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日本株式にまだ上昇余地Japan’s Stock Rally Has Room to Run, This Expert Says.スパークス・アセット・マネジメントの武田氏に聞く

日本株式に対して強気に転じる

日本の株式市場が開花している。日経平均株価は2月に、1989年の史上最高値だった3万8915.87円を抜いて、4万1087.75円へ急騰した。過去10年間に実施された改革で、日本企業が株主により友好的になったことが原因だ。日経平均株価はその後やや反落したものの、年初来の上昇率は約16%と、S&P500指数の約9%を上回っている。そして、日本株の回復が今後も続くと考えられる十分な理由がある。

ヘネシー・ジャパン・ファンド<HJPNX>のファンドマネジャーである武田政和氏は、日本企業の収益性および効率性の改善に関する努力を考慮すると、今年の株価上昇には十分な根拠があると話す。さらに武田氏は、アクティビズムの増加やウォーレン・バフェット氏によるサプライズの来日を例に挙げて、世界がそれに気付いていると語る。

武田氏は香港在住で、スパークス・アセット・マネジメントのポートフォリオマネジャーであり、スパークスはヘネシー・ジャパン・ファンドのサブアドバイザーを務める。モーニングスターによると、ヘネシー・ジャパンは過去12カ月、さらに10年および15年で、日経平均株価をアウトパフォームしている。本誌は最近、かつて弱気派であった武田氏が強気派に転じた理由と、現在の投資先について、電話および電子メールで話を聞いた。


Photograph by Tony Law



改革が株価上昇の背景

本誌:日経平均株価は、失われた30年を経てついに上昇に転じて、1989年の史上最高値を更新した。この上昇は今後も続くのか。
武田氏:私は1999年にこの業界に加わり、2000年代と2010年代は、人口の高齢化、低下する出生率および国内総生産(GDP)対比で高い負債などを理由に、日本経済に対して弱気だった。過去約18カ月の間にみられた変化の大半は、安倍元首相が導入したアベノミクスによって2013年頃に始まった。構造的改善は、株主の権利拡大と株主還元の増加、規制緩和、資本配分の改善、および究極的には企業の競争力改善を含んでおり、経済復興と企業の効率化を目指していた。

緩やかだか着実に改善がみられてきた。私は2023年の上半期に一層前向きな見方に転じた。その理由は、コーポレート・ガバナンス改革の進捗、アクティビスト(物言う投資家)がニュースの見出しを飾ったこと、および日本のインフレが持続可能となる兆候が見られたことだった。2024年になると春闘における賃上げにさらに弾みが付いたために、スタグフレーションに対する私の懸念は収まった。

これらすべての前向きな変化にもかかわらず、日本株は過去10年間でほとんど再評価されてこなかった。バリュエーションが極限まで低下した一方で、企業はかつてより強力になっており、バランスシートの負債も減少した。また、国際的な企業もあり、利益を世界中から得ている。

Q:変化がどのように結実したのか。
A:日本の経済制度は、社会資本主義であると言われてきた。株主はほとんど顧みられず、株主還元に関する関心も乏しく、それは悪名高い株主持ち合いが原因だった。企業は資本還元の改善に向けた外部からの圧力に晒されることはなかった。

また、日本文化は米国と異なっており、マインドセットの変化には時間がかかった。アベノミクス直前の2012年の自己資本利益率はわずか約5%またはそれ未満で、資本コストを下回っていた。しかし、日本は全般的に均質な国で、トップが右を向けばその下の誰もが右へ倣う。つまり、一度弾みが付けば勢いが加速する傾向にある。

日本はアベノミクスの下でスチュワードシップ・コードとコーポレートガバナンス・コードを導入し、それが改革の一歩となった。世界の投資家は2014年と2015年に日本に殺到したが、遅い進捗に失望してすぐに撤退した。それでも日本の改革は続いてきた。

Q:実社会における結果は。
A:政府の施策と同業他社からのプレッシャーによって、企業は資本主義的なマインドセットを初めて受け入れた。経営陣は投下資本利益率で成果を議論するようになった。

Q:平均的な日本の家庭の株式投資額は多くない。今後、その状況が変化して市場を押し上げる可能性はあるか。
A:私はそうなると考えるが、時間がかかる可能性はある。家計部門の金融資産は2000兆円を超えている。そのうち半分は銀行預金で利子はほぼゼロだ。日本は長期にわたってデフレに悩まされてきたため、1989年のバブル崩壊以降は銀行預金が必勝戦略となってきた。日本の個人投資家は素人で、金融リテラシーは低い。

今や、インフレが復活しており、日本の消費者が今後合理的に振る舞うと私は期待している。日本人の投資のほぼすべてが米国の株式およびファンドに向かっており、それは、過去10年、20年にわたって米国のパフォーマンスが最高だったからだ。個人投資家の教育水準が高まって前向きな構造的変化に気付くにつれて、日本への配分が高まることをわれわれは期待している。

