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ちいさな商店街の「文脈」

お店が無いのにナゼか商店街理事、
ECでワンピース屋さんを営む経営者:くまさんです。
好きなおでんの具1位は大根・揚げ豆腐が同率、2位はスジ肉です。

さて、何事にも「筋(スジ)」と云うものがありますが、個人は勿論、企業にも勿論、文化や国家にも勿論「筋」は有りまして、その一本の筋道を通すこと、転じて商店街の文脈に沿う事の大切さと落とし穴と方法論を、優しさと切なさと心強さとシュガーソングとビターステップで書き綴りますね。加えて、酒と泪と男と女と部屋とYシャツとわた(もういい)

筋を通す事、文脈に沿う事

「筋(スジ)」にも様々御座いますが、①血筋を把握し、②道筋を決め、③粗筋を創る…と言う流れが、商店街に取って違和感の無い文脈の沿い方かと思います。

①血筋:血の繋がり。血統。
②道筋:物事が通るすじ道。
③粗筋:大体の筋道、概略。

①血筋を把握すること

さてさてどう云う事かと言いますと、まずは①血筋の把握
これは商店街の中の方々に取っては常識ですが、外の人達には想像にも無い事柄のひとつで、各商店街には必ず「一族」が幾つも存在しております。

「●●家の●代目さん」や「●●家に嫁いだ婿殿」

そもそも人通りのある所に目をつけた商店さんらが集まり形成された、商店街の歴史を考えれば当然と言えば至極当然の流れ。商店さんの中でも抜きん出たお店は売り場を拡大し、余剰金を土地やビル等の資産に変え、それらの管理を家族で回してゆく…と、数十年後には由緒正しき商店街の血統が出来上がります。

そして各商店街組合のリーダー・中心的存在は、自然とその一族末裔または婿殿に。代々の教えか両親や祖父母を見て育った為か、その方々は地元愛・地域愛が桁違いの熱量で、近似した境遇の人達との絆も短期で深まり、地元民の興味に即したイベントや商品展開を行える、言わばその商店街の雰囲気の源泉となる方々です。

また、無報酬であるにも関わらず、可処分時間を街づくりに投資するその熱き想いは、受け継がれた商売の維持・発展が第一の中、地元への愛情が無ければ成し得ない事だと思います。

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反面、どうしても他の商店さんらとの街に対しての温度差は生じてしまいます。そもそも雇われ店長さんや地元民では無い方に取ってのまちづくりなど、日々の仕事や家庭事に較べればアトのアトのアトの優先順位です。歯医者の定期検診よりも足の爪を切るよりもアトです。ですが勿論、"まち活"をされる方々が偉く、しない方々が悪でも無く、これはもう立ち位置の相違に依る、ある程度仕方の無い事なんです。

そして地元愛が強過ぎるが故に、影響力を持った方に排他的素養がある場合は危険です。せっかく新しい事を始めようとしている人に対し「土地にそぐわない」として、イベント中止どころか土地を追われた方も居ると聞きます。それが権謀術数に陥れば目も当てられません。勿論、その土地の雰囲気を守る必要性はありますが、独善的では無く皆で議論した末に決めなければ、地域の発展を著しく阻害し続けるでしょう。

以上の事から、その商店街で何かをはじめるに当たって、その中心的存在・影響力のある一族への配慮やご意向考慮は、以後ご支援ご協力を得る為にも、情報を得て近隣との摩擦を起こさない為にも、初期段階では極めて重要な事項となります。決して媚びる訳では無く、その事も文脈形成要素の一つと認識し、そこを起点に主軸を作れば結果的に近道となるのです。

②道筋を決めること

次に「道筋:物事が通るすじ道」ですが、その商店街においての優位性を把握する事に加え、中心的人物・影響力のある一族等の意向や特性を考慮し「誰に・何を・どの様にすべきか?」いわゆるよくあるフレームワークの【Who・What・How】を考える事で、ある程度の方向性が見えてきます。

例えば、京の台所として有名な錦市場商店街は、湧き出る地下水を活用した井戸を冷蔵庫代わりに使用していた事から始まります。

そして京野菜・京漬物等を中心とした京都独特の食文化を網羅する事で、今では国内外問わず観光客で溢れる商店街にまで成りました。その初めの井戸を持つ家主はきっと、初期の中心的存在であり、その周囲に集まる人達で「地元民に・旬の食材を・新鮮な状態で売る」と言うシンプルな【Who・What・How】に落ち着き、そぐわない店が淘汰(時には排除)された先の400年後が「今」なんです。

どんな商店街にも、少なからず特徴や偏りが生じていたり、視点を変えれば価値と成り得る物があります。それが「What ≒ 何」かを見定める事が、その商店街や街自体の十年後、百年後、果ては千年後にも続く道筋となるかも知れません。(万年後は人も文化も今の形を成していないですもんね。)

