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不水溶性な日常

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少しのこと、たくさんのこと、いっぱい考えたこと…についてのエッセイ。 あんなことやこんなことを誰かと共有できたらいいなと思っています。
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記事一覧

泣くおとな

泣くおとな

【朗読用作品】 泣く人を見つめるひとりの目線

泣いている大人を目の前で見るのは久しぶりだ。
テレビの悲しいニュースの中で泣いている人や、スポーツ選手の悔やし泣きや嬉し泣きなど、こことは違うところで泣いている人の姿はよく見かけるのだけれど、今、目の前にいる人と私と隔てるものは何もなく、すぐそこで、ひっそりと泣いている。
街中のカフェというシチュエーションもさることながら、店内に流れるジャズも

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乖離のうしろ姿

乖離のうしろ姿

【モノローグ・寸劇台本】 登場人物…年配女性とその娘

(設定…年配女性が誰かについさっき経験した出来事を話している)

美江さん、ちょっと聞いてよ
さっきね、ほんの10分くらい前なんだど、ここからスーパーに行くまでの大通りあるじゃない
あそこをね、「今日も寒いわ、手袋もして来りゃ良かった」と思いながらスーパーに向かって歩いてたのよ。
そしたら、ほら途中に動物病院があるじゃない、あそこら辺でね、前

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【essay】 母の残像

【essay】 母の残像

母の日に寄せて…

街を歩けば、花屋の店先にさまざまな色のカーネーションが並び、広告メールには『母の日のプレゼントはもうお決めになりましたか?』という言葉が並ぶ。どちらも悪気があるものではないが、そういう母の日の状況を横目で眺めながら、「後にも先にも、私には関係ないわ」と思う。関係なさを自覚するために、少し早い母への思いを吐露してみた。
これで2024年5月12日は、知らん顔で通り過ぎることにしよ

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【essay】唐十郎という演劇人の死...

【essay】唐十郎という演劇人の死...

5月4日、唐十郎が逝った。

野暮ったい言い方で申し訳ないが…
唐十郎は私の演劇においての父であり、師匠である。
彼の芝居を観て、まだ10代だった私は心が躍り、光を見つけ、いい意味での世の中に対する反骨心が沸々と湧き出た瞬間だった。
その私の人生を変えた唐十郎というひとりの演劇人がいなくなったということの寂しさを、愕然と、唖然と、そして無気力さを感じながら訃報を読んでいる。

紅テントは異様な雰囲

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【essay】 花という名の猫のこと

【essay】 花という名の猫のこと

運命的な出会いというのは、本人が思っているほどドラマチックなことではなく、聞かされる方はどこか胡散臭さを感じることも多いのだが、運命的な出会いというのはこの世に本当に存在するものなのだろうか?
それは人と人だけではなく、人と動物、人と物などでもいいのだが、この人に会うために私は生まれてきたとか、ドラマや映画や小説などで星の数ほど描かれてきている。果たしてそれは本当に運命だったのか、単なる偶然の重な

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【essay】永遠を求めない、スープの話

【essay】永遠を求めない、スープの話

あれは、2024年があけてまだ1週間も経たない時だった。
宅配便で身に覚えのない荷物が届けられて、中身を確認してみると
『おめでとうございます。当選したました』という印刷された挨拶文とともにスープメーカーが入っていた。
その挨拶文を読んでみると、私は半年くらい前に、よく覚えていないが雑誌のプレゼントキャンペーンに応募していたらしく、それの3等が当たったらしい。それがスープメーカーだった。
さて1等

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【essay】 27歳という数字の曲がり角

【essay】 27歳という数字の曲がり角

私はもうとっくに27歳の時期は過ぎてしまった。
過ぎてしまったから、今からあれこれ考えてもしょうがないのであるが、
講談社から出版されている『わたしたちが27歳だったころ』という本を読んでいると、自分が27歳だったころのことをどうしても思い出してしまう。
『25歳はお肌の曲がり角』という化粧品メーカーのコピーが世の中の25歳前後の女性たちをヒヤヒヤさせていた時期があったり、『29歳のクリスマス』と

