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遠藤正二朗 完全新作連載小説「秘密結社をつくろう!」第9話 ─裏切り者を粛清しよう!─Chapter1-2


鬼才・遠藤正二朗氏による完全新作連載小説、第9話が開始!

魔法の少女シルキーリップ」「Aランクサンダー」「マリカ 真実の世界」「ひみつ戦隊メタモルV」など、独特の世界観で手にした人の心に深い想いをきざんできた鬼才・遠藤正二朗氏。

【遠藤正二朗 (えんどう しょうじろう) 】1970年3月3日生。父親は安部譲二氏。学生時代からその才能を発揮し、中学生にしてコミケデビュー。金子一馬氏と同じアニメ制作会社に在籍し、人気アニメの原画マンも担当。その後、出版社を経て、日本テレネットに入社。「魔法の少女シルキーリップ」「Aランクサンダー」などをメガCDで出し、セガサターンで「メタルファイターMIKU」「マリカ 真実の世界」「ひみつ戦隊メタモルV」などを手がけ、現在も現役として活躍中。現在『Beep21』に完全新作小説「秘密結社をつくろう!(略称:ひみつく)」を毎週連載で執筆!

▼遠藤正二朗氏の近況も含めたロングインタビューはこちらから

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主人公の山田正一やまだ まさかず
は、ある時『鍵』という形で具現化された強大な力を手に入れる。その力を有効活用するため、主人公のマサカズと弁護士(伊達隼斗だてはやと)は数奇な運命を歩むことに。底辺にいた男が人生の逆転を目指す物語をぜひご覧ください!

前回までの「ひみつく」は

▼第1話〜順次無料公開中!!

▼新たな挑戦者とミッションが描かれる「第6話」はこちらから

▼衝撃の展開が描かれる「第7話」はこちらから

▼新たに加わる5人の若者とホッパー対抗策が描かれる「第8話」はこちらから

【前回までのあらすじ】ある日、手にした謎の「鍵」によって無敵の身体能力を手に入れた山田正一(やまだ まさかず・29歳)。彼はその大きな力に翻弄ほんろうされる中、気になる存在になりつつあった後輩を失うことになってしまう。最初の事件で縁ができた若き敏腕びんわん弁護士の伊達隼斗(だてはやと)に支えられながら、2人は「力」の有効な使い道について、決意を固め、会社を起業する。まるで秘密結社と思えるような新会社"ナッシングゼロ"に3年ぶりに会う、実の兄・山田雄大が入り込み、マサカズの秘密を知ってしまった彼はそれを暴露ばくろしようとし、最悪の結果を迎えることに。これからはとうな道を進もうとした伊達とマサカズはあるルートからその受注に成功し、新たなミッションをこなす中で、バスジャック犯を撃退する活躍も見せていた。そんな中、マサカズと伊達の元に非常に高い能力を持つホッパー剛という青年が現れる。ホッパーが活躍する中、伊達を凍り付かせる一報が入り、それをきっかけに伊達はマサカズに事業を辞めることを申し出る。そんな中、マサカズはホッパー剛に鍵の秘密と力をたくしてしまい、ゆがんだ暴走の矛先ほこさきは伊達に向けられ、マサカズが駆けつけた時にはもう…。その後、マサカズの元には新たな5人の若者たちが集まり、ホッパーを迎え撃つ体制ができつつあった中、クリスマスの夜にその日がついにやってきた!