その「何か」がもし、今誰もやっていない事や、他に無い売り方であれば尚良しで、先程の錦市場商店街もきっと、地元民の潜在欲求を想像しつつ当時では極めて斬新なスタイルを築いたからこそ他を圧倒し、そのスタイルが脈々と受け継がれて来たのだと思います。

模倣商店街が現れた時期もあったでしょうが、表面だけをすくい取っても所詮真似事は偽物です。長い歴史を紡げたのは強い背骨を持つ錦市場だけだった…と言う事です。見栄えばかりで竜骨の無い船など、すぐに転覆してしまいますから。

手持ちの資源、目を凝らすと見えてくる資源、少し見せ方を変えるだけで資源足り得る不良在庫、誰かと誰かが協業すればより強力になる資源、よく調べると●●業が多い…などなど、優位性と成り得る物や人や景観や体験が、何処にでもきっと有るはずです。

血筋を確かめ、優位性を洗い出し、人を惹き付けるあらすじを創る。それこそが商店街の文脈となる訳ですが、ここからが容易ではありません。だってぶっちゃけ、何処もかしこも…偶然の産物だと思うんですもの!

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③粗筋を創り出すこと

基本的にはどんなに有名な商店街、例えば先述の京都:錦市場商店街も、名古屋:大須商店街も、大阪:天神橋筋商店街も全て、実のところ偶然に偶然が重なって出来た場所だと思っています。

ある一時期から慎重にブランディングしてきた商店街はあると思いますが、「当初より数十年、数百年先を見据えて始めました! 狙った通りにこうなりました!」…なんて商店街は無いのではないでしょうか。

いやでもだがしかし、その数々の偶然の中できっと、天啓の様なヒラメキが降りてきて、その尻尾を見つけた瞬間にギュッと掴んで離さなかった人が必ず居ます。そいつを引きずり出して皆の前にさらけ出し、その気付きに共感し、ついてきた数名からその歴史の文脈が始まったのです。(…あれ? なんか宗教っぽいぞ?)

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⇒ あらすじ①受け継ぐべきは、雰囲気

では、逆算する様にあらすじの創り方を考えてみましょう。「作る」では無く「創る」としたのは、現代ではキャラクター性が(特にちいさな商店街では)必須と感じているからです。共感や応援を得られる様な、推しの商店街となる為に必要な考え方の一つです。

まず、商材やサービスありきでは有りますが、代々受け継がれてゆくべき優先項目は、にぎわい創出のソフト面よりも、インフラ構築のハード面よりも、その場にしか無い「無形資産 ≒ 雰囲気」です。AIやレジレスやロボティクス等の人いらずテクノロジーが浸透する未来なら尚更です。

これまで理屈っぽい言い方をしてきたのに、ここで超曖昧な言葉、雰囲気様の登場です。それは数値化が不可能で言語化もし難いのに、確かに存在するからです。しかも現場に居る方々やリピート顧客らの共通認識でしか理解出来ない、本質的な「雰囲気」

さて此処からしばし、よくあるブレストの時間です。⇒ その"雰囲気"が運営メンバー間で(なんとなくでも)相互理解・共有されていそうなら、ふわふわと思い浮かべて言語化して下さい。例えば理事長やメンバーの性質でも、お客さんから良く言われる言葉やお年寄りから見た印象でも良いです。抽出手法はマインドマップ(よくある①号)でも、KJ法の様な単語やアイディアの羅列でも良いです。AK砲でも文春砲でも良いです。(良くない)

⇒ あらすじ②源泉をイメージする

そして出来る限り絞り出したキーワード・アイディア・写真・主軸店舗・メンバーの特性等を並べ散らかしたら、次はふるいにかける様に取捨選択して下さい。どんどん細かな目のふるいに掛け、最小限にまとめて下さい。偏りが見られるはずです。偏るまで絞って下さい。ギュウゥゥゥゥ…っと。

それが独り善がりにならない様に、顧客イメージもした方が良いです。ペルソナ(よくある②号)を立てると尚良しです。この商店街に来ているリピート顧客、またはこれから一番に来てほしい顧客層の、核となる様な人の偶像化です。

そこでまた言葉が絞られて、目的や目標が明確化します。してなかったら振り出しから再スタートです。バタフライ・エフェクトやオール・ユー・ニード・イズ・キルが如く、まどマギやエンドレスエイトが如くです。そうして脳味噌に汗かいて出てきた目的や目標が、数十年~数百年後に続く文脈のになります。それは単なる商材やサービスかも知れませんし、リッツカールトンのクレド(よくある③号)の様なホスピタリティかも知れません。御神体かも知れません。(さらに宗教っぽくなってきたぞ…)

⇒ あらすじ③継承化を意識する

さて、此処まででよくあるブレストタイム終了です。これで一定の答えは出ますが、結局その目的や目標の通りに商店街は変化しません。だって、そもそも違う思想のお店の集合体なんですもの。どれだけ頭を絞っても商店街全体としては無駄(乱暴)でしょう。

