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【観察するとは自分自身を体験すること】色んな音を表現した随筆や短歌

富久浩二さん撮影(心に語りかけてくる風景)

評価に伴ってくる感情や判断も含め、「気づくこと」が、観察すると言うことであれば、日本語は、とても美しい言語ということもあり、外国語とは、違った文化を生んできました。

その中でも、

「言葉を紡ぐ」

という行為が生み出したもの。

それが、

「随筆」

です。

そもそも、随筆とは、どのようなものなのでしょうか?

これに関しては、現代の日本人では、なかなか触れる機会も、少ないのではないかと思われます。

ただ、実は、堅苦しく思える随筆も、形を変えて、現代に、生き残っています。

そう、随筆とは、現代で言うところの

「エッセイ」

のようなものなんですね(^^)

作者の心に浮かんだことや、見聞きしたものを、文章にした散文であり。

現代の言葉を使うなら、

「ブログ」

のようなものだと言えるかもしれません。

随筆は、文学形式の一種として確立されており、多種多様な表現方法が用いられているため、より作者の味が出るのも特徴です。

そういう意味でも、日本古来の随筆は、面白いものが、多いと言えるのではないかと思っています。

また、本には、色んなタイプがあって、例えば、小説やドキュメンタリー等、ドラマティックに攻めてくるものもあるし、新書やビジネス書の様に、向上心を満たそうとしてくるものもあったりします。

しかしながら、この世には、随筆(エッセイ)というジャンルもありますよね。

特別な人間ではない作者が、たいしたことのない日常を綴る。

しかし、面白くてたまらない。

ページをめくっていくと、

「よくこんな文章が書けたな」

と退けぞってしまう。

時には、

「この本があるから生きていける」

とまで思わせる。

「うまい随筆(エッセイ)」というのが、確かにある。

「これぞ日本の名随筆(エッセイ)」と唸ってしまう本を、ここで、ご紹介したいと思います(^^)/

古い本の為、もし、古本屋さんに立ち寄る機会が有れば、探してみて欲しい本のひとつです。

それは、日本の名随筆

明治以降の各界著名人による随筆を、巻ごとに異なるテーマで編集した随筆集のシリーズであり、

【構成・体裁】
●全200巻におよぶ、本邦随筆アンソロジーの金字塔
●巻末に編者あとがきと執筆者紹介および出典を収載
●付録のテーマ別ブックガイドにより、さらに深い読書へも案内

とても読み応えがあると思います。

各巻ごとに、そのテーマ(個々のタイトルとなっている)にふさわしい編者が選定され、それぞれ、30から40編程度の随筆・エッセーが収録されたアンソロジーとなっています。

その中から、今回、作曲家、エッセイストである團伊玖磨さん編集の「日本の名随筆 25 音」をピックアップ。

本書を読んでみると、「音」も、未来の隣で、現在が、直ぐに過去になる時の流れで、人と同じように、一緒に生きているんだって事を、気づかせてくれます(^^♪

【内容目次】
芥川也寸志  女体説
芥川龍之介 ピアノ
鮎川信夫  跫音
池田彌三郎 松風の音
五木寛之  われらの時代の歌
内田百閒  聴衆席の笑声
遠藤周作  音痴のコーラス
大岡信   接触と波動(抄) [巻頭詩]
岡本かの子 ダミア
小倉朗   日本の耳
大佛次郎  オルゴール
折口信夫  筬の音
開高健   一発の弾音
川田順造  「太鼓で語る」ことば
北杜夫   蝉の話
金田一春彦 ドレミへの眼覚め
串田孫一  分教場のバッハ
小泉文夫  砂漠の音楽
小泉八雲  蛙(抄)
篠田桃紅  音
太宰治   音に就いて
谷川俊太郎 音楽のとびら
團伊玖磨  ちんちかちん
戸板康二  四重奏
遠山一行  会話の音楽
永井荷風  巷の声
中村汀女  球振り時計
夏目漱石  変な音
野村胡堂  蓄音機友達
畑中良輔  百済観音の微笑
花田清輝  ロカビリーと諸葛孔明
正岡子規  夏の夜の音
三國一朗  ラッパ
三島由紀夫 ベラフォンテ讃
室生犀星  笛と太鼓
森有正   辻音楽師
森本哲郎  イースター島の讃美歌
山下洋輔  ベートーヴェンは笑わない
吉田知子  祭太鼓
吉田秀和  レコードの憶い出

團さんにとっては、本書を読んでみたり、「パイプのけむり」( 「パイプのけむり」は、アサヒグラフ1964年6月5日、40歳から2000年10月13日号76歳まで、回数にして、1,8421回も続いていました。)を、摘まみ読みして感じるのは、

専門の音楽はもちろんのこと、

■旅のことも

■動物のことも

■植物のことも

■釣りのことも

■お天気のことも

■食べ物のことも

たぶん、科学者が、一つ一つ論理を積み上げて、或る時は、一流の研究者に聴き、指導を受け、山のような書籍を積み上げて、納得がいくまで踏査し、実験を試み、興味を持った事は、全てが研究の対象だったのではないかと感じる程、興味と経験のバリエーションの幅と奥行きが凄すぎます。

それが、読み手に対して、何とも、心地よく響き、一緒になって、のめり込んでしまうのでしょうね(^^)

ふっと思いついたのですが、私たちは、日々、五感(視覚・聴覚・嗅覚・触覚・味覚)から、たくさんの情報を得て生きています。

なかでも、視覚は、特権的な位置を占めており、人間が、外界から得る情報の80~90%は、視覚に、由来すると言われています。

では、私たちが、最も頼っている視覚という感覚を取り除いてみると、身体は、そして、世界の捉え方はどうなるのか?

