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【ショートショート】召喚士

 草木も眠る夜深き刻。

 薄闇の支配する部屋の中央、鈍色の机が狼の牙を思わせるような冷たい光を反射する。

 その机の四方ではどこからか吹き込む生暖かい風に煽られ、蝋燭に点る紅い炎が揺れていた。

 四方の蝋燭の中央には幾重にも描かれた円。その魔法陣の上には粘土のような塊があった。不気味に揺れる炎の作る陰影が、まるで幼子の肉体を想起させる。

 その塊に静かに手を伸ばす者がいた。年の頃は30歳前後。すらりとした長身で、闇を吸収したような黒髪が、異国の彫刻を思わせる壮麗な容貌を印象付ける。普段は象牙色に光る瞳が、蝋燭の火に照らされ紅く染まっていた。

 彼は口の中で小さく謳う。声は低く耳に心地良い。しかし人の言語らしからぬ特殊な発音で、どこか聴く者を不安にさせる声だった。

 やがて、彼は抑えきれない感情を放出するように、魔法陣の中央にあった塊を無造作に持ち上げる。それを魔法陣に力強く叩きつけると同時に、はっきりとした声で高らかに宣言した。

「我が呼び声に応え、ここに姿を示せ! 出でよ、グルテン!」




…………。

えっと。

昔書いたものを漁っていたらこんなの出てきましたシリーズです。
パン屋のコメディを書こうと思ったのですが、書き出しで満足しちゃったやつです。
ちなみに、店の名前は「いつもにこにこ、やましろベーカリー」。

こんなイメージのお店。イラストACからいただいてきました。

イケメン中二病(or今でいうところの異世界転生者か?)がパン屋でバイトするお話です。まあまた気が向いたら書くということで。

あ、ちなみに蝋燭はその後怒られる要素ですが、魔法陣はこういうやつです↓↓



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