涼宮ハルヒの謝罪 1

春先ののどかな陽光に照らされ、坂道を登る。
とはいえ登校がてらハイキング、という訳にはいかない。そう楽観的になるにはこの坂は些か常軌を逸していた。
こうなると、足にモーターでも着けたくなるね。車輪でもいいか。おっと、その場合はブレーキも着けなくちゃな。備えあれば憂いなし、ってやつだ。
ところで、何故SOS団の面々とは登校時に顔を合わせることがないのだろうか?
登校時間が違うのか?それでも一度くらいは見かけてもいいだろう。ならば、通学路が違うのか?だが、それなら校門辺りで鉢合わせてもいいはずだ。
謎は深まるばかりである。
少しばかり気にはなるものの訊くまでもない、実質答えのない思索に耽っていると、背後からおはようございます、の声。
「なんだ、古泉か」
「ええ、おはようございます」
こいつは驚いた。シンクロニシティというやつか。
「早いですね」
早いか?まあ、母親にゴミ出しを頼まれたんで、いつもより10分くらい早く家を出たが。
「なるほど。あなたがお母様にゴミ出しを頼まれて、10分早く家を出た。そして僕と出会い、一緒に登校している。これも全て運命でしょう」
朝から何を言ってやがるんだ、こいつは。自然と歩みも速くなるというものである。
「おや、お急ぎですか」
「いや、そういう訳じゃないんだが」
俺に取り繕わせるんじゃない。相変わらず顧慮に厚いんだか唐変木なんだかよく分からん奴だ。
「あなたに涼宮さんから伝言があるのですよ」
なんだ?急に。
「あなたは昨日、用事があるとのことで団活動をお休みされたでしょう?そこで決まったことがありまして」
嫌な予感がするが。
「今日はそれをお伝えしますので、放課後部室に集合、絶対時間厳守との事です」
俺に自由はないのか?そもそも放課後に時間厳守とは、少々曖昧じゃないか。
というか、後ろの席に座っているんだから直接言えば済む話だろうが。業腹だ。

日中、いくらハルヒに訊ねても答えは返ってこなかった。4度目にもなるとあからさまに不機嫌な顔をしだしたので、慌てて質問を取り下げた。モラルハラスメントというやつじゃないのか、これは。
放課後、部室に向かうと朝比奈さんがチャイナドレスで出迎えてくれた。まだ肌寒いのにご苦労様です。
古泉は軽く手を挙げて会釈。長門は相変わらず読書に傾注している。いつもの光景だ。
席に着き、古泉と長門に悟られないように朝比奈さんの肢体を凝視していると、ハルヒが勢いよくドアを開けた。
「キョン!これまで迷惑をかけた方々に謝罪をしに行くわよ!」
我らが団長様はまた何を言い出すのかと思えば。
おいおい、ハルヒが謝罪だって?
そいつは大谷翔平が日本球界に収まるくらいありえない話だぜ。
「なんだ、その程度のこと教室でも言えただろう」
「は?キョンのくせに生意気ね。物事には順序ってもんがあるのよ」
ハルヒのくせにまともなことを言いやがる。
「で、ついて来いってのか」
「当然でしょ!団員全員で謝罪をしに行くのよ!」
俺が考えあぐねていると、目の前の優男が割り込んできた。
「よいではないですか。涼宮さんもこう言っている事ですし、謝意を無下には出来ないでしょう」
謝罪されるのは古泉、お前でも俺でもないけどな。
いや、少なくとも俺や朝比奈さんには謝って欲しいものだが。
「何よ。みくるちゃんはともかく、アンタに謝る事なんか何一つないでしょうが」
全くこいつは、一言一句想像通りの事を言ってくれやがる。
「わっ、私も謝りに行きたいですぅっ!お寺の住職さんとか・・・」
その件に関して謝るべきなのはハルヒですよ、朝比奈さん。
「まあ、朝比奈さんがそういうのなら」
窓際の文学少女に目をやる。
「長門もそれでいいか?」
1ピコメートル下に動いた顎で是非を判断する。
「よし、じゃあ行くか」
「有希は何も言ってないでしょうが」
「いや、今、1ピコメートル顎が動いたろ」
「そうなの?有希。」
長門が口を開く。
「動いた」
「ほらな、動いてたろ?」
「ふーん、なんかアンタキモイわね」
誰がキモいんだ、誰が。
「まあいいわ。じゃあ明日、駅前に朝6時に集合ね。喫茶店は一番最後に来た人の奢りよ!」
早すぎないか?修学旅行でもあるまいに。
というか、お前の為に謝罪しに行くんだろうが。こういう時は普通、当事者が出すものだろう。
まあいい、いつもの事さ。


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