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「空のAC」ファンから見た、陸のACの魅力 ~ファン層意外と被ってる理由の考察~


2つの「AC」

 突然だが、世の中には「AC」と呼ばれるゲームシリーズが2つ存在することをご存知だろうか。

 1つは「エースコンバット(ACE COMBAT)」。実在・架空の軍用機を操り、様々なミッションを攻略して「エースパイロット」体験を味わえるフライトシューティングゲームの金字塔である。大空を自由に飛び回りながら、戦場の英雄としてその名を轟かせることを主眼に置いた、「空のAC」だ。

 もう1つは「アーマード・コア(ARMORED CORE)」。規格化された様々なパーツを組み合わせて自分だけの人形機動兵器「アーマード・コア」を構築し、「傭兵」として様々な企業や共同体からの依頼を受注して生き延びていくロボットアクションゲームの代表的なタイトルだ。空中機動も可能ではあるものの、基本的には大地を踏みしめ鉄と硝煙の香りが漂う中、明日を生きるために戦う、「陸のAC」である。

 空と陸、2つのAC。両作はそれぞれが持ち味を活かして独自のファン層を──獲得しているかと思いきや、なんとなくファン層が被っているのではないか、というのが私の見立てである。かくいう私もエースコンバットとアーマード・コア、両方の作品に親しんできた。もっとも、エースコンバットはPS2三部作から参入したのに対して、アーマード・コアはPSPのフォーミュラ・フロント、次いで次世代機の4、fAといった流れで参入したため「レイヴン」と大手を振って名乗ることはできないのだが……。

 そこで、今回は「エースコンバット」と「アーマード・コア」は何故ファン層が被りやすいのか、といった点について分析・考察してみたいと思う。「ARMORED CORE VI FIRES OF RUBICON」が発売間近に迫り、「バンダイナムコエイセス」の設立によってエースコンバット新作の開発が水面下で動いている中、両シリーズのさらなる発展を願いつつ、筆を走らせていくとしよう。

1. 傭兵生活シミュレーションとしての「AC」

 両作はそれぞれ「傭兵」という存在をなくして語ることはできない。そもそも傭兵とは「金銭による報酬などの利益を目的として、直接利害関係のない戦闘行動・戦争行為に参加する兵士」のことである。「傭われた兵士」、即ち傭兵というわけだ。

 現実世界でも、フランスの外人部隊やロシアのワグネル・グループ、アメリカのブラックウォーターUSAなどといったものが有名である。このうちワグネルやブラックウォーターは企業として傭兵活動を行っている「民間軍事会社」である。

 さて、エースコンバットとアーマード・コアそれぞれにおける「傭兵」という存在だが、これは両シリーズの根幹をなす重要な要素である。何故ならば、両シリーズは「傭兵生活シミュレーション」としての側面を持っているからだ。

 エースコンバットの初期作品である「エースコンバット」、「エースコンバット2」、「エースコンバット2」の事実上のリメイク作である「エースコンバット3D」、そして「エースコンバットZERO」「エースコンバットX2」「エースコンバットインフィニティ」などは主人公が傭兵という立場である。「エースコンバットX2」と「エースコンバットインフィニティ」の主人公は民間軍事会社に所属している。

 これがフレーバー付けの背景設定かと問われればそうではない。プレイヤーが挑むことになる各ミッションには「報酬」が設定されており、攻略すると攻略状況に応じて報酬としてポイントが授与される。このポイントを消費して新しい機体や補助兵装を購入し、自身の戦力を強化していくこととなる。また、所持している機体を「売却」することも可能で、プレイアブルな機体を敢えて減らすことでより性能の高い機体を購入するという選択も、時には有効となるのだ。

 「エースコンバット04」以降の作品では、主人公は正規軍に属することも多くなっているものの、この「機体の購入」や「ミッションの報酬」は一部の例外こそあれ基本的には受け継がれてきている。一種の伝統とも言えるこの「機体購入・売却」のシステムが何故設けられているかと問われれば、シリーズを通して漫画「エリア88」をオマージュしていることが理由だと答えてよいだろう。