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第9話 ─裏切り者を粛清しよう!─Chapter1

 玄関の扉は、ほんの一瞬でへこんだ鉄塊てっかいとなり、冷蔵庫の前に崩れ落ちた。眼前に立ちふさがる青いひとみには鋭い光が宿り、眉間みけんには深いしわが寄せられ、ほおはときおり波打つようにこわばっていた。黒尽くろづくめの彼が、殺気と怒気どきを何の疑いもないまま強く激しく発しているのが、マサカズにはよくわかった。それはまるで、沸騰ふっとうしてふたふるえるヤカンの様でもあった。
相変あいかわらずの悪行三昧あくぎょうざんまいというわけだな」
 その指摘に心当たりはある。そしてそれに対する糾弾きゅうだんがこのタイミングになると思っていなかったのは、単なる油断に過ぎない。マサカズは起きている状況に対して、まず何から手をけるべきなのか考えていた。この事務所で、ホッパーたけしの襲撃にう。そもそも想定していた事態で、だからこそ周囲にいる久留間くるまたちもやとい入れた。レザースーツにプロテクター、しかもマントというで立ちは予想の外だったが、それは瑣末事さまつごとに過ぎない。
 彼が出現した際、取るべき対応は鍵の秘密を厳守させることと、二本の鍵を返却させることにある。それには説得、交渉という手立てが最も穏当おんとうなのだが、対峙たいじするホッパーはおよそ言葉が通じる様な相手ではない。それはこの荒々しい出現でよくわかる。ならば交戦し、制圧し、腕力で脅迫し、鍵の奪還だっかんを果たすしかない。自分にそれができるのだろうか。七浦葵ななうらあおいが転落死したことで、同じ鍵でも使用者によって、その力の増幅範囲が変化することはわかっている。それが身体能力にるもののなら、自分とアマチュア格闘技王者であるホッパーとの差はあまりにも大きい。しかもホッパーは鍵を使った者同士の戦闘を、一度ではあるが、おそらく経験しているので、自分の知らない鍵の特性をつかんでいる可能性もある。それでもマサカズは、この事態の解決手段は暴力での衝突しかないという結論に至ろうとしていた。
結菜ゆな貴様きさまらの凶行きょうこうを録音し、自分にそれを送信してきた。貴様らは我が聖域をおかした! これは命をもっつぐなうほかない!!」
 ホッパーが突きつけてきた事実に、マサカズのかたわらにいた佐々木が舌打ちをした。彼はホッパーの妹、ホッパー結菜の拉致らちの実行を担当していたため、ひそかに録音されてしまった事実に対していきどおりを感じている様だが、マサカズはそれに共感したくなかった。
「互いに名前を呼ばん巧妙こうみょうさはあっぱれと言ったところだが、自分にはお前の声が明確に認識できたぞ、山田正一! 秘密結社ナッシングゼロの首魁しゅかいにして、エボリューションキーを独占せんとするエゴイスト!!」
 指を差し、ホッパーは力強くそう言い放った。“エボリューションキー”とは、おそらくこの“鍵”のことだろう。格好かっこうと言動からこの三週間ほどで、彼を取り巻く状況に変化が生じているのはわかる。忽然こつぜんと姿を消し、猫矢ねこやの追跡も完全にかわせたのは独力によるものではない。
「ホッパー、伊達さんを殺したのか」
 たずねるべきことは山積さんせきしていたが、マサカズが最初に問うたのはそれだった。
ほふった。ヤツもエボリューションキーを使うとは、まさかの予想外だったが、こちらに遠く及ばん非力さだった」
「殺したんだな」
「ああ、き者にした。ヤツの鍵も回収し、保管させてもらった。そうだな、あの日はそもそも貴様を粛清しゅくせいするのが第一目標だった」
 “殺す”という言葉をけているホッパーに、マサカズは強くいきどおった。この男はどこまでも幼稚ようちだ。力を手に入れ、ダークヒーローの様な身なりをし、言葉も時代がかって何やら以前の彼より浮き足立っている様子だ。伊達がきらうタイプの一種だと思える。しかし、そのきっかけを与えてしまったのは自分だ。だから後始末あとしまつはこの手でしなければ。マサカズは真山まことやまと対した道場での状況を思い返し、この幼稚で横暴で、圧倒的な力を持つであろう襲撃しゅうげき者を、どう制圧するのか思索した。
「この力は、公益のために用いるべきなのだ。自分はその信念に基づき、東京地検の門を叩いた。正面から、正々堂々と。地検は自分の力を認め、今では特別捜査官の地位を手に入れ、この装備も提供させた!」
「信じがたいな。僕も似たような考えには思い至ったことがあるけど、実行できなかった。それにあれからまだ三週間程度だ。あまりにも展開が早すぎる」
「面白い人物がいてな。彼の理解は早かった。ある事情があってな、公安はかねてから、異常な力を有する傷害犯の存在に注目していたそうだ。この力は……」
 ホッパーは言いよどむと言葉を止めた。
「で、お前は何をしにきた」
 マサカズの問いに、ホッパーは「秘密結社の殲滅せんめつだ」と答えた。
「さっきからテメー、なにふかしてんだオラ!」
 そう怒鳴どなり散らしたのは川崎だった。彼がホッパーの胸ぐらをつかむと、浅野もそれに続きけ出した。咄嗟とっさに割って入ろうとしたマサカズだったが、その刹那せつな、ホッパーは右の手の甲で川崎のほおを張り、左膝で浅野の腹を突き上げた。二人はソフトビニール製人形の様に軽々とはじき飛ばされ、マサカズの足元に落着した。川崎はうつ伏せにも関わらず顔が逆さまの正面を向いていて、浅野は顔と両膝を支点に、床へ”く”の字を作り、その腹部からは内臓と思しき臓物がおびただしい量の鮮血と共にこぼれ落ちていた。久留間くるまはその場にへたり込み、佐々木はかばんをまさぐり、流石谷さすがやは二つの遺体にすがり寄った。
「我が妹という聖域をおかした貴様きさまらになさけは無用。この聖夜で全ては無とかえる!」
 二人の命を意図して奪ったのにも関わらず、ホッパーは平然とそう宣告した。このままでは全滅する。そう判断したマサカズは、勝算のないままホッパーに向かって突き進んだ。射程距離を確信したマサカズはスポーツジムで教わった、うろ覚えの右ストレートを放った。それに対してホッパーは身体をらすことで呆気あっけなく回避かいひし、マサカズの背中を軽く叩くと事務所の中へと踏み入った。
 一本のジャックナイフが、ホッパーのほおに命中した。本来なら彼の命を奪えるはずだったそれは、力なく落ち、倒れていた川崎の背中に突き刺さった。片膝かたひざき、腕を振り抜いた姿勢の佐々木はその結果に驚愕きょうがくした様であり、歯をガチガチと鳴らせていた。マサカズが追撃のため振り返ると、ホッパーは背中を向けたまま左手を高々と突き上げた。
Judgment・Shootジャッジメント・シュート
 ネイティブな発音でホッパーはそうつぶくと、突き上げた左拳を、を描くように力強く振り下ろした。すると久留間くるま、佐々木、流石谷さすがやは、頭から足までの全身から破れたホースの様に細かく血をき流し、ぐったりと崩れ落ちた。それだけではない、デスクやパソコン、テレビにも細かな穴が空き、ホッパーが左手から散弾のような何かを放ったのは明らかだった。マサカズはすっかり恐ろしくなり、扉を失った玄関から階段に向けて駆け出した。

