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デザイナー・ダイアリー「Barcelona」(Designer Diary: Barcelona)

本記事は、Dani Garcia氏が2023年8月13日に投稿した「Designer Diary: Barcelona」の翻訳である。

Dani Garciaはバルセロナ出身のボードゲームデザイナー。かつては、3Dアーティスト、ビデオゲームデザイナーであったようだ。彼が手掛けた作品として「Arborea」があるが、ほぼ新人デザイナーのようである。

残念ながら、本作品の日本語版の出版予定は明らかではない(今のところ、Board&Diceの作品のローカライズを多く手がけるテンデイズゲームズからの出版予定はないということだ。)。もっとも、BGG上でもかなり注目された作品ではあるので、どこかから日本語版が出版される可能性があるように思われる。

また、一部の熱心なボードゲーマーが本作品を高く評価していたことがみられた(例えば、これ)。X(旧ツイッター)においても、プレイされた方が高い評価をするポスト(旧ツイート)が散見された。翻訳する意義は多少ともあると思われる。

本記事は、日本語版の発売予定のないゲームのデザイナー・ダイアリーであり、ほとんど読まれることはないように思われる。訳者がモダニズム建築や都市計画について少し興味を持ったことがあり、それもあってか翻訳している。なお、日本では、ル・コルビュジエが有名すぎるが、これについてはジェイン・ジェイコブズの批判と併せて知ると面白いところがある。

元記事は以下のリンク先を参照されたい。ヘッダー画像はBGGから引用させていただいた(クレジット: Kacper Frydrykiewicz)。

クレジット: Kacper Frydrykiewicz

ユーロゲームによくある典型的なテーマといえば、ヨーロッパの都市を建設するというものだ。私はずっとバルセロナに住んでいて、ゲームデザイナーになるのであれば、いつか私も必然的に自分の街を取り扱ったゲームを制作することになると思っていた。ただ、私は、完璧にバルセロナがテーマとなったゲームを製作したかったので、バルセロナに関連した歴史的な出来事を見つけなければならなかったんだ。

幸いにも、1つだけじゃなくて、2つの重要な歴史的出来事を見つけることができた。それに、それらは同じ時期に起こったものだった。それはアシャンプラ(L'Eixample, ※定冠詞とEixampleがリエゾンしていると思われる。)とモダニズム(Modernisme)だった。

加えて、アシャンプラはグリッド状に形作られていて、そのおかげで、(これを)ゲームメカニズムに変容させるのがとても簡単だったよ。だから、その点は、イルデフォンソ・セルダに感謝だね。

クレジット: W. Eric Martin

歴史的背景

時は19世紀半ば。大体150年間あまり、バルセロナの街は軍事的な支配下に置かれた戦略的拠点と考えられてきた。そういった理由で、その壁の外で発展することは許されておらず、結果として建物や工場が壁内に詰め込まれて、ヨーロッパ全土の中で最も人口密度が高い都市となった。バルセロナの旧市街地の生活環境は非常に劣悪で、病気が頻繁に大流行した。労働者の平均寿命はだったの23歳か24歳だった。

バルセロナ城壁が最終的に破壊されてからまもなく、現在では都市計画(urbanism)の創設者と考えられているイルデフォンソ・セルダが、バルセロナに切実に必要とされていた拡張計画である"アシャンプラ"創設のための計画を提案した。その建設は1860年に始まった。

新しい都市のデザインは、時代の先を行っていた。彼は、歩行者、馬車、路面電車が十分に行き来できる空間を提供し、全ての建物に対し、日光がその街路に至るまで当たるようにするための極めて広い道を計画した。加えて、交差点での視認性を高めて、歩行者に更なる空間を生み出すための有名な八角形の街区と一緒に、新鮮な空気と社交の場を提供するための緑地を計画した。

