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ポッキーでシバかれた君へ

人にポッキーでシバかれたことがありますか?
と聞いたら、は?と言われることしか想像できない。

だけど、あえて聞きたいと思う。
ポッキーでシバかれたことありますか?と。

そして、は?と言う顔をしながら読み進めて貰いたい。
誰をも笑顔にするでお馴染みポッキーでシバかれた男の話を。

あれは、小学校4年生の頃だった。
真冬の秋田県。雪は当たり前のようにドヤ顔で積もっている。
けど、秋田の人達もドヤ顔の雪の存在を当たり前のように思っているから、しれーっとしている。

俺は施設で育った。
施設の説明は長くなるから、今後、記事にしてシリーズ化する予定なので割愛させていただきますね。

お菓子の食べられない施設だった。

我々、子供達が住んでいる棟から徒歩5分ぐらいに大人達が住む棟があった。
食事の時間は子供達も大人達の住む棟の食堂に行く。 

地理的なことは、約束のネバーランドあたりを思い浮かべて頂くと分かりやすいかもしれない。

その大人達の食堂の横にロビーという名の大人の憩いの場所がある。
ホテルのラウンジの超ショボい版みたいなのを想像して欲しい。

超ショボい版ラウンジと言えど、小学校4年生の自分にとっては、敷居の高い場所であった。
そして、冒頭のポッキーもそこにあった。 

そこにあるポッキーは、一般的に売られているピンピンの等身大のポッキーではないが、食べやすいように一口サイズに折られたポッキーである。

それが透明のオシャレ瓶に入っていた。
ポッキーを始め、お煎餅から、かっぱえびせん、マーブルチョコなどのオールスターが並べられていた。

オシャレ瓶の中で彼らはキラキラしていた。
もはや彼らはダンスをしていのだと思う。
小4男児にはそう見えた。
なんなら、ポッキーは手招きまでしていた。

俺は衝動を抑え切れずにショボラウンジから脱皮した楽園に足を踏み入れた。

もちろん、大人が誰1人いないタイミングを見計らって。
ただ、大人がいつやってくるか分からない。

オシャレ瓶の蓋をガサツに開けて、ポッキーを生意気にも片手で鷲掴みにしてズボンのポケットにねじ込んだ。

その10年後ぐらいにBOAの『VALENTI』と言う曲を聴くのだが

タイトなジーンズにねじ込む
わたしという戦うボディ

あの瞬間は、まさにそれだった。

そんなわけないけど、BOAがあの瞬間を歌っているのなら一生付いていこうと思う。
そんなわけないけど。

左右の手はタイトなジーンズにポッキーをねじ込んだ。
タイトなジーンズと言っているが、半ズボンだ。

東北の真冬でも裾のついたズボンなど履いたことなどなかった。

タイトな半ズボン・ジーンズのポケットを左右だけじゃなく、尻の左右ポケットまでポッキーをねじ込んでいっぱいにした。

夢はケツのポケットにまで入れられることと、ズボンの尻にポケットがある意味を小4で知った日だった。

学校で会う一般家庭で育てられている同級生がポケモンをゲットして夢中になっている頃、俺はバキバキのポッキーをポケットにゲットして意気揚々と楽園を後にした。

その直後だった。
施設の保母さん的な人、学校で言うと先生的な人、約束のネバーランド的に言うとシスターに玄関で捕まった。

鬼の形相と言うものも小4で目の当たりにした。

鬼の形相と言うのは、事態の深刻さを瞬時に教えてくれるものだと言うことも小4で学んだ。

今なら冷静にその事態を振り返ってこう言える。
「ごめん、ちょっと待って、お菓子を食べたいだけなんだけど」

そんなことは遥か彼方。
いつになることやら。

とにかく、耳を引っ張られ外に連れて行かれた。
女性と言えど、アワアワした小4男児など耳を引っ張るだけで外に連れ出せる。

大人の棟から、我々、無邪気な子供達が生活する棟までの道のりの静寂さが地獄だった。
どうやら、犯行現場を窓の外から見ていたらしい。

子供の住む棟の前に着いた瞬間だった。
電光石火と言うフレーズはこういうときに使うのだろう。

皆んながピカチュウにこの技を出させている頃、俺はこのシスター的な人から電光石火のビンタを顔面に喰らった。

そんなのは、フルコースで言うところの前菜だったし、落語で言うところの枕であり、漫才で言うところのツカミでしかなかった。

メインディッシュは、シスターが俺のズボンのポケットに手をねじ込み、ポッキーを鷲掴み、顔面にぶち当てるという肉肉しいものだった。

あれ、今日って節分だったけ?
なんてことを考える余裕は勿論なかった。

ポッキーでシバかれたことのない皆様に朗報があります。
あのぉ〜、ポッキーはぶつけられると痛いですw

それが近距離であろうと、遠距離であろうと、大谷翔平が投げなくとも顔に当てられると痛いのです。

俺がポケットの中にかき集めたありったけの夢は全て取り出されぶつけられた。
こう言うのを因果応報と言うのだろうか?

エビバデポッキー!はあまりにもボディーに強めだった。

鍋をするとき、人と居酒屋で飲むときのシメが好きである。
だが、今回のシメはこのフレーズだった。

「警察官の息子が泥棒か!」

何を隠そう、施設に入る前、親と暮らしていた頃の父親の職業は警察だった。

泥棒……ドロボー
そうか、俺は盗みをしたんだ。

そして、今盗んだ品で自らがシバかれているのだ。

頭を冷やせと言うことで、真冬の寒空のなか半ズボンの少年は小一時間立たされた。

雪に舞ったポッキーを見つめたまま。
一瞬、食べようかな?とも思った。

それから、ポッキーのCMが変わっていくように月日は流れ、少年は大人になった。

11月11日。
仕事先で後輩が言う。

「今日、何の日か知ってますか?」
「なんだっけ?」
「ポッキーの日ですよ!帰りに買って行った方がいいですよ!」

無邪気さやお菓子に罪はない。

コンビニでポッキーを手にとる。

笑って折れていないポッキーを口にしている大人になれて良かった。










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