では、何故この様な「よくあるフレームワーク」を勧めたかと言うと、まずは実働メンバー間の意識共有・繋がり強化の為です。そんな、ベッタベタな狙いの為のベッタベタなやり方です。そもそも無報酬でリターンも明確では無い活動で、いつ解散しても不思議じゃない、そんな不安定なメンバーで、マインド醸成の種を創り、この先何十年も何百年も「雰囲気 ≒ キャラクター性」を継承させる為に、ベタなフレームワークはやはり機能的なんです。その為の言語化や、具体物への落とし込みなんです。

三宮本通商店街では、テーマである「無価値物の資源化 × アート&テクノロジーの実装」そして「有機的成長」をシンボリックに具現化した、緑化壁面の「芽ぐみの壁」がそれ(の一つ)に当たります。

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⇒ あらすじ④やる事の罠とやらない事の難しさ

此処で改めてあらすじの必要性ですが、「この商店街はこーゆートコロ」と言う認知を得られる為にする事ですから、「らしさを最大化して人を巻き込む事」が必要になります。そのらしさが、もし理事長が変わっても、影響力のある人たちが代替わりしても、想いを継承させる為の言語化や具現化ですが、そこには落とし穴があります。コラ半島超深度掘削坑の様な、アビスの様な底なしの縦穴が…

目的や目標を決め、それに向かってやるべきことリストを作るのは、比較的簡単です。未来への期待にサクサクと箇条書きで埋まるでしょう。その中で、ちいさな商店街はイベントが主体になり勝ちです。何もイベントが悪者では無いし、街の賑わいには必須ではありますが、落とし穴の代表選手でもあります。

それは何故かと訪ねたら、実際にイベントを始めるとまず、それをやり遂げる事で手一杯になり、目的への手段が目的に変わる場合があります。達成感が快感にも成りますし、アピールし易い成果でもあります。そして業者丸任せにすればしたで、目的やマインドの部分まで把握して下さる業者は少なく、最悪は他で成功したフォーマットを持ってきて其処に当て嵌めるだけに留まり、「やって人来て良かったね」の補助金使った一発花火で終わり兼ねません。

それを回避する為にはまず、やることリストと同時に、やらないことリストの方に重きを置くべきです。そのリストの方が極めて難しいのですが、それを確立させておかないと、イベントなりハード整備なりし始めた段階で直ぐに目的が宙に浮き始め、接地感が希薄な無重力状態にいつしか疲弊し、誰が為のまちづくりか分からなくなるでしょう。きっと応援もされません。

やらないことリストは、メンバー間で共有すれば団結力の接着剤に成る事は勿論、業者に任す時にはブランディングの防波堤にも成り、応えられない業者は向こうから断る様になります。

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⇒ あらすじ⑤蓄積だとか発信手段だとか

今は情報の集積も蓄積も発信も、スマホなりタブレットなりデジタルで幾らでも管理が賄えますが、本当にメンバーの身に沁みる、心に残るカタチで無ければ、来街者にも本当には伝わらず無意味です。

それは屏風に筆で描かれた教訓でも良いし、壁にスプレーで書いた事業理念でも、メンバーの腑にドスンと落ちれば何でも良いと思います。この意味合いにおいては、デジタル媒体がその他媒体全てに勝るとは思えません。が、流石にノロシで発信しても誰も読み取れませんので、一応言語か絵か物にしましょう。あ、音楽も良いなぁ。

そして有り勝ちなのが、「サイトに商店街の歴史を書いただけ」パターンです。そもそも商店街自体に興味がある人なんて殆ど居ません。ラーメン屋のこだわりスープの様に歴史を書いただけでファンになるなんて、マニアックな外国人観光客か街大好き酔狂人だけ(暴言)です。その前提で発信する事を心掛け、どうすれば応援されるか模索しましょう。

有機的成長

途中、「芽ぐみの壁」を指し有機的成長という言葉を使いましたが、一見には自然物を対象とした印象を持ちますが、実はビジネスや投資で使われる用語です。

商店街視点で一言で言うと「商売で成り立たせる成長サイクル」です。既存の商店街らしく無い事、パブリック・アートや次世代テクノロジーを挿入させようと言う試みはありますが、あくまで主役は商店(と来街者)! 文脈に沿い、奇をてらうだけの事はしない! 観光型商店街にはしない! と言う宣言、やらない事リスト発動です。

WEBで行われている様に、今後リアル顧客の足跡(トラッキング)は可視化され、末端市場まで機械的に分析・最適化、世界はよりフラット化してゆく訳ですが、人を惹き付けるには「胸を刺す物語性、嘘偽りの無い文脈」が不可欠になると思っています。

三宮本通商店街では、「アート&テクノロジーの実装で集客させつつ、相反する歴史的文脈は継承させる」その事を念頭に、これからも進んでゆきます。三つ子の魂が百も千も続く様にと………子供の頃、「(多胎児って意味で)三つ子の魂って百まで続くんだな!足したら300歳だな!」と思ってました😉

絵 と 文 と 写真:くまさん

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