マガジンのカバー画像

重要文化財

22
何度も読み返したい、スキ以上の記事たち。
運営しているクリエイター

記事一覧

『マッドマックス:フュリオサ』

『マッドマックス:フュリオサ』

貴種流離譚としてMAXな出来。『マッドマックス 怒りのデス・ロード』の前日譚であるため前作で登場したキャラクターおよび場所および名称が次々と出てきて楽しく、「これがああ繋がってたのか~」という答え合わせ的な喜びがあります。そしてそれは『怒りのデス・ロード』に対して新たな視点、新たな読み方を与えるという行為でもあり、その点で『ゴッドファーザーPartⅡ』が行っていることと近い。楽園から出ることを余儀

もっとみる
エッセイ | 作品は投稿した瞬間に自分だけのものではなくなる。

エッセイ | 作品は投稿した瞬間に自分だけのものではなくなる。

 もう2年近く前のことになるが、「#作者がコントロールできること・できないこと」という記事を書いたことがある。

 なかなか作者が思ったとおりには作品は読まれることがない。もっと作者の作品に込めた思いに耳を傾けたらどうだろう?、という気持ちで書いた。

 だが、どんな作品であっても、それが古典的な地位を占めるような作品であればあるほど、誤読というか、換骨奪胎したような解釈をされるのはやむを得ないの

もっとみる
【読書コラム】自分より本や映画に詳しい人を見ると自信をなくしてしまうけど - 『さがしもの』角田光代(著)

【読書コラム】自分より本や映画に詳しい人を見ると自信をなくしてしまうけど - 『さがしもの』角田光代(著)

 うっかり本を借りてしまった。積読が何百冊もあるというのにやってしまった。

 案の定、

「ありがとうございます! 読みます!」

 と、答えて半年近く経ってしまった。1ページも開くことなく。

 読書談義で盛り上がるとこういうことになりやすい。わたしは素直に面白そうと言ってしまうから、好意で、

「よかったら貸してあげるよ」

 と、言ってもらいやすい。そして、つい、感謝の言葉を述べている。

もっとみる
レタスを食べなさい

レタスを食べなさい

あれは30手前の、
恋に悩んでいた頃のお話。

当時の私は
やたらめったら仕事が忙しく、
彼氏からも放置されており、
「結婚」というものについて焦りと憧れと諦めの気持ちの中でモヤモヤしていた。
このまま仕事だけ頑張って、
恋愛ごとを忘れることができたらどんなに楽か。

わりと切実に悩んでいたところに、
同僚から
「よく当たる占い師がいるらしい」と情報が入った。
恋愛や仕事の悩みをかかえている時の占

もっとみる
【読書コラム】とどのつまり、文体ってなんなのだ?! プロとアマチュア、男と女、人気のあるなし。その差はいったいどこにある? - 『数字が明かす小説の秘密 スティーヴン・キング、J・K・ローリングからナボコフまで』ベン・ブラット(著),坪野圭介(訳)

【読書コラム】とどのつまり、文体ってなんなのだ?! プロとアマチュア、男と女、人気のあるなし。その差はいったいどこにある? - 『数字が明かす小説の秘密 スティーヴン・キング、J・K・ローリングからナボコフまで』ベン・ブラット(著),坪野圭介(訳)

 高校生の頃、幸運にも、大江健三郎さんとお話しする機会を得た。最初、有名な小説家ということで、

「大江先生」

 と、お声かけしたのだが、「先生はやめてくれ」と言われたことが印象的だった。

「大江さんと呼んでください」

 当時、大江さんの初期作品にわたしはハマっていたので、どうしてこんな現実離れした設定を書くことができたのか、いろいろ質問させて頂いた。「そんなむかしの話を聞かれても」と言いつ

もっとみる
Fマニアクス

Fマニアクス

F先生といったらそりゃもちろん藤子・F・不二雄先生のことである。まあ呼び方については「藤子先生」とか「藤本先生」とかケースバイケースで言いかえているのだけど、私にとって「先生」といったらこの人のことなのだ。なんでか藤子先生には先生って付けたくなるんだよな。手塚治虫も萩尾望都も鳥山明も三浦建太郎も伊藤潤二も「先生」とは付けずに呼んでいるのだけどこの方に関しては先生と付けて呼びたくなる。不思議。すこし

もっとみる
【ショートショート】事故物件ですよね? (2,573文字)

【ショートショート】事故物件ですよね? (2,573文字)