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映画館の隅っこで、未来をそっと夢見てた

映画館の隅っこで、未来をそっと夢見てた

【映画にまつわる思い出 with WOWOW 参加作品】

少し戸惑っていた。
私は映画に少し戸惑っていた。
今の私の素直にな気持ちである。
ありとあらゆる映画をテレビやスマホで見れる時代になった。
映画好きにとっては最大級の幸せな時代なのかもしれない。
しかし、子供も頃、母に連れられて行った映画館の子供さえも魅了する雰囲気が忘れられない。
重い扉を開けて中に入ると、外の世界と一線を画した世界がそ

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新年、後ろからズドン

新年、後ろからズドン

2024.1.3(水曜日) New Yesr

まずは …
1 月 1 日に発生した令和 6 年能登半島地震によりお亡くなりになられた方へご冥福をお祈り致しますとともに、被災者のすべての方に心より見舞いを申し上げます。

本来であれば「おめでとうございます」と、朗らかに投稿始めをするつもりでいた。
しかし、実際には不穏な新年の幕開けとなった。
元旦に起こった能登半島地震、2日には羽田空港でJAL飛

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濡れた言葉を干す

濡れた言葉を干す

2023.12.12(火曜日) washed my words in a washbowl

言葉を干す夢を見た。
言葉を干すとはどういうことか?
今も風変わりな夢を見たなぁと思っている。
夢の中で、私はフェイスタオルくらいの大きさの和紙に言葉を書いている。
文章ではなくあくまでも単語だったり熟語だったりで意味はあるようであまりないような言葉ばかりだ。
その言葉が書かれた和紙が何枚もある。
私はそ

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アボカド  マカロン  パンケーキ

アボカド マカロン パンケーキ

その人は有名デパートのロゴが入った紙袋の中から丁寧に包装された四角い箱を取り出しながら「お昼一緒に食べようと思いまして買ってきました」
と、少しもったいぶったような口調でその包装紙を剥がし始めた。
私は「えっ、ありがとうございます。気を使わせてしまってすいません」
と、そのお昼ごはんの中身に期待を寄せて心から礼を言った。
「これね、作りたてなのを入れてもらったのでおいしいですよ〜、これ嫌いな女性は

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トレルナプロジェクトのせまい裾野

トレルナプロジェクトのせまい裾野

何ヶ月かぶりにイオンに行った。

どうしてもイオンにしかないような日用品が必要になり、いつもの私の行動範囲とは反対方向にぶらぶらと散歩がてら歩いて行く。
一駅くらい歩くとイオンモールがある。
買い物を終えてトイレに行きたくて女子トイレの個室に入ったら、トイレットペーパーの上の方に通常のトイレにはない何やら見慣れない箱が設置されている。なんだろうと思って見つめる。
『OiTr』と表示があるその箱は女

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いつまでも たどり着けない ドアの外

いつまでも たどり着けない ドアの外

出かける時の段取りの悪さは、だいたい女房の方と昔から相場が決まっているのだが、我が家の場合はそれは亭主である。

女房は一旦外に出るとなると、心身ともにいろいろ時間がかかる。
やれ髪型が決まらないとか、予定していた服が似合わないとか、挙げ句の果てにはアイラインが綺麗な線になってない…などと言い出す。
そして何もかもなんとかサマになったところで「さて、出かけるわよ。わたくしのお出ましよ」と、一端の女

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日記の終い方

日記の終い方

かつて私は『立ち食い蕎麦を食べるように明日を迎えたい日記』という変なタイトルのブログを書いていた。
タイトルでもわかる通り、ちょっと気を衒った感じは否めないが、そこのところはまだ若かったということを考慮して見逃してほしい。
気を衒っていたわりには長く続いて11年も書いていた。
数年前にそのブログをやめたのだが、やめる時にすべてのデータを消去して手元にあった下書きなども全部消去したので今となってはど

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