保有銘柄

Q:現在の投資対象は。
A:私は、自分のポートフォリオを、自らが偽装グロース株(成長見通しは魅力的だが、株価が過小評価されているとみられる株式)と呼ぶ銘柄へシフトしなければならないと分かっていた。そのような銘柄の成長は1桁半ばから後半のため、一般的にはバリュー株に分類されている。しかし、企業の成長率が世界の名目GDP成長率を上回っていれば、そのような企業は私にとってはグロース株だ。

保険会社は1桁半ばから後半で成長しており、日本には損害保険会社が3社しか上場していない。東京海上ホールディングス<8766>、MS&ADインシュアランスグループホールディングス<8725>およびSOMPOホールディングス<8630>の3社で、われわれは3社すべてを保有している。3社で市場の90%を支配しており、価格決定力は強く、収益性も高い。私はこの状況を、魅力的とみている。

Q:他の人々はどのように考えているのか。
A:市場は全般的に、保険会社を退屈なものと考えている。保険会社はバリュー株に分類されていてバリュエーションは極端に低い。非常に割安なため、自社株買いと配当を通じて優れた株主還元が行われれば、配当利回りは約4~5%となる。加えて毎年発行済み株式の2%は買い戻されるだろう。保険会社のバランスシートでは現金と資産が潤沢なため、自社株買いを継続できる。

保険会社は、事業上の関係を促進するために1960年代に取得した莫大な量の顧客企業の株式を保有している。現在、事業関係は株式保有には基づいていないため、保険会社は保有株式を売却できる。含み益は100億ドル近い。これは株主還元、または海外成長のための資金として現金化可能な重要な軍資金だ。1桁半ばの成長、4~5%の配当利回り、さらに発行済株式数の2%を毎年消却する自社株買いを合計すると、株主還元利回りは10%を超える。それは、純粋なグロース株と同水準となる。

Q:半導体銘柄を保有しているが、その見通しは。
A:2022年終盤に米中半導体戦争が勃発した際に関連銘柄の株価が暴落してわれわれは飛び付いた。われわれは、半導体製造装置メーカーの東京エレクトロン<8035>、世界最大のシリコンウエハーメーカーの信越化学工業<4063>、半導体メーカーのルネサスエレクトロニクス<6723>などへの積極的な投資を開始した。

Q:セブン&アイ・ホールディングス<3382>も保有している。成長軌道は。
A:セブン&アイ・ホールディングスはセブン-イレブンを通じて、細分化された米国市場における大きな成長余地がある。また経営陣は、セブン-イレブン店舗を改装して生鮮食品や自社ブランドの飲料を提供するなどの適切な手段を講じている。コンビニエンスストアは米国で生まれた業態で日本に持ち込まれたが、今や小売業界の中で、最も強力でキャッシュフローを生み出す業態となっている。

セブン&アイは今や、日本での改善を米国へ輸出しており、米国では買収や内部成長によって成長が可能だ。5000億円の利益を生み出せるため、フリーキャッシュフロー利回りは10%近い。そして、セブン&アイはセブン-イレブンを米国以外にも拡張している。セブン-イレブンの店舗は世界で8万店以上あり、スターバックス<SBUX>やマクドナルド<MCD>よりも多い。すべての店舗がセブン&アイに帰属するわけではないが、セブン&アイはブランドを保有しており、ベトナム、オーストラリア、欧州などでの成長を目標にしている。

円安は継続

Q:最近の円安の影響は。
A:日本銀行が利上げしても、構造的な理由によって円安が続く可能性がある。円安は海外企業の日本投資を魅力的にするものの、日本の海外への直接投資の額の方がはるかに多く、日本円の売り需要の方が多い。また、インバウンドによる円需要も増加しているがその規模は小さい。前述の通り、日本の個人投資家は国内の株式およびファンドよりも海外を選択しており、円売り/外貨買いにつながっている。米国のテクノロジー企業のサービスを利用する日本人が増加しており、円を売って外貨で支払う取引が増えている。日本企業は海外の工場および子会社の利益を日本へ還流させておらず、円買い需要は小さい。最後に、実質金利は依然としてマイナスで、投資家は金利が比較的高い外貨を選好している。

Q:投資家に残された手段は。
A:日本経済は依然厳しいが、個々の銘柄に注目すると、対象市場が巨大で、状況にかかわらず成長可能な世界クラスの企業が数社ある。日本を本社とするグローバル企業の買いは、円安に対するヘッジとなる。

原文:By Teresa Rivas
(Source: Dow Jones)
翻訳:エグゼトラスト株式会社

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