘南を勝利に導く?

70分以降を含めた戦い方の案(阿部の交代後)
・阿部がいる時間のうちに出力を全開にしてリードを奪い、交代以降は5-4-1で逃げ切り狙い。点が取れなければ引き分け前提。
・戦い方は変えず、阿部交代時にシステムも変更して中盤を厚くする。ボールサイドに人数をかけ、阿部の役割を複数人で担う。
・割り切って戦い方を変える。フィード中心で戦い、中盤に走力を投入してセカンドボール争いとプレッシングで走り勝つ。


試合結果
J1リーグ第14節
柏レイソル 2-1 湘南ベルマーレ

柏 :木下(77')、細谷(90'+1')
湘南:福田(73')

主審 池内 明彦

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