見出し画像

当たり前は当たり前じゃない。大切なものに気づく家族再生の物語『私たち家族に必要な時間』

だれもがみんなこどもだった

SNSを見ていて、たまに疲れたなーと思う時がある。もちろん癒されたり笑えたりすることは多いんだけど、受け取りたくもない情報を受け取ることも多くなってきた。私は面白い投稿や面白い漫画が読みたいだけなんだよと。誹謗中傷や誰かが誰かを貶めるようなところってわざわざ見たくないし。

でもそんな争いあうひとたちも、ノーベルなんたら賞を受賞するような天才科学者たちも、みーんな昔は鼻水をたらした子供だった。

子供はときに抱っこをせがむ。歩かなくてもいいという特権のみを求めて、この世の終わりのように泣き叫ぶ時もある。おそらく誰しも一度は経験があり、親に抱っこされて安心して眠りながら家路についたのではないだろうか。

あなたがスヤスヤと眠りにつく中、あなたの代わりに歩いてくれた人がいる。今ここに存在しているのは、そうした親や助けてくれる存在がいてくれたおかげだ。そんな当たり前の優しさを忘れそうになった時に読んで欲しい作品がある。

弊社ナンバーナインから配信をしている、こじまなおなりさんの連載漫画『私たち家族に必要な時間』だ。

本作は決して派手だったり、過激なヒキで読者を惹きつける作品ではない。けれども他者との関係や登場人物たちの心象変化を丁寧に描く、深度のある作品だ。

早期に母親をなくし、父子家庭で育てられた女子高生の晴菜(はるな)。自分の住んでいる街で囁かれる父親、昌虎(まさとら)の悪い噂を聞いたことをきっかけにほとんど口を聞くこともなくなってしまった。ある日、死神の手違いで昌虎の魂が刈り取られ、赤ちゃんに戻ってしまう。その赤ちゃんになった父親を晴菜が育てていくというのがあらすじである。

弊社公式漫画紹介アカウントのあくせるちゃんの投稿で1話読めるようになっている。

子育ての正解を誰か教えてくれ偉い人

晴菜はまだ高校生なので、学業と育児を両立させていかなければならない。友達にも事情を話せず、慣れない育児に悪戦苦闘する。でもこれは晴菜が高校生だからだけであろうか。おそらく違うと思う。

私には二人の息子がいて離婚をしているので、育児のことを偉そうに語る気も資格もない。でも一つだけ言わせてくれ。

子育てってムズすぎやしねえかぃ

まずさー、子育てに関してあまりにも習ってないもん。もしかしたら先生は教えてくれていたが、私が授業中に漫画読んでただけかもしれないけれど。(そうならすまん。)親になったとたんにチュートリアルもなく進むリアルタイムストラテジーみたいなもんよ。

本作にも登場するけれどミルクをのませたらゲップさせなければいけないとか…乳児にはちみつあげたらいけないとか…緑色のうんちが出てもあせらないとか…

そんなん親になってから初めて知ったよ。いや、初めて知ることだらけだったよ。他の家庭のことも全てを知ることはできないから、子育ての正解が分からなくて不安なんだ。むしろ、自分の育児が正解なのかというよりは、うちの子を幸せにできているんだろうかという疑念かもしれない。

話は本作に戻るが、1巻の中で一番好きなシーンがある。昌虎が亡き母宛に密かに記していた成長日記を、晴菜が見つけるシーンだ。

『私たち家族に必要な時間』(©️こじまなおなり/ナンバーナイン)1巻より引用

私はこのシーンを読んで涙が止まらなかった。わかる…痛いほど気持ちがわかる…

何度も読み返して気付いたことがある。昌虎は喧嘩に明け暮れていたから、お世辞にも頭が良いとは言えない。だから文章には平仮名が多いし、「馴染む」という漢字の書き損じすら見受けられる。

街では不良と罵られ、娘に不憫な思いをさせてしまっていること。父子家庭で、母親の愛情をあまり知らずに育てていることもあり、より不安なんだろう。

文章量は少ないが、どの日記も娘を案じる内容で、心から娘を想う気持ちが伝わってくる。最小限の言葉の中に最大限の親の愛がある。

全ての親にあてはまるとは言えないが、子供が生まれると物語の主人公は否応なしに自分ではなく子供に移っていく。私も子供ができるまではその感覚は本当にわからなかったし、なんなら子供に自分の夢を奪われるのは嫌とすら思っていた。

それでも子供が生まれて変わった。自分が喜ぶことよりも嬉しいことがあること、初めて知ったよ。

あきらめんのをあきらめてよ

私はこじまなおなりさんが生み出す作品の大ファンだ。社内でも一番に好きである自負があるし、社内メンバーも認めると思う。担当外の業務ではあるものの、続編が入稿されると誰よりも先に読み、誤字脱字やデータ不備のチェックをしていたこともあった。

そんななか、こじまなおなりさんのXでこんな投稿があった。

衝撃だった。何度か仕事のやりとりで打ち合わせをさせてもらったこともあったり相談も受けていたのに、この状況に全く気づけなかった。

漫画家さんが漫画を続けていくためには綺麗事抜きでお金と漫画に集中する時間が必要だ。生活費、アシスタント代、取材費、機材費などなど…

漫画家さんに漫画を専業として生活していける環境を提供できなかったことが本当に悔しい。自分が心の底から好きな作品を売り込むことができなかった自分の不甲斐なさを呪う。

漫画を描くことを辞めるために、全力で漫画を描くその心情は察するに余りある。それでも何よりも声を大にして伝えたいことがある。それは、この漫画が決して諦めの気持ちで書かれたものでないことだ。読めば絶対にわかる。

この作品はまだ終わったわけではない。7巻は2024年の夏頃、最終8巻は2025年の春頃の配信を予定してくれている。

オレはまだ諦めたくない。誰かを救うことになるかもしれない魂が震えるような作品を最終8巻まで一人でも多くの人にこの作品を届けることを。自分自身が諦めそうになるかもしれないから、文章として残す。

あきらめんのをあきらめてよ

『新装版 極東学園天国』(日本橋ヨヲコ/講談社)2巻より引用

そして無責任で自分勝手な発言であることは重々承知で、本作以外でも環境や状況が整ったタイミングがもしできたならば、こじまなおなりさんが紡ぐ作品をこれからも読み続けたい。

当たり前を当たり前とは思わず、日々感謝する。本作を読んで、あなたの周りの本当に大切にするべき人を大切にしてください。

こじまなおなりさんの『私たち家族に必要な時間』をご紹介させていただきました。

最後にファンレターの送付先をもってこの文章を締めます。ナンバーナインでは作品の感想や作家様への応援メッセージを受け付けております。 ファンレターの送付先は下記住所をご確認くださいませ。

ファンレターの送付先
宛先〒141-0022  東京都品川区東五反田2-5-9 CIRCLES with 島津山6階 (株)ナンバーナイン 気付    こじまなおなり先生


よろしければサポートお願いします。いただいたサポートはお菓子に変換されます。(お菓子がないと死んでしまいます。)飽食の時代、餓死するかどうかの生殺与奪権はご覧いただいたあなたに委ねられています。