常連の店に行くような感覚で犬島に戻りたくなる - 大阪工業大学【体験者インタビューVol.10】
【体験者インタビューVol.10】
こんにちは、ベネッセアートサイト直島 エデュケーション担当の大黒です。
ベネッセアートサイト直島でのプログラム体験者の声をお届けするインタビュー企画・第10回となる今回は、「大阪工業大学」の山本麻子先生、勝田壮さん、九富沙耶乃さん、狩野英斗さんにお話を伺いました。
■プロフィール
大黒:ベネッセアートサイト直島のプログラムを体験されたきっかけを教えていただけますか
山本:大学の授業の一環で、学生がそれぞれテーマを設けて、半期をかけて探究するプログラムがあり、当初ヨーロッパへの研修旅行を予定していました。しかし、コロナ禍で海外への渡航が難しくなってしまったため、国内での行き先を検討することになりました。私たちの大学は大阪にあるため、なるべく都会からは離れた環境で、海外の方が多く訪れる国際色豊かな場所がないかと考えた時に、直島が良いのではないか、という話になりました。
大黒:実際に来られたのは2022年でしたね。来てみていかがでしたか?
勝田:本村で家プロジェクトを鑑賞している時に、地元の方がとても熱心に案内してくれて。島の方がアートに関わっておられるのが、小さな島のコミュニティとしてすごく面白いなと思いました。初めは、現代アートって馴染みがないというか、関わりしろがあまりないと思っていましたが、僕らと現代アートを繋ぐ役割として、島の方が積極的に関わっているのはすごく良いことだと思いました。
山本:現代アートに詳しいわけではないので、学生の反応など心配していたのですが、ファシリテーターの方が作品を一方的に解説するのではなく、学生と一緒に鑑賞しながら「みんなどんな風に感じる?」と投げかけてくださって。その様子を横でみていたのですが、彼らも自由にみていいんだ、と思えたのか、どんどん発言を促されていて。対話型鑑賞をプログラムの導入でしっかりしていただきました。その後、自由時間が多く設けられており、彼らも自分が気になるところへそれぞれ行っていたのですが、宿に帰ってきてから話を聞くと、「こんな話を聞いてきました」と島の方と積極的にコミュニケ―ションをとってきた様子を話してくれて。対話型鑑賞がその後の自由行動における自主性のようなものを引き出すきっかけになってくれたなと思いました。
九富:私は対話型鑑賞が一番印象に残っています。美術館に行くのは元々好きでしたが、作家の意図を考えて当てに行くのが正解の見方だと思っていました。けれど、まず自分がどう感じたかを考える見方って、作品鑑賞の入口としても、物事を考えるスタンスとしても、すごく参考になると思ったんです。普段の生活でも、自分がどう考えているかを大事にするって素敵だと思えて。他の学生との対話型鑑賞を通して、学校で授業を一緒に受けているだけでは気付かなかった一面に気づいたり、相手のことを知るきっかけにもなっていて、それがすごく良かったです。
大黒:実際に対話型鑑賞を体験する前後で、日常生活における変化を実感したことはありますか?
狩野:友人と意見を言い合うことで関係性が悪化してしまうのではないかと思って、以前は議論を避けてしまうことがありましたが、対話型鑑賞を通して自分の率直な気持ちを話すって大事だなと思いました。それから他の人が作った作品に自分からコメントしたり、自分の作品に対して他の人に意見を求めたりすることへのハードルが下がったように感じています。
九富:正解を言わないといけない、間違ったことを言ったらだめだと思ってしまう場面って日常生活の中で多いと思っていて。意見を言う前に自分の中で考え込んでしまうことが結構あるんですよね。けれど、作品をみて正解か不正解かを考える前に自分がこう感じたっていう事実があるってすごく大事だと気付いて。その考えが他の人からは"間違い"のように感じられたとしても、自分はこう思ったんだ、ということを他の人に伝えてみることってとても大切だと思うし、それからなるべく自分が感じたことは正直に言えるようにしようって考えるようになりました。
大黒:プログラム体験後、「犬島の未来構想」をテーマに様々なプロジェクトを考えて提案してくださいました。オンラインでの中間発表を経て、実際に犬島でパネルや模型を展示するなど継続的に犬島と関わる中で、印象的だった出来事があれば教えてください!
