『巡航ミサイル1000億円で中国も北朝鮮も怖くない』北村淳著、講談社+α新書687、2015


プロローグ:中国軍の対日戦略が瓦解した日

シミュレーション

「つい最近までの日本自衛隊には、我が国土に対する報復攻撃を行う戦力はなかった。人民解放軍は、ホワイトハウスが本格的な軍事介入の決断をするまでは、ただ一方的に日本に対して攻撃を加えることが可能であった。したがって、軍事攻撃の可能性を突き付けることによって、我々の要求を日本政府に押し付けることができた。
 しかし、状況が変わってしまった。アメリカの打撃力に頼りきっていた日本が、報復攻撃力を手にしてしまったのだ―――」

中国共産党中央軍事委員会首脳全員を前に、中央軍事委員の一人である中国人民解放軍総参謀長による緊急報告がなされた。

「日本は我が国に対してどのような報復攻撃を加えることができるのか?」

中国共産党中央軍事委員会主席(すなわち国家主席)が怪訝そうな顔つきで尋ねると、人民解放軍総参謀部第一部長が説明した。

「日本自衛隊は我が国土に対して、それも北京に対してまでも、多数の長距離巡航ミサイルを撃ち込む能力を持ってしまいました。
 中央軍事委員の皆様がよくご存じのように、我が人民解放軍が手にしているもっとも効果的な対日恫喝手段は、長距離巡航ミサイルと弾道ミサイルです。とりわけ長距離巡航ミサイルは、理論上はともかくも、現実的には効果的な防御手段が、日本にもアメリカにもそして我が国にも未だ存在いたしません。それゆえに、人民解放軍は大量の長距離巡航ミサイルを手にして、対日恫喝に役立てようとしているわけです」

総参謀長が補足した。

「だからこそ、日本国内の工作員や協力者たちによって、長距離巡航ミサイルのような他国に対する攻撃力を自衛隊が手にしないよう、『平和運動』を展開させてきたのです。
 同様に、アメリカでもロビイストや反日分子に多額の金をばらまいて、連邦議会がトマホーク巡航ミサイルの日本への売却を許可しないような活動をさせてきた。残念ながら、日米の日本再軍備分子の反撃を抑えることができず、日本自衛隊は数百発のトマホークミサイルを極めて短期間のうちに装備し、現在もその数を増やし続けています……………」

「日本のトマホークミサイルは人民解放軍にとって深刻な脅威となるのか?」

この国家主席の質問に、総参謀部第一部長が説明を再開した。

「日本が手にしているトマホークミサイルの倍以上の数の長距離巡航ミサイルを人民解放軍は保有していますし、日本攻撃用の弾道ミサイルも数百基保有しております。したがって、我が国と日本がまともにミサイルを撃ち込み合ったならば、当然、我が国が勝利を手にします。こういった意味では、日本のトマホークは人民解放軍にとっては深刻な脅威とはいえません」

これを聞いて国家主席は顔に安堵の色をにじませたが、総参謀部第一部長はすぐにそれに水を差すような言葉を継いだ。

「………ところが、日本自衛隊が反撃する能力を持ってしまったがために、いままでは我がほうは日本を攻撃する準備をすれば事足りたのに、これまで不要だった防御態勢を厳重に固めることが必要となってしまいました。そして、長距離巡航ミサイルに対する防御態勢には、意外に多くの戦力を繰り出す必要があるのです。
さらに悪いことには、我が人民解放軍の早期警戒能力は日本自衛隊に比べると数段劣っており、トマホークの早期捕捉は至難の業というのが現状…日本自衛隊による北京攻撃のシミュレーションを、画像で見てください」

  • 海上自衛隊駆逐艦からトマホークミサイルが発射される場面、

  • 海中を潜航する海上自衛隊潜水艦から発射されたトマホークミサイルが海中から海面上空に舞い上がる場面、

  • 海面スレスレをトマホークミサイルが飛翔するシーン、

  • 山林地帯の木々の上をグネグネと縫いながら飛翔するシーン、

  • 北京上空に超低空で接近するトマホークミサイル、

  • 共産党幹部邸宅に突入するトマホークミサイル・・・・・

「このように、我々が日本を攻撃したならば、間違いなく日本自衛隊は我々のオフィスや自宅をはじめ我が党、そして軍の中枢機関などをピンポイントで破壊するでしょう。我々が対日攻撃を実施する場合には、日本からの報復攻撃が実施されることを前提としなければならないのです。
 また、自ら報復攻撃力を手にした日本自衛隊が反撃の口火を切ることになるため、アメリカとしても日本支援を口実に参戦しやすくなったと考えなければなりません」

引き続いて総参謀長が結論を述べた。

「そもそも人民解放軍が長射程ミサイルを大量に配備しているのは、ミサイル戦力を背景に日本などを軍事的に脅かして、実際に我が人民解放軍のミサイル攻撃を被って壊滅的敗北を喫するはるか以前の段階で、もちろん理想的には攻撃開始以前の段階で、我が軍門に降らせるためでありました。
 ところが、日本自衛隊が中国に対して効果的な反撃を加えることができる攻撃力を手にしてしまった現在、我々が目論んでいた恫喝により日本政府を屈服させることは困難となりました。そして、実際に対日ミサイル攻撃を実施すると、我々自身が自衛隊ミサイルによって葬り去られる可能性がある状況となってしまった人民解放軍総参謀部としては、対日戦略を抜本的に修正することを提識せざるをえません」

国家主席もうなずき、中国共産党中央軍事委員会緊急最高首脳会議を締めくくった。

「たしかに日本が手にした報復攻撃力そのものは強烈な戦力というわけではないようであるが、これまで長年にわたって日本自衛隊にはなかった我が国に対する反撃能力が誕生してしまったことは、我々の『戦わずして勝つ』戦略にとっては痛烈な打撃となってしまったようだ。
 アメリカの連中が名づけた『短期激烈戦争』を突き付けて、日本政府を屈服させる基本構想は、もはや成り立たなくなったと判断せざるをえないようである。人民解放軍は、直ちに対日戦略を練り直す作業を開始しなければならない......」

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