Kimitaka/小川室長

ゲームとか翻訳する人(Coffee Talkなど)。🇺🇸to🇯🇵 game/media/l…

Kimitaka/小川室長

ゲームとか翻訳する人(Coffee Talkなど)。🇺🇸to🇯🇵 game/media/legal translator. 駄文を綴ります。けろウェイ翻訳事業部室長兼ラブコ松本宣伝係。だいたいやる。実績/Portfolio👉lit.link/transneko

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  • 松本つれづれ

    移住先の松本からつれづれなるままに記をお届け。

  • ラブコ松本猫だより by 室長

    • 5本

    けろウェイ合同会社、翻訳事業部の小川室長による猫ブログ。翻訳事業部だけど時々ラブコの仕事も手伝います。

  • 掌エッセイ

    心に水を。日々のあれこれを随筆や掌編に。ほどよく更新。

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    ゲームとかの翻訳やフリーランス生活について。

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    猫ズとの暮らしを綴り、綴られ。にゃおん。

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【掌編】チャダ子の夏

腕が鳴るわ、とチャダ子は意気込んだ。 “映えスポット”としてウェーイ系に人気のキャンプ場から少し離れた、森の奥の古井戸のなかで、積年の怨念──あまりに長いこと恨みすぎて、そもそも何を恨んでいたのか忘れてしまったが──を一年かけて増幅させながら、夏の始まりを待ち続けていたのだ。 慣れた動きで四つん這いになり、蜘蛛のように古井戸の壁を駆け上がって外へ出る。そして思った── あっつ。外あっつ。何これ。 不気味に伸びた長い黒髪をばさりと振り上げ、暖簾状になった前髪の隙間から空

    • ラブコ松本猫だより(2024/8/15号)

      季節は夏まっさかり。陽射しが強烈すぎる松本の街でも、蝉時雨のなか、毎週のように市内のどこかでお祭りが行われております。 全松本市民が参加すると噂される年間最大級のイベント「ぼんぼん祭り」も快晴の下、大いに盛り上がりを見せておりました。 さて、“保護猫がはたらく会社”ことラブコでは創業以来一貫して、主に保護中の猫たちをモチーフにしたグッズを売ることで、猫たちの食費やら猫砂代やら病院代やら光熱費やらを賄っております。 基本的にはクラファンや寄付に頼ることはありません。このス

      • 【掌編】最後のライブ

        デンジャラス・マッドの4人は頭を抱えていた。 決まらないのだ。解散ライブのセトリが。ロックに捧げた35年のキャリアの中でアルバムにして20枚、延べ300曲以上の時に激しく、時に優しいロックンロールを世に届けてきた。その中から、わずか20曲を選び出すのは容易なことではない。 とりわけ、アンコールの最後を締めくくる曲──言わば“マッドベイブ”(注:ファンのこと)たちと踊るラストワルツ──はバンドの歴史の幕引きにふさわしい特別な一曲でなければならず、メンバー間での協議は難航を極

        • ラブコ松本猫だより(2024/7/13号)

          こんにちは、室長です。梅雨ですね。晴天率が高いと言われる松本の街も、最近は憂鬱な雨がそぼ降る日が多くなっております。青くからりと晴れわたる夏空が待ち遠しいですね。 さて、7月のラブコはコロフェスです! と、唐突にそう宣言しても、「つか、コロフェスって何よ?」と首をかしげる方もいらっしゃるかと思うので、今回はこの「コロフェス」について解説しましょう。 ちなみにChatGPTさんに「コロフェスって何?」と尋ねてみたところ、「コロコロ魂フェスティバルの略」と言われました。ちげ

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        【掌編】チャダ子の夏

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          【掌編】ヒトメ

          それは何の前触れもなく現れた。 発端は「家の中に目ん玉みたいなキノコが生えてる」というエスエヌエスのつぶやきで、そこに添付されていた画像には、投稿主のアパートの壁からにょきっと生えた、ちょうどシイタケくらいのサイズと質感の“目”のような何かが映っていた。 投稿主はその何かをキノコと呼んでいたが、あくまでも生態的な類似性を鑑みてそう呼んでいただけで、それが実際にキノコであるかは判断が待たれた。 ほどなくしてそのつぶやきはバズり、謎のキノコの正体に関する雑多なコメントが書き

