【GW期間中の自由研究(その9)】ヒトはなぜ夢を見るのか(その4)
[テキスト]
「ヒトはなぜ、夢を見るのか」(文春新書)北浜邦夫(著)
[参考図書]
「ヒトはなぜ夢を見るのか 脳の不思議がわかる本」千葉康則(著)
「人はなぜ夢を見るのか―夢科学四千年の問いと答え」(DOJIN選書)渡辺恒夫(著)
「夢の正体 夜の旅を科学する」アリス ロブ(著)川添節子(訳)
「眠っているとき、脳では凄いことが起きている 眠りと夢と記憶の秘密」ペネロペ・ルイス(著)西田美緒子(訳)
「夢を見るとき脳は――睡眠と夢の謎に迫る科学」アントニオ・ザドラ/ロバート・スティックゴールド(著)藤井留美(訳)
規則正しい生活を送ったら、かえって睡眠不足になってしまうのではないのか?
私たちは、さまざまな生体リズムをもっているが、それが、秩序正しく機能しているときは、多少生活リズムが崩れても、明かりなどの条件で、うまくコントロールして、よい調子を保つことができる。
将来、私たちは、宇宙に飛び出す時代を迎えることであろう。
宇宙での生活を考えてみると、まず、昼夜の概念が、地球上とはまったく異なってくる。
例えば、自転周期が90分の星もあるであろうし、宇宙空間にとどまっていれば、昼夜そのものが存在しない。
そういうところに行こうとしているときに、生体リズムのようなことを何も知らないでいると、非常に、不都合なことが起こってくるわけである。
現在の宇宙飛行士の多くが睡眠薬を使っていたり、地球に戻ってからも、調子があまりよくないという話を聞きく。
宇宙生活の心身に対する影響が、かなり、いろいろなところで問題になっている。
宇宙医学というのは、これから発展する領域なのであるが、そういった生体リズムを含めて、いかに、よい生活を地球上で、あるいは、宇宙で営んでいくのかが、重要になってくると考えられる。
タクシーの運転手と話すと、彼らも、大変な労働で、例えば、一昼夜働いて、2日休むというパターンで働いている人がいる。
そうなると、やはり、早死にする人が多い。
50年、100年前には存在しなかった職業なだけに、睡眠時間と、労働のかかわり合いに対する知識を、しっかりと得る必要があるのではないかと感じた。
また、睡眠時間と満足度の関係は、個人差があり、生活スタイルで、自由に選ぶことも、大切である。
睡眠時間が少なくても、まったく平気な人がいる一方で、長く寝ているのに全然だめな人がいる。
これは、一体何なんであろうか?
簡単に言えば、個人差である。
逆に言うと、眠りというのは、非常に、融通のきくものである。
適応力が、非常に、富んでいるわけであるから、いかようにも、バラエティをつくることができる。
融通がきくからこそ、睡眠時間を切りつめたりして、結果として、そのツケがまわってくるというようなことが多い。
睡眠というのは、もともとは、適応技術で生存戦略であるから、自分の生活パターンに合わせて、自分なりの睡眠形態を、選ぶことができる。
ところが、往々にして人は、どうしても、それを切りつめようと考えてしまう。
経済的利益のために、眠りを規格化して、生産性を上げるというやり方できていたのが、いまになって、破綻を来している。
経済的利益を追求するあまり、経済的損失を招くような事態になっているのである。
ですから、そのことを改めて、問い直す時期だろうと思う。
短い睡眠時間で済む人は、短い睡眠。
起きていて、することがない人は、浅い眠りを、たっぷり楽しめばいい。
ズレた生活リズムをもっている人は、ズレているなりの生活を選べるようにすればよいのである。
ただ、実際に、そうしてしまうと、かつての経済的な価値観から見れば、非常に効率が悪い。
学校にしても、会社にしても、同じ時間に、一斉に教えたほうが、都合がよいはずある。
人間を、ロボット化させて、ロボットみたいな規格で働かせたほうが、生産性が上がるという発想で成功してきたわけであるが、ここにきて、それが、非生物的であったり、反自然的であったというところまできているのではないかと思う。
一般の人間で、短時間睡眠者というと、だいたい6時間以下、極端な人だと、4時間くらいである。
ただ、4時間くらいの人は、昼寝をしっかりとっている。
睡眠を分散させても、満足感がある人とない人がいるのだが、いろいろな実験から、かなりの人の睡眠は、ライフスタイルに合わせて自由に選ぶことができると思う。
夜型だという学生に聞いてみると、夜になると、能率が上がるという。
しかし、どんな実験データを見ても、成績は、どんどん悪くなっていく。
ひょっとすると人間には、不健康な快感というものがあって、本当は、ひどくおかしい、破滅的な方向に、ウキウキしながら落ちていく傾向があるのではないか?