 エリア88は新谷かおるが手掛ける傭兵戦記漫画で、主人公の「風間真(シン・カザマ)」は友人だった男によって中東の国家「アスラン王国」の空軍外人部隊に飛ばされ、除隊のための違約金を支払うために傭兵活動に手を染めていく──というのが主なあらすじである。シンを始めとする傭兵は正規兵と異なり、自ら武器を調達する必要がある。任務で稼いだ報奨金を使って、武器商人である「マッコイじいさん」から機体やミサイル、弾薬を調達する必要があるのだ。時には撃墜されて機体を失うこともあるが、その度に自費で新たな機体を購入して乗り換えていく。

 この機体や兵装を自費調達していく、という傭兵スタイルは、エースコンバットがエリア88から受け継いだエッセンスのひとつである。時には古い機体を下取りに出して、新しい機体を購入し、より難度が高いミッションへと挑んでいくのがエースコンバットで攻略を行っていく基本である。もちろん、機体ごとに個性付けが行われている他、軍用機に詳しい人の中にはそれぞれの「推し機体」で攻略したいという需要もあるだろう。慣れてくると、推し機体で最後まで戦い抜く、といった行動も不可能では無くなるのである。

 一方でアーマード・コアでは、よりシビアな傭兵生活を送ることが求められる。ミッションで発生した弾薬費や修理費といった機体の維持費も自費なのである。エースコンバットの場合は、(X2という例外はあるが)基本的に弾薬費や修理費は負担する必要がなかった。アーマード・コアの場合は維持費すらも自分で賄わなければならず、操縦がおぼつかず被弾しやすい序盤は「如何に弾薬費をかけないか」を念頭に置いてプレイすることになる。

 さらに、一部の作品では「契約報酬」と「成功報酬」が分離しているケースも存在する。契約報酬はいわゆる着手金で、ミッションの成否に関わらず支払われる。たまに報酬の全額が「契約報酬」もしくは「成功報酬」となっているケースもあったりするのが面白いところである。ミッションによってはこれ以外に特定の条件を達成すると支払われる「特別報酬」もあり、腕に覚えがあるプレイヤーは特別報酬の達成も視野に入れてプレイするケースがある。

 初心者救済制度として、僚機を連れて行くことができるのもアーマード・コアの特色と言えるだろう。エースコンバットシリーズの場合、僚機は基本的に強制出撃であるが、アーマード・コアの場合は僚機を連れて行くのが任意という作品も存在する。ただし、僚機も自分と同じく傭兵であるから、当然ながら彼らに助力を乞う場合はそれ相応の対価、即ち報酬を支払う必要がある。これは言わば依頼のアウトソーシングと言えるだろう。基本的に僚機ごとに依頼料が異なり、ランクが低い僚機は安く、ランクが高い僚機は高い。とは言え安かろう悪かろうというわけでもなく、安い僚機でも仕事を堅実にこなしてくれることもあれば、高い僚機はプライドも高くこちらが無様を晒せば呆れて帰ってしまうといった事態も起こりうる。また、依頼ごとに適正が存在することもあり、高い僚機でも敵と相性が悪いために為す術もなく撃墜されたり、逆に安い僚機が思わぬ活躍で敵を完封したりといったこともあるので、僚機選びは様々な情報を考慮して慎重に行う必要があるのだ。

 このように、傭兵としてのシビアな生活をより強調しているのがアーマード・コアという作品と言えるだろう。「国軍に用意された外人部隊」としての傭兵を体験できるのがエースコンバットであるならば、「戦闘行動を主たる業務としている個人事業主」としての傭兵を体験できるのがアーマード・コアなのだ。スタイルこそ違えど、そのシビアな雰囲気が好きなファンが両作に引き込まれていくのだろう。

2.「声」による演出

 2つの「AC」に共通する要素としては、「声」による演出もあるだろう。

 実のところ両作品は「キャラクターのビジュアル」が表に出ることが極端に少ない。主たる題材は戦闘機とロボットであり、キャラクターは基本的にコクピットの中で表に出てくることがないのだ。それでもエースコンバットの場合は幕間のカットシーンで流れるムービーや、いくつかの顔写真である程度キャラクター像を補完できる。