          【掌編】ヒトメ

          ラブコ松本猫だより(2024/7/6号)

          気がつけば季節は夏ですね。ラブコオフィスのある松本の街も連日、夏らしい暑さが続いておりますが、より厳しいのは陽射しのほうでして、標高のせいで近めな太陽が容赦なく肌に照りつけてきます。まるで直火で焼かれるようです。朝夕はとても涼しいんですけど。 それはさておき、主に室長の翻訳業務多忙に伴うライフ減のため、ふた月ぶりの更新となります「ラブコ松本猫だより」。 その2か月の間にいろいろなことがありました。 まずは5月某日。ラブコの保護猫カタカナとひらがなを埼玉県までお届けして参

          ラブコ松本猫だより(2024/7/6号)

          ラブコ松本猫だより(2024/5/4号)

          世間はゴールデンウィーク真っ只中。ラブコがオフィス兼ショップを構える松本の街も、長い冬眠から目覚めたような活気に湧き、閑散としていた冬の間とはまったく異なる“商都”らしい顔を覗かせております。 そんな街のにぎわいと歩調を合わせるかのごとく、マイペース営業のラブコ松本も急に騒がしくなってきました。 別にインバウンド客がショップに殺到して嬉しい悲鳴を上げているのではありません(そんなことは永遠に起きない)。子猫たちがやって来たのです。 ええ、前回の猫だよりでも書きました。こ

          ラブコ松本猫だより(2024/5/4号)

          ラブコ松本猫だより(2024/4/28号)

          先日まで満開だった桜もあっという間に葉桜となり、“保護猫がはたらく会社”ことラブコが現在オフィスを構える松本の街は今、鮮やかな新緑の季節を迎えております。 横浜から松本への一家移住および「けろウェイ」合同会社への体制移行に伴う諸々(詳細は上のリンク先で)がようやくひと段落つき、今後は市内某所のけろウェイ翻訳事業部に詰めている私が(以下「室長」)、保護猫事業部代表(以下「代表」)に代わって、こちらでラブコの近況などを報告していく運びとなりました。 ラブコでは今、保護猫の頭数

          ラブコ松本猫だより(2024/4/28号)

          インディスピリッツが沸るゲームたち

          普段いわゆる「インディゲーム」と呼ばれるゲームを翻訳することが多いせいか、時に「インディゲームのインディ性」って何だろうとぼんやり考えたりする。そういえば過日も某世界的なゲームアワード(今年のプレゼンターはティモシー・シャラメ!)において、大手デベロッパの資本が投入されたタイトルが「ベスト・インディゲーム」部門にノミネートされ、世界中でちょっとした物議を醸していた。 「インディゲーム」というジャンルの定義に関する詳しい議論はネットの海をざんぶり泳げばすぐ見つかるので、ここで

          インディスピリッツが沸るゲームたち

          【掌編】遅れてきたバス

          「くそっ、十分前かよ!」と、私は毒づいた。 バスの話だ。ほんの十分の差で、最終バスに間に合わなかった。 そこは陸の孤島めいた高台の住宅街で、時刻を考えると、タクシーは簡単には捕まりそうもない。だめもとで愛用の配車アプリを開くと、到着まで三十分という表示が出た。 三十分もここで無為に待つくらいなら、駅まで歩くか。コロナ禍で運動不足が極まっているし、ちょうどいい機会だ。 そう腹を決めて駅の方向へ踵を返したとき、煌々と輝くひと組のライトが背後から近づいてきた。やがてそれがバ