 その日、化粧品が届く予定になっていたから、ピンポーンの音に警戒ゼロでわたしは扉を開けてしまった。当然、佐川の青い制服を着た人が立っていると思ったら、山伏みたいな格好をしたおじさんがそこにいたので戸惑った。

「遅くなってすみません。こちらがご連絡頂いた事故物件ですよね?」

 もちろん、そんな連絡はしていない。ただ、違いますと答えるには度肝を抜かれ過ぎていたし、山伏が問答無用で室内へ入ろうとする

もっとみる
サイトマップ | 青い豆の世界より

サイトマップ | 青い豆の世界より

はじめまして。
(いつも仲良くしてくださる皆さま、こんにちは💞)

青豆ノノです。

2023年3月に創作を始めたことをきっかけに、発表の場を求めて翌月4月にnoteを始めました。
主に短編小説、ショートショート、日記、エッセイ、20字小説を書きます。

この度、はじめての方にも作品に触れていただきやすいように、サイトマップを作りました。一部ですが、ぜひご覧下さい。

内容は随時更新していきます

もっとみる
短編小説/濡れ鼠

短編小説/濡れ鼠

 南口のバスターミナルで、名古屋行きの夜行バスを待っている。不運なことに傘はない。急に降り出した大粒の雨を五分ほど浴びた後、びしょ濡れの体でバスに乗り込んだ。
「寒いですね」
 と隣の席の女性に声をかけられる。雨で濡れた髪をタオルで拭きながら、「雨が降るとは思いませんでした」とため息と共にその人はいう。
「そうですね、予報では晴れだったと思います」
 そう言って、僕も長く息を吐く。
「実は今日、彼

もっとみる
童話/動物たちの夜

童話/動物たちの夜

 夜空に輝く星たちは、自分がいままでに食べた動物たちの目らしいです。
 自分がどれだけの動物を食べたのか、もう数えきれないほど食べています。
 昨日も食べました。
 あの右のほうに二つならんでいる星が、昨日食べた鶏の目かもしれません。そう思うと、肉髭をふるわせながら、朝を告げるその姿さえ夜空に浮かんできます。
 わたしの左手に鼻先を押しつけるようにして、この地球上でもっとも愛すべき犬種であるジャマ

もっとみる
AYA (短編小説・後編)

AYA (短編小説・後編)

私は夢の中にいた。
今となっては、望むよりも拒むことの方が難しいくらいに、現実世界で眠りに落ちると次に意識を取り戻すのは夢の中、つまりアヤの居る世界であった。

私はアヤの住む居住区と例の崖のちょうど中間辺りに立っていた。何も無い平原の先に見える赤い建物。いくつか並ぶ同じ家家は、異様な雰囲気を出している。かつて誰かが生活していた痕跡を残しつつ廃墟となったこの土地が、現実世界に存在するのかどうかわか

もっとみる
AYA (短編小説・中編)

AYA (短編小説・中編)

「アヤ。君はいつからここにいる?」
出会った頃は知る必要もないと思っていた、アヤという人物への興味は日に日に増していく。現実世界と同じように過ぎていく時の中で、アヤだけと過ごすこの異様な世界に於いては、彼女のことを知ることは重要だと思うようになった。それはまるで、自分を知ることのように。
「さあ。気付いたらここにいた。ある日、突然ね」
アヤは、なにかの建設予定地であったであろう更地の、ところどころ

もっとみる
AYA  (短編小説・前編)

AYA (短編小説・前編)

「本当の貴方は今、夢の中なのでしょう?」
私の隣に横たわる裸の女は半身を起こし、長い髪をかきあげる。女は汗ばんだ体にまとわりついていた髪を、肩より後ろへ送りながら私に尋ねた。
「あぁ、多分ね」
私はまだ息が上がっているのに、女は涼しい顔だ。夢の中でも私の体力の無さは変わらない。ここは私の理想が反映される世界ではなく、限りなく現実に近い。
「ここが貴方の夢の中なら、貴方は一体いつ寝ているのよ」
女は

もっとみる
掌編小説/読書前夜

掌編小説/読書前夜

 読む時間よりも、本を探している時間を愛している。
 駅ビルの六階に入っている本屋の文庫コーナーには、ほとんど誰もいない。いたとしても、新潮に一人、河出文庫に一人、ハヤカワのSFや海外ミステリーの棚に一人。
 彼は平積みになっている文庫の表紙を眺めながら、文庫コーナーを一周する。平積みになっているのは、新刊や人気作家の小説やエッセイ。
 この本屋には毎週来ているので、その景色が大きく変わるわけでは

もっとみる