【登壇メモ】Healthcare Innovation Challenge in九州 2022

本日、九州経済産業局主催のHealthcare Innovation Challenge in 九州 2022にてパネリストとして登壇をさせて頂いたのですが、オンライン登壇で、会場とのマイクの接続の問題で、私の発言が聞きにくい形になってしまった部分が多々あったかと思うので、自分の登壇メモとしても伝えたかったことを書きたいと思います。

主なターゲットはヘルスケア市場に興味がある起業家や起業を考えている方向けになります。

今はデジタルヘルスビジネスに追い風か?

河合さま(日経デジタルヘルス編集長 | モデレーター)
Q. これまで健康・医療・介護の分野には最新技術の導入が遅れていました。それが変わりつつあります。AIやロボット、アプリなどが医療現場で活用されるようになり、いよいよデジタルヘルスの社会実装が始まりました。社会実装のフェーズに入ったことで、デジタルヘルスビジネスの立ち上げ・拡大がしやすくなっているでしょうか。それとも逆に、デジタルヘルスの黎明期と違って、選別の目が厳しくなっているのでしょうか。
ベンチャー企業の経営者の立場から、資金、営業、提携、技術開発などの足下のビジネス環境をお伺いしたいです。事業開始当時と現在で違いはあるでしょうか。

A. 選別の目が厳しくなっているからこそ、ヘルスケアスタートアップの事業拡大のチャンスだと考えています。
■資金面:コロナ禍においては、米国を中心に、ヘルスケア市場への投資家からの熱い目線が集まっていることはあらゆる記事で報告されています。実際の肌感としても、VC・CVC・事業会社の皆様から「ファイナンスは次いつやるの?」と個別でチャットが来ることが増えている印象です。しかし、実際の印象としては、シリーズA以降は非常に限られたスタートアップに大きな金額が集まるようになったという印象を持っています。
■営業面:法人向けのヘルスケア事業という視点だと、緊急事態宣言やテレワークにより、オンラインでの従業員の健康増進の取り組みはニーズが高まっている一方で、意思決定者の予算検討における選別の目はかなり厳しくなっていると思います。実際に、当社の顧客でも成果が出ないヘルスケアサービスは解約し、成果が出ているサービスは利用を続けるという企業・保険者が増えています。そのため、Pay For Success(PFS)やSocial Impact Bond(SIB)という成果に基づいたヘルスケア事業が今後伸びると予想しています。 現場に基づいた話をすると、例えば、Aさんにはアプリで特定保健指導を昨年提供したけれども、今年も同じく特定保健指導の対象になっていないか?ということが問題視されるようになってきており、「健康施策の成果ってなんだっけ?」「成果出ていると言えるんだっけ?」という不安な考えが溢れ出しています。また、保険者の方々はデータヘルス計画の中でアウトプット(登録人数など)とアウトカム(体重が何キロ減ったかなど)の目標値を設定しておりますが、「うちはもう成果重視だから、アウトプットよりもアウトカムを全面的に追うという方針に転換したよ」という保険者さまも増えてきています。
■事業提携:新型コロナ流行に伴い、時間軸が早い社会変化に対応すべく、大企業もスタートアップとの連携をスピード感もって検討しているところは増えている印象です。弊社は、理念の達成に繋がるのであればご一緒させて頂きたいと思っています。

ベンチャーや新規参入企業の採るべき戦略は?

河合さま(日経デジタルヘルス編集長 | モデレーター)
Q. これまで健康・医療・介護の分野はベンチャー企業が中心になって事業を開拓してきました。しかし最新技術の導入が進み始めたことで、ビジネスチャンスと捉えた大手企業の参入が相次いでいます。ベンチャーや新規参入企業はどのような戦略で挑めばいいでしょうか。大手企業が脅威になることもあれば、大手企業の営業網やプラットフォームを活用して事業拡大につなげることもできそうです。大手企業の参入をどう捉えているかお伺いしたいです。それに対して御社はどのような戦略で挑むのでしょうか。