          【掌編】遅れてきたバス

          【エッセイ】ゲームのキャラにも人生はあって 〜『コーヒートーク』“わんばんこ”の舞台裏〜

          そのとき私は、フレイヤというキャラクターの人生に思いを巡らせていた。 彼女は地元紙にコラムや掌編を寄せながら、憧れの作家デビューへ向けて頑張っている、『コーヒートーク』というゲームの中の緑髪のジャーナリストだ。古典的なSF映画やポストパンク期の名曲を引用したり、自分のSNSアカウントで小説家の“ハルカミ・マルキ”を神と呼んでいたりするので、きっと文化的な造詣も深い。ちょっとオタク気質で、音楽も今風のものより、一昔前のものを好みそう。キュアーとかカーディガンズとか少年ナイフと

          【エッセイ】ゲームのキャラにも人生はあって 〜『コーヒートーク』“わんばんこ”の舞台裏〜

          【掌編】最後の宅配

          ピンポーン。呼び鈴が鳴った。 もう一回。さらにもう一回。 書斎でパソコンに向き合っていた私は、くそ、と毒づいた。せっかく筆が乗ってきたとこなのに。こっちは締切に追われてんだよ。 ピンポーン。 締切のことなど意に介さず、無情にも四度目の呼び鈴が鳴る。私は特盛りのため息を漏らして重い腰をあげ、書斎から廊下へと出た。 そして五回目のピンポンが鳴り響く頃、インターホンの前へと滑り込んで「通話」ボタンを押した。モニタがパッと明るくなり、一人の男が映し出される。服装からして宅配業者

          【掌編】最後の宅配

          【掌編】スマホの顔認証

          なんだよ、とおれは軽く気色ばんだ。 反応しないのだ。スマホの生体認証が。おれの顔が。だからログインできない。困るなあ、スマホくん。今からツイッタを開いて、仕事のあとの優雅なリラックスタイムを過ごそうとしていたんですけど。 そこでハッと思い至る──メガネか。 そう、おれはメガネを掛けていた。最近の生体認証システムは、なんならマスクだって意に介さず、登録された顔を正しく認識してみせるそうだ。だったら今回はたまたま何かが噛み合わず、仕組みが機能しなかったのだろう。人間でもある

          【掌編】スマホの顔認証

          【掌編】チャンス君

          数年ぶりに会ったチャンス君は、ひどく面変わりしていて、以前のあの、こちらのどんより曇った心を優しい光で塗り替えていくような、人懐こくて尊い笑顔はすっかり消え落ちていた。 それは抜け殻だった。内外からのあらゆる感情に疲れ果て、すべてを諦めた人の顔だった。絶望と虚無に塗りたくられた顔だった。 「チャンス君、どうしたんだい?」 変わり果てたチャンス君に、私はたまらず声をかけた。数年前、モラトリアム末期の漠然とした不安と、正当化と、貧乏の泥沼で溺れかけていた私は、今夜とまったく

          【掌編】チャンス君

          【掌編】気がまわるやつ

          田中(仮名)は昔から、よく気がまわるやつだった。 「一度きりの人生っていうだろ」 突然呼び出された先のファミレスで、私がくすんだオレンジ色のビニール張りのボックス席の向かいに座ると、田中はそれでスイッチが入ったように勝手にしゃべり始めた。 「あれ、嘘だわ」 田中はそう言うと、学生の頃から使っているブルーのリュックに手を突っ込み、何かをつかんでテーブルの上にどんと置いた。 「こちら、こけ橋さん」 全長50センチほどの古ぼけたこけしを指さして、田中が言う。 あまりに

          【掌編】気がまわるやつ

          【エッセイ】あちらのお客さまから

          一度でいい。“あちらのお客さまから”をしてみたい。映画で見るようなあれを。 そこは繁華街の喧騒がかろうじて聞こえる、裏通りに溶け込むように佇むバー。狭く薄暗い店内には横長のカウンターとスツール、いくつかのテーブル席が設えてあり、耳を優しく撫でるような音量でジャズが流れている。 さまざまな銘柄のハードリカーが壁際の棚を美しく彩り、カウンター内でシェイカーを振っているマスターが、不安げに入ってきた私を見て、心得顔で軽く会釈をする。言葉は一切交わさない。必要がないから。 それ

          【エッセイ】あちらのお客さまから