見出し画像

15. どういうバリエーションが理想的? 1

これまで、コンテンポラリー奏法にもフィットする「4. スタイルを選ばない楽器」、「5. アボリジナルはどういう楽器を選ぶのか」、「7. キッズ・イダキ」、「8. MagoとKenbi」、「10. オールドファッションなイダキ」、「11. ディジュリドゥの上達へつながる楽器選び」など、いろんな目線で楽器選びの方法を見てみました。

こういったアボリジナルの作ったディジュリドゥの多様性の中からどういうバリエーションを揃えるのが理想的なのか?できるだけアボリジナル的感性に近づくようなヴィジョンとバランダ(ノンアボリジナル)的目線の両方で、どういう楽器をセレクトするとディジュリドゥ・ライフが豊かになるのか考えてみようと思います。


3種類のディジュリドゥを横断的に演奏する

このコラムまで読まれた方はすでにトップエンドにはMago/Kenbi/Mandapul(イダキ)の3つのディジュリドゥがあることを知っています(これ以外にも様々な名前の楽器が存在します)。

[3種類のディジュリドゥ]トップエンドの代表的なディジュリドゥ3種。これ以外にもLhambilbil(Numbulwar)、Alawirr(Goulburn Islands)、Marluk(Wadeye)など、地域毎に異なる特徴を持った楽器が存在していて、本来はどれも均一に扱うべきだと考えています。noteではわかりやすさを優先してKenbi/Mago/Mandapulの3種類に絞って説明しています。

例えば、Raymond Marpin GuyulaはMagoとMandapulの両方に長けたマスターです。彼はDjambarrpuynguクランのヨォルングでありながらも、MatarankaやBeswick方面に住んでいるということで両方のスタイルに精通しているのかもしれません。実際彼の生音を聞くと、Mago/Mandapulどちらかにかたよりがあるのではなく、両方の楽器を自由自在に演奏していることがわかります。

一般的にアボリジナルのディジュリドゥ奏者が、言語や楽器の種類を越えて横断的に幅広いバリエーションの演奏をする、ということはそれほど多いことじゃないかもしれません。実際は、自分の地域の自分たちのカルチャーの音楽の伴奏をすることに終始する人が多いと思われます。

Mago/Kenbi/Mandapulなど全ての伝統的なディジュリドゥ演奏のスタイルに手を出せるのも、外側の人間であるバランダという立場からディジュリドゥにアクセスできるメリットですし、やらない手はないでしょう。

Magoは得意だけどMandapulは難しく感じる、もしくはその逆という人がいたら、そういう人こそ横断的に3種類の楽器を演奏することをおすすめです。個人的にはこの3種類のディジュリドゥの演奏スタイルを同時進行で学ぶことで、あらゆる地域のアボリジナルのディジュリドゥの演奏スタイルに通低するディジュリドゥ演奏のベースになるモノがあると感じるようになりました。それがハミングで浮き立つ感覚です。

そういう点でMagoとKenbiは伝統奏法にチャレンジする人なら持っていたい楽器です。またドローンのみに特化した楽器を乗りこなすことは、基礎的条件であるハミングの感覚をより強化して極めていく方向に導かれます。歌の伴奏をするという目線で見れば「F~G」のピッチのMago/Kenbi、あるいは「C~D」のMago/Marlukが実践的ですが、そうでなければピッチはそれほど重要じゃないかもしれません。


ハードタング演奏にフィットするF~G#のハイピッチなイダキをチョイスする

「10. チャレンジングなイダキ」ですでに書いたように、現代的なヨォルングのイダキ演奏のベースになっているハードタング的演奏をするのにフィットする「F~G#」のハイピッチなイダキの中からいくつか楽器をチョイスするのがおすすめです。

まずは楽に演奏できるという感覚を重視して、自分にとってナチュラルな感覚が立ち上がるセンター感のあるイダキを1本選びます。そして、プラス側に難易度を感じるような乗りこなせないオープン系のイダキと、マイナス側に働くナロー系かキッズ・イダキが矯正的な役割を果たします(詳細は「10. チャレンジングなイダキ」をご覧ください)。

[チャレンジングなイダキ]以前に紹介したF~G#の高いピッチの3本のイダキで練習するメソッド。ミニマムに3本だけ楽器を選ぶなら、この選び方をすると似たテイストばかりにならず、遠すぎず近すぎないバリエーションになります。


ローピッチなイダキを加えるのはなぜか?

ハードタング的アプローチをする3本のイダキに加えて、「C~D#」前後のローピッチで、マウスピースが大きくてやわらかい振動のオールドファッションなイダキを加えることで、よりリラックスしたパワーの使い方にトライすることができます。

[B. Wunungmurraの初期作品]イダキ・マスターとして名高いB. Wunungmurraが販売用のイダキを本格的に作りはじめた2003年の作品。後期の作品はハイピッチなものが多い傾向がありましたが、初期作品にはこういった細長くローピッチのイダキがありました。【Bu**********gu Wunungmurra】D/E++・155.5cm/3.1kg・2.9-3.1cm/7.7-7.9cm

オールドファッションなイダキの効果

  • キーが低いと自然にオープン・アパチュア(唇の振動部分)になる

  • マウスピースが大きくてローピッチだと唇を強く振動させることをあきらめる

  • ローピッチでロープレッシャーになるとハミングで支えるしかなくなる

  • 強く押していく感覚よりもリラックスしておおらかに乗せる感覚が醸成される

このようにハイピッチのイダキでは起らないような感覚に自然に導かれます。結果的により開放的でリラックスしていて、大きくかまえるようなアプローチが立ち上ります。これは不思議なくらいキッズ・イダキやナロー系のイダキを乗りこなす感覚と似通っています。なかば強制的にゆるやかさを求めるキッズ/ナロー系にくらべ、ローピッチなイダキを鳴らせば自然とおおらかさが立ち上がります。

後編へ続く


最後まで読んでいただきありがとうございました!みなさんが無料でできる「スキ」や「シェア」、noteは無料で登録できますので「フォロー」をしていただければうれしいです。 あなたの「スキ」、「シェア」、「フォロー」が、ぼくがnoteで文章を書いていく力になります。