A. 大手企業のヘルスケア参入は大歓迎だと感じています。様々なプレイヤーがマーケットに流入することで本当のマーケットができ、拡大していくと思っているからです。そして、スタートアップ経営において対峙すべきは、「競合企業がこんなサービスを出してきたからうちはこうやろう」というように競合企業を見るのではなく、課題を抱えている顧客のみと対峙し続ける姿勢が重要だと思っています。そして、目の前の顧客をよりHAPPYにできて企業理念が合致するのであれば、参入してきた大手企業ともタッグを組むということもあり得ると思います。
大手企業の参入とどう戦うか、という点に関しては、「キラーコンテンツを持つこと」「PDCAのスピードを意識すること」が基本的な戦い方だと思っています。
■キラーコンテンツを持つこと
大手企業は、プラットフォームを大きく狙ってくることが多い印象です。ただ、個人的には、最初からプラットフォームを作ろうとすると失敗するリスクが高いのではないかと感じています。これは誰のどんなCustomer Painを解决したいかということにも繋がりますが、目の前のn=1の人を幸せにできない限り、1万人・100万人の課題解決に貢献できるプロダクトは作れないと考えています。
今や国民の多くが使っている、Facebook(Meta)やAmazonというプラットフォームも最初はかなりニッチなキラーコンテンツから始まっています。Facebookはハーバード大学という非常に限定されたニッチな領域において、公開した女子学生の顔を比べて勝ち抜き投票させる「フェイスマッシュ」というゲームというキラーコンテンツからスタートしています。Amazonも最初はオンラインの本屋からスタートしています。
当社はポケットセラピストというキラーコンテンツを元にウェルビーイング経営のプラットフォームへと成長していく方針です。ポケットセラピストの利用者から「人生が変わった」という声をよく頂くのですが、そんなn=1を大切にしながら、プラットフォームへの道のりを駆け上がっていくことを目指しています。
■PDCAのスピードを意識すること
スタートアップと比べると、大企業にはヒト・モノ・カネがリッチにあります(最近はスタートアップも1つのコア事業で二桁億の資金調達もできる環境なので、実は1つの事業にかける資金という意味ではスタートアップが勝つ場合もありますがここでは省略)。唯一、同じ土俵で戦えるのが24時間という「時間」という資産です。例えば、大企業が新規事業の仮説検証を1サイクル回すのに3ヶ月かかるのであれば、スタートアップは3日に1回、つまり、週に2回サイクルを回していると、3ヶ月後、大企業が仮説検証を1サイクル終えたときには、スタートアップは24回も失敗できるんです。PDCAの速度を早めて、小さな失敗を早めに繰り返す。これがスタートアップだからこそできる攻め方です。当社の行動指針として設定しているValueには下記のようなものがあり、スタートアップだからこその戦い方を普段より意識しています。

【①Insight Driven】
・顧客やデータのインサイトを起点に行動しよう。
【②The Faster, The Better】
・スピードに勝るのもはない。
・完璧を目指さずに、まずは仕事を終わらせよう。
・素早く小さな失敗を。そして挑戦して失敗した者を称賛しよう。
【③Think Big and Do It】
・大胆に発想し、実行しよう。

https://www.backtech.co.jp/about/

あとは大手企業の新規事業の起こし方としてマーケット規模の大きいところからプロダクトアウト的に攻めたり、顧客ヒアリングを通して、課題を特定し、新規事業案を作ったりしていると思います。一方で、本当に世の中を変えるのは今あるマーケットより、今後できるマーケットで誰も気づいていない可能性があると考えています。スタートアップはそこに人生をかけるべきで、「ユーザーは答えを知らない」「皆が信じている当たり前は何か」「自分しか気づいていない真実は何か」を起点にインサイトレベルまで考え、事業を作れることがスタートアップの醍醐味です。

社会にどのように定着させるか?

河合さま(日経デジタルヘルス編集長 | モデレーター)
Q. デジタルヘルスの社会実装が始まりました。しかし、いかに優れた技術であっても、世の中に浸透しなければ、その価値を十分に社会に還元できません。広く普及させるには導入のサポートなどに多くの人手が必要ですが、少数精鋭のベンチャー企業では手が回りません。どのように認知度を高めて、多くの人に使ってもらえるようにするか。医療分野だと宣伝が難しいという課題もあります。大手企業の力を活用するのもいいかもしれません。
自社サービスを多くの方に使ってもらいビジネスを拡大させるために、どのような工夫をしているでしょうか。今後どのように認知度を高めていく計画でしょうか。