結局、睡眠不足が、いちばんこたえるのは、大脳の機能である。
その機能が衰えたところに、ムチ打っていると、「やってるぞ!」という実感は、沸くのであるが、主観的な認識と、実際の成果は、かなり違うわけである。
ヘマばかりやって、ちっとも進んでいないのに、非常に優越感、悲壮感をもって頑張っているということがある。
また、快適な睡眠を得るためには、昼間アクティブに過ごすことが、大切である。
リズムというのは、もともと、私たちの身体に備わった適応機能である。
次にくる行動を予期して、リズムを定めているわけであるから、急には、変えられない。
例えば、夜遅くまで面白いテレビを見て頭が興奮しているときに、さあ、床に入って急に寝ましょうといっても、すぐに眠ることはできない。
朝目覚めるときに、急に、目覚まし時計の音で目覚めるのも、相当、無理がある。
ですから、寝る間際まで、テレビやワープロをつけっ放しにして、明るい部屋にしておくのではなくて、少しずつ照度を落としていく。
起きるときも、カーテンを開けっ放しにしておくと、だんだん、明るくなってくる。
そうすれば、快適な睡眠、快適な覚醒を、得ることができる。
ダラーっと、1日を過ごすのは、やはり、睡眠物質の蓄積にとっては、不利である。
考えたり、動いたり、アクティブにやっているほうが、睡眠物質が、たくさんたまってきて、眠りやすくなる。
お年寄りが、「不眠だ、不眠だ」というが、よくよく聞いてみると、何もしないで、家の中でぼけっとしている場合が多い。
さまざまな身体的な制約もあるかと思うが、まわりに気をつけ、いろいろな意味で、コミュニケーションをとりながら、昼間の活動を高める。
そんなことも、快適な睡眠を得るひとつのヒントになるのではないかと思う。
記憶するために眠るのではなく、記憶を消すために眠るのだそうだ。
では、一体、夢と記憶は、どういう関係にあるのか?
眠っている状態は、記憶するのに、非常に不利な状況で、どちらかというと忘れやすい。
情報処理を、スローダウンしている状態である。
であるから、記憶するために眠るのではなく、記憶を消すために眠るということになる。
しかし、夢を見ているときでも、記憶する機能が、多少は残っている。
正夢や逆夢のようなインパクトの強い夢は、脳を覚醒させてしまうから、結果として、記憶が定着するわけである。
ただ、多くの夢は、目を覚ましてしまうほどの強い内容をもっているわけではなく、とりとめのないものであるから、どんどん、忘れていくのが普通である。
また、大脳が未発達だった下等動物は、身体を休ませるために、休息をとっていた。
ところが、恒温動物が登場すると、大脳をさまざまなレベルで休息させ、コントロールする必要が出てきた。
これが睡眠である。
睡眠というと、身体を休息させるためのものという印象があるかもしれない。
しかし、睡眠は、身体というよりむしろ、脳にかかわる問題である。
今世紀初め、フランスの科学者が犬を2週間以上起こし続けておくと、どんな変化があらわれるのかを調べた。
269時間起こし続けられた犬の脳の細胞は、大きなダメージを受けて壊れたり、場合によっては、死んでしまうことがわかった。
ところが、脳以外の部分には、あまり影響のなかったことが知られている。
なぜ、このようなことが起きたのか。
脳は、非常に大量のエネルギーを使う場であり、体重の2%程度の重量しかもたないにもかかわらず、静かにしているだけで、身体全体で使うエネルギーの18%を消費している。
つまり、眠らないと、脳細胞は、活発に活動するので、オーバーヒートして、壊れやすい状況にあるのということである。