 はちの巣にされた久留間たちも恐らくだが絶命した。今ごろは肩を並べて、クリスマスの街を焼き肉店に向かって歩いていたはずの仲間たちが、またたく間にき者にされてしまった。千駄ヶ谷せんだがやの国立競技場の白い屋根に着地したマサカズは、ホッパーのあまりにも一方的な殺戮さつりくに対し、仲間の冥福めいふくいのひまもなく、ただ困惑こんわくするしかなかった。どう考えても選択をあやまってしまった。言葉をわす余裕があったのだから、伊達の殺害についてただすのではなく、久留間くるまたちの脱出を最優先し、体当たりなりして動きを封じるべきだった。いや、あるいはそれも容易にさばかれ、結局はあのショットガンの様な一撃で全滅していただけなのかもしれない。
 マサカズは考えるほど、正解がわからなくなってしまっていた。ホッパーの出現、襲撃はかねてから想定してはいた。しかしあのように完全装備で、初対面の久留間くるまたちを容赦ようしゃなく殺害するとは予想外だった。見込み違いで追い詰められるのは、これで何度目のことだろう。この先があったとしても自分は常にこの、“想定内だが予想外”にさいなまれていくのだろう。せっかく、そうなっても対応できるように準備をしようとしていたのに、完全に粉砕ふんさいされてしまった。
 どうすればいいのかすっかりわからなくなっていたマサカズは、周囲を見渡した。すると、ひとつの黒い影が十メートルほど離れた、競技場の屋根に降り立つのが目に入った。ホッパーだ。なぜここに逃げたのがわかったのだろう。政府の力を得ているから、何らかの追跡システムを用いたのだろうか。それともこの建物があまりにも分かりやすいランドマークなので、適当に目星めぼしをつけてきたのだろうか。どうでもいい、今は生存を優先するだけだ。
 マサカズはその場から跳躍ちょうやくし、次の着地場所を求めた。