 一方アーマード・コアはそうした最低限のビジュアル化すら投げ捨て、キャラクター像を掴む手がかりは「乗機」「エンブレム」「声」「台詞」「解説文」のみとなる。この演出がプレイヤーの想像力を掻き立て、幾多もの「フロム脳」を生み出してきたのだ。Pixivなどではそれぞれの投稿者が自分なりの想像で各キャラクターをビジュアライズし、ファンアートを投稿している。

 「声」から読み取れる情報は意外と多いことに気づくだろう。例えば「アーマード・コア for Answer」で「オーメル・サイエンス社」及びその傘下企業からのミッションにおけるブリーフィングを担当する「ジョージ・オニール」の締めの決まり文句、「そちらにとっても、悪い話ではないと思いますが」一つとっても、語調の違いで感情や置かれている状況などを想像することが可能である。また、エースコンバット7のDLCでは敵の傍受を避けるため回線を繋ぎ変えるシーンが有り、その際に微妙に音質が変わるといった演出もあったりする。

 なお、どちらのゲームも声優が豪華だったりする。アーマード・コアでは中田譲治(AC3・キサラギ重工)や諏訪部順一(ACfA・ORCA旅団)などといった名優によるブリーフィングを楽しめることは言うまでもないが、エースコンバットもAC6ではあの仮面ライダーのナレーションでおなじみの中江真司がブリーフィングを担当していた。さらにエースコンバットで作戦中の状況報告を担当する空中管制官は、ZEROでは銀河万丈、6では大友龍三郎、3Dでは若本規夫、7では乃村健次と、こちらも豪華な面々である。特に3Dの「Uターンだって言ったのに……」は必聴である。もちろん、時には共闘、時には対峙することになるNPC達も、「えっ、この人が出演していたのか」と驚くこと請け合いである。アーマード・コア2のレオス・クライン、エースコンバット6のシャムロックをそれぞれ演じた小山力也や、ラストレイヴンのエヴァンジェ、エスコンZEROの「片羽の妖精」ことラリー・フォルク、そしてエスコンINFで空賊ことアローズ社をまとめるグッドフェロー代表を演じた桐本拓哉などのように、両シリーズに出演している声優も多い。

 ゲーム内の姿が見えないキャラクターに命を吹き込み、強い臨場感を与えてくれる声優の方々の妙技に酔いしれることができるゲーム、それがエースコンバットでありアーマード・コアであると言えよう。

3. プレイヤーの分身でありながら、独自のキャラクターを確立していく主人公たち

 アサルト・ホライゾンという例外こそあるが、基本的に主人公はプレイヤー自身である。最初は新米の戦闘機パイロット/レイヴン/リンクス/傭兵として、右も左もわからぬまま戦場に放り込まれる。エースコンバットの序盤のお約束は敵に攻め込まれている中スクランブル発進し、基地や拠点を防衛したり爆撃機の迎撃を行ったりするというもの。一方でアーマード・コアのスターティングミッションの定番はルーキーとしてレイヴン試験を受験、あるいは試金石となるミッションを受注するというものである。

 やがて多くのミッションをこなしていくなかで、時にはミスを繰り返しながらも、徐々にプレイヤーは経験を積んでいく。それと比例するように、作中の主人公に対する周囲の評価も上がっていく。「期待のルーキー」、「突如現れた新星」として、敵からは恐れられるようになり、味方からは持ち上げられる。そして作中世界で名を残すほどの傑物となったところでエンディングを迎えるのである。

 もっとも、エースコンバットは「ひとつの国家間戦争」を描いた作品なので、主人公は味方にとっては戦争を終結に導く希望であり、敵からは存在そのものが凶事として恐れられ、と扱いがくっきりと二分される。「メビウス1が来てると言っておけ! 嘘でもいい!」「トリガーについて行けば生き残れる」「出たな、化け物傭兵コンビ」「空に三本線は……凶事なり!」などの台詞が、敵に恐れられ味方に祭り上げられる英雄体験をさらに盛り上げるのだ。

 一方でアーマード・コアは「流転する世界情勢」を描くことが多く、主人公も特定の組織に属するものではないため、時には味方からも危険視、あるいは畏怖の対象とされることがある。実際、主人公を始末するためだけに用意されたミッションというのもいくつか存在する程で、「騙して悪いが仕事なんでな」や「偽りの依頼、失礼しました」、「消えろイレギュラー!」「最高だ、最高に危険だお前は!」といった台詞で、主人公が埒外の存在「イレギュラー」として周囲から危険視されていくことをよく表現している。とは言え敵だらけというわけでもなく、「貴方には感謝している、嬉しかったよ」「よく耐えた、傭兵!」と素直にこちらを称賛する台詞ももちろん存在する。