しかも、脳細胞は、発生のある時期を過ぎてしまうと、それ以上、増殖することがでない。
一生、同じ細胞を大事に使わなければならないので、壊れるほどに、働かせ続けるわけにはいかない。
そこで、睡眠によって、脳細胞がオーバーヒートする危険性を、未然に防ぐ必要が出てきたというわけである。
もともと、睡眠は、脳のためにあったわけではない。
睡眠状態に入れば、身体全体の動きが止まって、脳だけでなく、身体全体のエネルギー消費を抑えることができる。
このことは、下等動物にとって、生きていくための、重要な戦略であった。
ところが、高等動物が登場し、体温を一定に保てるようになると、エネルギーを保存するために眠ることや休息することは、あまり意味をもたなくなった。
起きていても、静かにしているだけで、筋肉の疲れなどは、とれるからである。
われわれのような高等動物にとって、睡眠は、大脳のためにあるといってよいのである。
一般に、食べることと、眠ることは、相容れない活動になる。
食べるということは、自分の意思が働いて、大脳が、いろいろなところを動かす行為であるから、覚醒レベルが上がるわけである。
朝起きて、朝ご飯を食べることは、非常に目覚めをよくするが、眠る前に、食べることは、その流れに逆行している。
逆に、胃から空腹だといった信号が、たくさん出ているときも、眠りは、妨げられる。
食欲が満たされると、満腹物質という生理活性物質が出てくるのであるが、この満腹物質は、睡眠物質にもなり得る。
脳の食欲中枢というところが、空腹感、満腹感をつくり出しているので、そこが、空腹も、満腹も、感じないような状態にすることが、簡単な解決法である。
少量でも吸収の速いものを、ちょっと胃袋に入れてあげれば、よいことになる。
カラーの夢と、モノクロの夢というのは、何か違いがあるのか?
昔は、夢に色がついているというと、普通じゃないという、あまりよくないイメージがあった。
しかし、1971年に、徳島大学の生理学の松本淳治が、医学部の学生を対象に調査して、カラーの夢を見てもおかしくないことを証明している。
その頃から、だんだんカラーの夢に関して、多くの人が、素直に喋れるようになった。
いまから、約50年前の話である。
現在の学生は、夢に色がついていることに、なんの抵抗感も、もっていない。
逆に、彼らは、モノクロの夢のほうが、奇妙なものだと考えている。
シュールレアリスムスの画家たちは、入眠期の幻覚を、絵にして残してくれている。
ダリなんかも、非常にきれいな色のついた絵を残している。
やはり、健康な人間が見る夢は、色がついているのが普通で、色がないというのは、ある意味で、当時の常識に対する捕らわれの反応だったのであろう。
また、「万葉集」で探してみると、やはり色のついた夢は、登場している。
真っ赤な袴をはいた女の子が、橋の上を歩いたりしているのである。
数は少ないのであるが、赤と黄色が、鮮やかに出てきたと思う。
だから、カラーの夢がおかしい、というのは、時代的な悪弊だったのである。
最後に、「ヒトはなぜ夢を見るのか」という質問に対して、結果論として、そういう脳をもっているからだ、ということになる。
奇想天外なものを結びつけて、次々と、お話をつくっていくという人間の好奇心の基本が、夢だろうとも言える。
また、昼間、楽しめない人が多くなったので、夜に夢をみて、楽しめばよいのではないだろうか。
夢は、この厳しい社会に対する、私たちの生活の、ソフトな部分だと思う。
だからこそ、大事にしなければならないと感じた。
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