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石神井公園の風景(エッセイ1)

赤い傘の出逢い


 ザーーーーッ!!!

 突然、バケツをひっくり返したような夕立が降ってきました。

 生け花のお稽古の帰り道。当時、秘書の専門学校に通う学生だった私は、いつも大きな鞄を肩から掛けていました。それに、お花の材料を入れる地面につきそうな細長いバッグを反対の手で持ち、荷物多めの状態でした。

 京王線「芦花公園駅」を降り、屋根のついた商店街の外れにある交差点は赤信号。その間、私は、ショルダーバッグの底から、入れっぱなしにしてあった赤い折り畳みの傘を取り出しました。

 9月初旬。その日、天気予報は全国的に晴天マーク。私以外に、傘を持っている人は見当たりませんでした。

 信号が赤から青に変わった瞬間、大勢の人たちが、頭の上にカバンを傘代わりにして走って行きました。私は一人、悠々と傘をさし、荻窪行のバス停に向かって歩きました。そして、バス停の最後尾に並びました。

 バスは、すぐには来ませんでした。落ちてくる雨が痛いほどの勢いなのに、そのバス停には屋根がありません。

 その中で、私はさすがに一人で傘を差していることに気が引けました。それでも、私の折畳みの赤い傘は、とっても小さく人を入れて差し上げるには小さすぎたので躊躇していました。

 が、やはり見るに見かねて、私は、バス停の列の前の人に、傘を差し出しました。

「良かったらどうぞ・・・。」

「ありがとうございます。」

 あまり顔は見えませんでしたが、就職活動中の大学生のようなルックスの青年でした。

 それから、バスが来るまで二人とも無言でした。

 私はだんだん辛くなって手がしびれてきました。

 なぜならば、私の身長は150センチ。ショルダーバッグが苦手な「なで肩」の私が、大きな重たい鞄をショルダーバッグのように右肩に掛け、何度も落ちそうになるのを持ち直しながら、右手では、約1メートル程あった生け花のお稽古バッグが地面に付かないように持ち上げ気味に持っていました。その状態で、左手では、私より背の高い人に傘が入るように高く持ち上げて、差していたのです。


 5分経っても、10分経ってもバスは来ません。
 私の右腕はだんだん震えてきました。

(どうしよう、このままでは、バッグを2つとも落としてしまう・・・)

(この人、傘を持つ役を代わってくれないかしら・・・本当にどうしよう、、、もう駄目だ!落ちる!!)

と思ったその瞬間、その青年は、

「傘、代わりましょうか?」

と言ってくれました。内心、(もう!もっと早くいってよ!!)と叫びながら、

「ありがとうございます。」

と、ようやく傘を持つ役を代わってもらいました。と言っても、実はその人も気の毒に。。。

 私の持っていた赤い傘はあまりにも小さく、一人でもやっとさせる位の大きさなのに、それを二人で差しているのですから、二人とも反対側の肩はずぶ濡れでした。私が着ていた、裾と袖にレースの花模様が入った半袖の薄茶色のワンピースも、右半分はびしょ濡れでほとんど黒色になっていました。

 雨の勢いは弱まることもなく、そのまま15分位経った頃、ようやくバスが到着しました。荻窪行のバスは、環八道路を通るため土曜日の午後はいつも渋滞していました。そのためか、時間通りに来ない上、バスの中も混んでいました。青年は、

「ありがとうございます。助かりました。」
と言って、バスの奥の方へ姿を消しました。


(つづく)



 


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