建設が開始してしまったら、彼の計画が完璧に遵守されたわけではなかった。けれど、そのほとんどが尊重されることとなって、今の象徴的なバルセロナの格子が作り出された。

モダニズム、あるいはカタロニア・モダニズムは、19世紀後半から20世紀初頭にかけて隆盛を極めた建築様式であった。その最も有名な例としては、サグラダ・ファミリアがある。セルダの都市計画は、全ての建物を同じような外観にして全ての市民が貧富の差に関係なく同じような建物に住むというものだった。しかしながら、セルダの構想が、その当時の建築家がデザインしていた力強くて(exuberant)装飾的なファサード(façades)と調和しないため、近代の建築家の多くはこのアイディアを嫌がった。

クレジット: Kacper Frydrykiewicz

当初のデザイン

アシャンプラのグリッドはゲームの中心に据えなければならなかった。そして、すぐに、縦と横(そして時には斜めの)街路を発動させるために、旧市街のバルセロナを離れたがっている市民を街路の交差点に配置するというアイディアを思いついた。

いくつかの理由から、このアイディアは、木、レンガ、金属、ガラス……といった10種類以上のリソースを管理しなければならないゲームを制作するための良いアイディアだと考えた。それぞれの街路がリソースをもたらすので、少なくとも各手番で市民を交差点に配置することにより、そのうち2つのリソースを受け取ることになる。その後、プレイヤーは、リソースを消費してその市民の隣にファサードを建築し、ファサードが建築された街区に印刷されたアクションを発動させる。また、各街路の報酬は、リソースタイルを無作為に選ぶことでゲームごとに変わることになるので、毎回異なるゲームにも感じられる。

私の最初のアイディアというのは壊滅的ということがあって、幸いなことに、自分がデザインした作品の最初のテストプレイはいつも一人で行うことにしている。自分の市民をどの交差点に配置すべきかを決断することは、いかなる場合にも2つのリソースを獲得することになるので、あまり面白いものではない。特に、自分が欲しいリソースがどれかわからなかったり、そのうち1つしか欲しくなかったりする場合には、面白くはない。それに、大抵の場合に、ようやく何か建設できるようになってから、後々で"適切な"アクションを実行するために必要なリソースを集めるためには3手番かかるので、このゲームは抑揚があまりなくて(with much happening)本当にペースがのろいと感じられた。さらに、プレイヤーは、各街区のファサードを1度に1つしか建設できなかったため、その(※街区の)サイズの小ささを念頭に入れると、Tabletop Simulator上であっても、かなり骨が折れる作業になっていくことがわかっていた。

このアイディアのいくつかのバージョンを試したが、どれも当初案よりかは悪くなっていた。そして、もう1回だけ試してみようと考えた時には、このプロジェクトを中止して、新しいことに取り掛かろうとしていた。けど、最後の1回は、従前のゲームとはほぼ真逆の方向のゲームに完全に変えることにしたんだ。幸いなことに、テストプレイも、従前のものとは真逆のものとなった。修正する必要がある部分が多くあったけれども、ゲームのコアとなる部分がきちんと機能していることがわかった。

以下では、どうやってこのゲームを変化させていったかをみていこう。

クレジット: Kacper Frydrykiewicz

アクションとリソースを交換する

当初のアイディアでは10種類以上のリソースが存在していたけれど、今ではコインと布の2つだけとなった。従前のバージョンでは、コインは"万能のリソース(any resource)"として用いられていたので、私は他のほとんどのリソースを取り除き、"万能のリソース"となる1種類のトークン(※コイン)だけを残すことにした。異なるリソースがあることはデザイン的な観点から有益であるとともに、布は当時のバルセロナとカタルーニャで生産されていた主要な製品でありテーマ的にも合致していたことから、布も別個に残しておくことにした。

こうすることで、何の報酬も得られない街路が11個できてしまったこととなる。従前の案では街路で10種類以上のリソースが生産されることになってたからね! そこで、従前の案では街区にあった全てのアクションを街路に移したんだ。今では、プレイヤーは各街路でアクションを実行することができるようになった。そうすることで、同じアクションのペア(又はトリオ)がなくなるので、どこに自分の市民を置くべきかという意思決定が一層と面白いものとなった。また、リソースをもたらすアクションやリソースが必要となるアクション、それに資源を必要としつつ資源をもたらしてくれるアクションも作成した。そうすることで、プレイヤーは、理想的には、手持ちのリソースで全てのアクションを完全に実行しつつ、次の手番の準備のために十分な量のリソースを回収することとなる交差点を見つけたいと思うようになる。