 マサカズが次に降りたのは、原宿の繁華街はんかがいだった。この選択は失敗だと思えた。繁華街は犯罪も多いといった事情から、防犯カメラの設置間隔がせまく、守備範囲が広い、以前、伊達はそう言っていた。ホッパーが公安や警察と連携しているのなら、こういった人混みはできるだけ避けて逃亡しなければならない。人々の喧騒けんそうとクリスマスソングを耳にしながら、二メートルほどあるツリーの前で、マサカズは逡巡しゅんじゅんしていた。長期戦にそなえるため、ファーストフード店でハンバーガーを二個、コーラをひとつ、テイクアウトで購入したマサカズは、この五分間でなにやら奇妙きみょうな感覚を覚えたのだが、その正体はわからなかった。

 ひとのない夜の明治神宮まで辿たどいたマサカズは、池のほとりでハンバーガーを食べるため包装紙をがそうとした。その途端とたん、背中から脳天にかけ、鋭い痛みを感じた。マサカズが迷いなくその場から跳ぶと、降下してくる黒い影とすれ違った。手にしていたハンバーガーに目を移すと、それにはパチンコ玉のような金属球がめり込んでいた。久留間たちの命を奪ったその正体を知ったマサカズは、それを躊躇ちゅうちょなく使うホッパーにさらなる恐れをいだいた。そして同時に、再び違和感を覚えてしまった。

 マサカズは、ひとまず代々木の事務所に戻った。ここまでの逃走でわかったことは、追跡者が逃走者の現在地を突き止めるのに、いくらかの時間を要するということだった。
 もう日も暮れているので、跳躍ちょうやくした逃走者の逃げ先を目視するのは困難だからだろう。今のところよほどひらけた場所でなければ、ひとまず逃げることだけなら継続ができそうだと思われる。
 血まみれの事務所に入り、五人の亡骸なきがらを見渡したマサカズは「ごめん」とつぶいた。生存というわずかな可能性を確かめるためだったが、それは一見しただけで皆無かいむであることがわかってしまった。おびただしい数の死体をの当たりにすることなど、普段ならき戻し、正気を保つのも難しいはずだ。しかし、能力により嗅覚きゅうかく遮断しゃだんしていたので、本来襲われるはずの死臭も感じられなかった。なによりも直近まで迫っている死の危険が、そうしたまともな感覚を上書きしてしまっていた。すると、階段を上ってくる足音を耳にしたので、マサカズは窓を開けると夜空に向かってねた。
 戦えるはずがない。そう、これまで人殺しや怪我けがを負わせることはあったが、あれは“戦い”ではなくただの暴力を行使した結果に過ぎない。しかし現在の相手はあの容赦ようしゃのない、己の正義に微塵みじんの疑いもない男だ。ハンバーガーを食べている相手の頭上に、弾丸級の殺傷さっしょう能力を込めた鉄の弾を撃つような非情の権化ごんげだ。それにしてもこのままどうする。鍵の力は有限であり、ぶだけとは言ってもやがて限界は訪れる。
 聖夜を、マサカズはすぐ近くの未来図も描けぬまま、あてもなくぶしかなかった。

第9話 ─裏切り者を粛清しよう!─Chapter2

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