 時に恐れられ、時に称賛された主人公たちは、シリーズを重ねるごとに独立したキャラクターとしてプレイヤーの手を離れていく。「リボン付きの死神」、「ラーズグリーズの悪魔」、「円卓の鬼神」、「南十字星/ネメシス」、「三本線/オーシアの2つ頭/大馬鹿野郎」、「イレギュラー」、「ドミナント」、「アナトリアの傭兵」、「首輪付き/人類種の天敵」、「黒い鳥」と、本来はプレイヤーのアバターでありながら、それぞれがプレイヤー間で共有される独自の個性を持ったひとつのキャラクターとして語られることも少なくない。

 AC6では我々の分身は「ハンドラー・ウォルターの子飼い」であり「621」と呼ばれる旧世代型の強化人間という設定だが、果たして彼/彼女は我々の手でどのような姿へと昇華されていくのだろうか。

4. 長き時を経て、満を持して登場した新作

 先んじて登場した「エースコンバット7」はシリーズ全体を通してみればINFINITYから5年ぶりの新作であり、「本流」であるナンバリングとしては2007年のエースコンバット6から実に12年ぶりの作品であった。エースコンバットシリーズはある程度コンスタントに新作が登場しているものの、「ストレンジリアル」という独自の世界観で直接の続編が長らく出なかったことで、待望の続編としてファンから暖かく迎え入れられた。

 エースコンバットはフライトシューティングの金字塔と呼ばれるシリーズである。「H.A.W.X.」などのようなフォロワーや、よりシミュレーション方向に舵を切った「OverG」のような作品こそあるものの、やはり「超本格的ヒコーキごっこ」というコンセプトを貫くエースコンバットシリーズは唯一無二であり、7が出た後も末永いシリーズの存続を望む声は大きい。

 一方、アーマード・コア6はその比ではないことは自明である。何しろ本流のシリーズどころか外伝作品すら全くない状態で10年をただ待ち続けることとなったのだ。無論、エッセンスを受け継ぐ作品は多く存在した。佃健一郎を始めとするアーマード・コアの一部スタッフによって産み落とされた「デモンエクスマキナ」や、アーケードで人気を博した「ボーダーブレイク」、カスタマイズこそないもののロボットと共に戦うことを強調した「タイタンフォール」、よりカジュアルなところに目を向ければ「ガンダムブレイカー」や「ダンボール戦機」など、アーマード・コアが無い中でもその受け皿となる作品は数多くあったのだ。

 しかし、アーマード・コアもやはり唯一無二の存在であることには変わりなく、カスタマイズロボットアクションの金字塔としてやはり求められ続けていたのである。ネットミームとして擦られながらも、ファンはただひたすらに待ち続けた。

 エースコンバット7発表当時、様々な界隈に潜んでいたシリーズファンたちが続々と歓喜の声を上げたことは記憶に新しく、それはアーマード・コア6でも同様であった。新作発表以降は毎日がお祭り騒ぎで、それはエースコンバット7同様、発売後も続くのだろう。

2つのAC、最大の共通点

 ここまで様々な切り口から2つの「AC」について論じてきたが、やはり最大の特徴は「ファンの熱量」であろう。どちらにも熱狂的なファンが存在して、思い思いのスタイルでゲームを楽しんでいる。世界観考察を楽しむものや、プレイ技術を磨いて対人戦を楽しむもの、RTA走者、二次創作など、シリーズへの関わり方・楽しみ方は人それぞれだ。だが、どこか共通した楽しみ方があるのも、2つのACのファン層がどこか被っている点の理由の一つと言えるだろう。

 まもなくアーマード・コア6が発売し、多くの人々がルビコン3を訪れることだろう。その中には、灯台戦争の残り火がくすぶるユージア大陸からやってきた「三本線」たちも少なくない。2つのACが、これからも末永く愛されるシリーズとなることを願って、今は筆を置くことにしよう。

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