従前のバージョンにあったように、3手番かけて1つのアクションを実行するのではなく、手番ごとに適切なアクションを二、三個実行するようになったので、当然、更に満足感のあるものとなったし、街路、交差点、路面電車等でボードが埋まっていくスピードが一層と速くなった。

けど、このゲームの主要な目的は、街区を建設していくということだったので、そこも変更しなければならなかった。

クレジット: Kacper Frydrykiewicz

街区

まず変えた点は、いくつかの小さなファサードのタイルを街区に収めなければならないという問題を避けるために、単にファサードを建設するのではなく、街区全体を建設することだった。

しかし、テーマ的には、その変更は問題だったんだ。アシャンプラの歴史の重要な部分として、セルダが各街区に建てられるファサードを2つだけにすることを熱望していたけれど、現実には、ほぼ全てのファサードと街区の内部が、移転を希望する人々が多かったせいで建物で満たされてしまったということがある。それに、土地の所有者にとっては、建物のほうが公園よりもはるかに収益性が高かったしね。

これを象徴するために、2つのファサード、3つのファサード、4つのファサードが個別にある3種類の街区タイルを作った。そして、既存の街区タイルの上に、より多くのファサードがある街区タイルを建設できるというルールを付け加えた。こうして、どれだけセルダの計画に忠実に従うかによって各街区タイルは異なる結果をもたらすようになるため、どの種類の街区を建設するかを決断することができるようになった。

街区についての他の重要な変更は、建設時にアクションをもたらさないようにしたことだった。その当時のこの街が必要としていたのは、まさに街区の建設であったので、これをこのゲームの中心的な要素にしたかった。だから、街区の建設を実行したくなるようなものにしなければならなかった。また、どこに市民を配置したらいいのかという意思決定の際に、緊張感も作り出したかった。本当に実行したい2つのアクションがあるこの交差点に市民を置くべきか、それとも、手番の終わりに建設ができるようにこの他の交差点に市民を置くべきかといった感じだね。

当初のデザインの一端は既に緊張感を作り出すのに資するものだった。街区は、手番終了時にフリーアクションとして建設され、可能であれば、プレイヤーは、他の誰かが街区を建設する前に報酬を得ようとして街区を建設したくなるのが普通だ。それに、建設コストの一部は、建設される街区に隣接した市民を取り除くことで支払われることとなっていた(テーマ的には、彼らは住む場所を見つけたことを表している。)。そうすることで、プレイヤーは、建設したいのであれば、特定の交差点に市民を配置せざるを得なくなって、どこにワーカー(※市民)を配置するのかを決断する際に緊張感が生まれる。

そうした要素を残しつつ、プレイヤーが他の2つの方法で確実に街区を建設したいと思うようにした。1つの方法は、それぞれの街区の種類には、このゲームの2つの歴史的な要素に則した異なる報酬がある。セルダが計画した形で建設をしたら、ゲームの中間得点時に役立つ利益が得られる。彼の計画に逆らって建設をしたら、中間得点時では損するが、モダニストの能力が向上し、ゼルダを怒らせた代償として強力な即時報酬がもたらされる。

クレジット: Kacper Frydrykiewicz

建設を魅力的なものにするもう1つの方法は、おそらくユーロゲームのデザイン本で最も簡単な仕掛けである勝利点が得られるというものだ。それぞれの建物は、既にアシャンプラに移動している市民によって異なる勝利点がもらえる。だから、ゲームが終了に近くなるほど、その勝利点報酬は増加するので、報酬が段々と増えるにつれて建設したいという衝動が高まっていく。