A. 普段工夫していることは様々ありますが、「圧倒的なユーザー体験」「キャズム理論」「エビデンス構築」「特定市場におけるシェア拡大」という4点で説明したいと思います。

■圧倒的なユーザー体験
「目の前の1人のユーザーに圧倒的な感動体験を提供すること」「泣いてでもこのプロダクトを使いたいと言ってくれるプロダクトを創ること」にこだわり続けたいと考えています。多数のLikeより、少数の熱烈なLOVEを貰えると自然に市場に広がっていくと考えています。
■キャズム理論
一気に世の中の困っている人全員をHAPPYにするのではなく、キャズム理論で言われているように、イノベーター・アーリーアダプターなどの属性に合わせたGO TO MARKET戦略を作り、実行していく必要があると思っています。

■エビデンス構築(Value based Healthcare)
これまでのヘルスケア市場では「行為」が評価対象でしたが、「成果」が評価対象に変わっていくと考えています。厚生労働省保険局によるPFS事業もその時代の変化の一環かと思います。当社はコニカミノルタさまとプロジェクトをご一緒させて頂いておりますが、成果である医学的なエビデンス(特に医療費の削減効果)をいかに構築していけるかが、社会に定着させていく上での基盤として重要です。

■特定市場における圧倒的シェア
対象顧客とサービスの特徴により、市場の攻め方は変わってくるため、Horizontal/Verticalという軸と、顧客規模(Enterprise/SMB)の軸で象限に分けてみると、当社サービスは、VerticalなサービスでEnterprise向けになります。すべてのEnterprise企業を攻める!というよりも、例えば製薬業界の連結売上高TOP10のシェアを取る!その後は、◯◯業界のシェアを伸ばす!という感じに攻めるべき特定市場を決めて、圧倒的シェアを伸ばしてから次の特定市場に移るという攻め方をしたいなと考えています。

九州からイノベーションを生み出すには?

河合さま(日経デジタルヘルス編集長 | モデレーター)
Q. 日本は少子化や超高齢化、平均寿命と健康寿命の差、社会保障費の拡大などの課題を抱えています。その中で九州は、山間へき地や離島などが多いという課題があり、医療・介護需要のピークの先駆けになる見込みです。その一方で、アジアへの玄関口であり、半導体産業が集積するといった特徴もあります。そんな九州からデジタルヘルスのイノベーションを生み出すヒントを見つけられればと思います。京都に本社を構える御社の経験から、東京以外でビジネスを展開することの課題や利点があれば紹介ください。

A. 課題があるところには新しいサービスが立ち上がるので、課題が多い九州は起業するための、もしくは新規事業を起こすための宝が山程あるのだと考えています。そのため、課題があるということは、ヘルスケアイノベーションを起こすために最適な場所であると言い換えることが出来ると思います。また、起業家は課題の最前線にいくのが本質だと個人的には考えているので、そういう意味でも九州に拠点を置きながら、地元にいながらでしか気づかないような、理解できないような課題を日々見つけることが重要だと思います。一方で、九州から少し離れて、東京から九州を捉え直してみるという機会も、起業や経営に良い示唆を与えてくれることも多いため、二拠点で活動するメリットは大きいと思います。

謝辞

最後に、今回のような貴重な機会とご縁をつないでいただいた、デジタルハリウッド大学大学院(特任教授 | 医師)加藤浩晃先生、登壇のオファーを頂いた経済産業省ヘルスケア産業課の大筋暢洋さま、素晴らしいモデレートをしていただいた日経デジタルヘルス編集長の河合基伸さま、ご一緒させていただいた福岡地域戦略推進協議会 シニアマネージャー 片田江由佳さま、そして、オンラインでのイベントを円滑に進めていただいた主催の九州経済産業局さま・九州ヘルスケア産業推進協議会(HAMIQ)さま・一般財団法人 九州オープンイノベーションセンター(KOIC)さま・Healthcare Innovation Hubさま、有難うございました。

当社では、ヘルスケア市場をテクノロジーの力で変えていくエンジニアさんを募集しているフェーズですので、ぜひご興味頂ける方はこちらより、下記のいずれかから、まずはカジュアルにご連絡ください!(フルリモート可)


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