観察するとは、眠っている自分に気づき、認知していなかった自分自身を体験すること。

「目の見えない人は世界をどう見ているのか」(光文社新書)伊藤亜紗(著)

モーリス・メルロ=ポンティに依れば、人の身体は、人の意志をあらわし、行為を実践する本体であるそうです。

「メルロ=ポンティの研究ノート―新しい存在論の輪郭」モリス・メルロー・ポンティ(著)現象学研究会(編訳)

「知覚の現象学」(叢書・ウニベルシタス)モリス メルロ ポンティ(著)中島盛夫(訳)

身体の舵取りは、五感を通じて得る情報を吟味して実践されます。

神経生理学的に言うと、私達の感覚は、全て、「触覚」を基底にして成り立っているそうです。

私達の認識に、

■化学成分との感覚的接点をもたらすのは味覚や嗅覚であり、

■離れた場所にある事象を光線のもと、認めるには視覚が、

■音を介して他の生き物などの気配を感じたり、言葉や発声で意志を確認しあうのには聴覚が、

それぞれ役に立っていますよね。

この数千年の人類の歴史の流れをみると、五感以外にも、

痛覚

温覚

冷覚

圧覚

平衡感覚

等、多数の感覚の存在が発見され、科学的に検証された歴史的経緯があります。

本書に依ると、私達の論理的に、完璧に、装備され、下された判断(だと思っている結論)でさえも、根底には、五感を通じて収集した情報があることから、

「共通感覚論」(岩波現代文庫)中村雄二郎(著)木村敏(解説)

私達の論理的な判断だと思っている事(論理的思考の結果)は、

■感覚の情報集約の力

■感情の表現の力

を下敷きにして、初めて成り立つことになってしまいます(^^;

そうであるなら、様々な感覚は、私達の認識の中枢に向けて、望む感覚をベースにして、その度合によって、求心的に集約された結果、

前述の共通感覚とも呼ばれる第六感的な統合を経て、人は、行動を起こす決断に至っているのであれば、例えば、作者が、短歌を詠む時、五感のどれを主に用いたのか?を、時代別に、分析してみたら、何か、新しい知見が得られるかもしれませんね(^^)

そう感じるのは、現代は、聴覚より視覚の時代だと言われています。

聴覚が衰えて、視覚に偏りがちであるなら、「音」をキワードにして、「うた」が、

■その時代のどんな「音」に影響を受けているのか?

■どんな「音」を主体に詠んでいるのか?

■三十一文字で描く思いのオブジェはどんなリズムなのか?

等々。

そんな「音」について、作者の感性があふれ出す「音」をうたった短歌を、20首ピックアップしてみました♪

【作者の感性があふれ出す「音」をうたった短歌】

「アエイオウ 口つぼめたりひろげたり 窓の向こうの雪の唇」
(長澤ちづ『海の角笛』より)

「カ行音躓(つまず)くあなたの吃音に交叉している山の水音」
(道浦母都子『風の婚』より)

「こころはあおい監獄なのに来てくれた かすかな足音を積もらせて」
(小林朗人「しかし薄氷の上で」『率』8号,2015.05より)

「スランプの僕の脳みそ唄うのはキリンレモンのリフレイン」
(樋口智子『つきさっぷ』より)

「すれ違うときの鼻歌をぼくはもらう さらに音楽は鳴り続ける」
(阿波野巧也「さらに音楽は鳴り続ける」「短歌研究」2016年11月号より)

「ねむるときとどろきをりし雨の音あかとき聞けばはらつきにけり」
(玉城徹『われら地上に』より)

「ハムカツにしょうゆを垂らす舌にもうざっくりとした食感がくる」
(山階基『夜を着こなせたなら』より)

「わたくしを生きているのは誰だろう日々わずかずつ遅れる時計」
(岸原さや『声、あるいは音のような』より)

「君の髪に十指差しこみひきよせる時雨(しぐれ)の音の束の如きを」
(松平盟子『帆を張る父のやうに』より)

「後頭部をつめたい窓にあずければ電車の音が電車をはこぶ」
(土岐友浩『僕は行くよ』より)

「新しい人になりたい 空調の音が非常に落ち着いている」
(五島諭『緑の祠』より)

「大空のホールにみえざる群衆の椅子をひく音夏の雷鳴」
(渋谷祐子『青金骨法』より)

「鳥のこゑ松の嵐の音もせず山しづかなる雪の夕暮」
(永福門院『風雅和歌集』より)

「電話中につめを切ってる 届くかな 届け わたしのつめを切る音」
(初谷むい『花は泡、そこにいたって会いたいよ』より)

「白藤の花にむらがる蜂の音あゆみさかりてその音はなし」
(佐藤佐太郎『群丘』より)

「爆音のきはまるときに首のべて大気の坂を鉄のぼりゆく」
(都築直子『淡緑湖』より)

「八月のまひる音なき刻(とき)ありて瀑布のごとくかがやく階段」
(真鍋美恵子『羊歯は萌えゐん』より)

「風鈴の音の通りたるみずいろの穴見ゆ闇のところどころに」
(広坂早苗『夏暁(なつあけ)』より)

「夕ぎりに見えわかねども松風の音するかたや湊なるらむ」
(落合直文『萩之家歌集』より)

「流れゆく川のきらめき木の間より見えずも聞ゆその川の音」
(中村幸一『あふれるひかり』より)

【参考図書】
「抽象の力」(近代芸術の解析)岡崎乾二郎(著)

「優しい地獄」 イリナ・グリゴレ(著)

「聞くこと、話すこと。~人が本当のことを口にするとき」尹雄大(著)

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