私は、3つのトラックを設けることでこれを実現した。市民の種類により1つずつトラックがあり、そこに建設するために使った市民を置いていくことで、建設による勝利点報酬を決める。具体的には、3つのトラックのうち最も低くて市民が置かれていない(uncovered)ものが勝利点となる。得点計算をテーマに合致させるために、トラック上の市民の数を重要とするだけではなく、特定の種類の市民を避けることが勝利点報酬を低いままにさせるようにして、市民の種類も重要なものにした。これも、セルダの計画の一部だった。彼は、最初に富裕層をアシャンプラに移動させるのではなく、同時にあらゆる社会階級の人たちをアシャンプラに移動させたかったんだよね。

クレジット: Kacper Frydrykiewicz

ゲームの終了

市民トラックに連動して勝利点が増加していくメカニズムが機能することがわかったら、これをゲームの長さを制御するためにも使うことができると考えた。大抵の場合、私はゲームのデザインが機能し始めるまで、このことを考えないため、当初の試作品では、ゲームの終わりは決まってなかった。

一旦は、ある種類の市民がトラックの最後に到達したら、ゲーム終了のトリガーとなるようにした。その後、ゲームごとのプレイ時間は、プレイヤーがいつどんな建設をしていたかによって変化することとなったが、これらのトラックには、もっと面白くさせる可能性を秘めていたし、別のテーマ的な要素と関連づけることができた。

ゲームのテーマの1つには、プレイヤーがセルダの計画に従うかモダニズムに接近するかを決断するというのがある。自分のアクション次第で、セルダトラックを上げたり下げたりすることになる。ゲーム中にある3つのポイントにおいて、条件を達成しているかを判断して、どれほど達成したかと、自分とマーカーがセルダトラックのどこにあるかによって勝利点を得られる。

市民トラックによる制御によってゲームがいつ終わるかが決まるようにしたので、こういった中間得点と市民トラックとを連動させるのは、ほぼ当然のことだった。そこで、1種類の市民がこういった得点ポイントに到達した際には、毎回、すべてのプレイヤーは状況を評価して得点を得る。その後、セルダトラック上のマーカーをリセットして次の得点機会に取り掛かり始めるんだ。

クレジット: Kacper Frydrykiewicz

新しいバージョン

それでも、このゲームの多くの部分を変えなければならなかったし、全てのアクションがうまく機能するように多くのバランス調整と微修正をしなければならなかった。ただ、どこに市民を置くべきだろうかというたった1つの意思決定をすることが自分と他のプレイヤーの双方に膨大な影響を及ぼすことにつながるので、これまでの変更で、ゲームの基礎がしっかりしていることは既に理解することができていた。

ある場所に市民を配置することは、この手番でどんなアクションをすることができて、次の手番のプレイヤーを妨害するということにとどまらず、この手番で建設することができるかできないのかということや、更にどの種類の街区を建設することができるかということをも決定してしまう。もし、建設するのであれば、建設する街区の周辺に配置された市民にも左右されるが、全員のために建設による勝利点を増加させていくかもしれないし、セルダの得点フェイズを引き起こすかもしれない。また、市民を配置することで、次のプレイヤーが手番で、可能性としてどこにどんなものを建設するかに影響を与えることとなる。だから、どこに市民を配置するかを決断する際には、そのことを念頭に置きたくなるかもしれない。

このシステムは、多くのプレイヤーとの間の間接的なインタラクションを生み出す。そのインタラクションにおいては、自分が行ういかなることも、次のプレイヤーに対して新しい選択肢を消したり生み出したりするかもしれない。これこそが、デザインする際に、私が探し出そうとする傾向にあることで、このゲームの初期バージョンには間違いなくなかったものだ。

終わりに

一時は、このプロジェクトを中止する間際だったけれども、中止しないであと1回の最後のテストを行ってよ勝ったと思うよ。このゲームには、私にとっては身近で特別なテーマを有している。それに、このゲームをうまく製作することができて、私の街の歴史の一部をよりよく知ってもらうのに役立つのが嬉しいね。みんなに、この街の歴史の面白さとこのゲームの楽しさがわかってもらえることを願っているよ。

Dani Garcia

以上

※デザイナー・ダイアリーとしては、他に以下のものがある。

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