勝田:初めて犬島を訪れた時は雨が降っていて、全体的にどんよりとした雰囲気を感じていたのですが、「犬島の未来構想」の展示をするために訪れた2度目の犬島は快晴で、天候によって島全体の雰囲気ががらっと変わるなと改めて思いました。自分たちが作った未来構想の提案のパネルや模型を実際に犬島で展示する中で、自治会長さんとお話をさせていただいたり、島の方が足を運んで「こんなんできるんやなぁ」「昔はこんなんあったんやで」とお話してくださったりして、現地での交流を通して知れたことがたくさんありました。島の方から直接お話を聞けたことが一番の収穫だったと思います。2度目の犬島では、島内に宿泊したのですが、それもとても良い経験でした。犬島での滞在を通して感じたことや島の方から聞いたお話をもとに、提案内容も変えました。
勝田:2023年に訪れた3度目の犬島では、海外のお客様向けにも自分たちの提案を紹介できるよう多言語で紹介文を作って再度展示を行いました。繰り返し犬島を訪れる中で、何かを作って終わりではなく、それをどう改善するか、どうやって広めていくか、どうすればより現実に即したプランに仕上がるのか、作った後のことをより深く考えるようになりました。このプロジェクトは大学の活動の一環なので、僕たちが大学を卒業すればここで終わってしまう。作って終わりというのはとてももったいないので、2024年3月に4度目の犬島訪問をすることにしました。今回は、滞在中に島の方々のお手伝いをして、その合間にお話をうかがい、その内容を後輩に伝えていきたいと考えています。
藤原:継続的に犬島と関わる中で、自分にとっての犬島の位置づけに変化はありましたか?
狩野:3度目の犬島訪問の時に、島の方とたくさんお話して、ご自宅にも招いていただきました。そこで「ドクダミ茶にはこれを入れろ」「こういう石鹸があるよ」とか、健康面のアドバイスを様々いただいて(笑)。卒業制作が終わったらまた来ます、と伝えると「もっと来い」って言ってくださって。僕もそれで行かないとなって思って。卒業制作の期間中も、早く行きたいなって思っていました。来島者に犬島に何度も訪れていただくためには、もちろんプロモーション活動も大事だけど、犬島にいる方との交流ってすごく大切だと僕は感じています。僕にとって、地元に帰る感覚に近いというか、常連の店に行くような感覚で犬島に戻りたくなります。いつ行っても安心感があるのは犬島の特徴なのかなと思っていて。島の方と来島者との交流がもっと密接になれば、犬島と訪れる方との関係性は変わるだろうし、繰り返し訪れる方も多くなるかと思っています。
大黒:山本先生から見て、ベネッセアートサイト直島のプログラムを体験する前後で、学生さんに見られた変化があれば教えてください
山本:私たちの大学は大阪の梅田の真ん中にあり、人や情報が多くてそれはすごくいいと思っているのですが、直島に行って海が常に横にある、風がすごく吹いている、山がすぐ身近にある環境に滞在して、学生たちはそういう自然に対してどんどん心を開いていると感じました。海の近くに泊まったこともあり、毎日朝から晩まで変化する自然の表情をみるとか、頭で考える以外に感じることで、五感が鋭くなるというか、デザインの仕事をしたり、勉強したりする上ですごく大事なことを学生たちは身をもって感じてくれていたように思いました。
山本:2度目の犬島は同行できなかったのですが、帰ってきた学生に話を聞くと、現地でしか得られない情報を知れたとか、地元の方のお話をたっぷり聞けたのがすごく印象的だったと話してくれました。犬島の生活を知ることが、翻って自分たちの生活について考えることにも繋がるのがすごく良かったと思いました。若い人が島で暮らしていくにはかなりの覚悟がいると思うのですが、都会に拠点はあるけれど、自分にとって思い入れのある場所が別にあって、そこを行き来する関係ってすごく良いなと思います。大阪と犬島を行き来するフックを、今となっては学生たちが自分で作っているので、そういう意味でどんどん逞しくなっていると感じます。
おわりに
今回は「大阪工業大学」の山本麻子先生、勝田さん、九富さん、狩野さんへのインタビューをお届けしました。ご協力ありがとうございました!
これまでのプログラムはこちらからご覧いただけます↓
犬島の未来を構想する(大阪工業大学)
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