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連続睡眠時間、世界最長を目指した高校生の、あくなき挑戦

<はじめに>

時はさかのぼる事数十年前。神奈川県のとある高校に、睡眠を渇望する二人の高校生が学園生活を送っていた。
その名は、ばちょめんとカズヒロ。
二人はお互いを親友と呼び合う間柄であり、学園生活のほとんどを共に過ごした。

そんな二人の間に常にあった、共通の合言葉。

「眠い」

二人には、それぞれ場所は違えど、アルバイト先があり、精を出して働いていた。
高校生でありながら週5のシフトをこなし、授業を終えた直後の身体に鞭打って、がむしゃらに働く日々。

そして翌日、学校で再会した二人は、前日のバイトがいかにダルかったか報告し合い、最後に「眠いな」とつぶやき合う。

そんな日々が続いていたある日、ふと二人にある疑問が沸き起こる。

「世界最長連続睡眠時間って、何時間なんだろうな」
「知らんけど、余裕っしょ。今の俺たちの方が寝れるんじゃね?」

二人には、自信があった。

とにかく毎日バイトでヘトヘトな中、同時に青春真っ只中のため、ほとんど寝ておらず、日に日にどす黒く変色していくお互いの顔には一切触れず、突き進んでいた。

眠い。

「よし、こうなったら、一緒に記録ねらおうぜ。二人で休み合わせよう。それでどちらかの家に泊まって、とことん寝る日を一日作って、世界最長睡眠時間を更新しよう」
「それ、間違いないな。世界、ねらおうぜ」
「で、最長記録、何時間なんだろうな」
「知らん」

こうして、ばちょめん、カズヒロの、世界最長睡眠時間への挑戦が始まった。

<戦略>

まずは世界を狙う上で、必要なことを話し合った。
答えはシンプル。

疲れる事。ギリっギリまで、疲れる事。

では、疲れるために必要なことは何か。

話し合った結果

バイト20連勤。

体育の授業を含む学園生活を送ったうえで、バイト20連勤はなかなかのハングリー精神。ハングリーに取り組むべきものを完全に見間違ったアホ二人の、新たな青春ストーリーが幕を開けた。

20連勤終了後、世界最長睡眠記録をねらう。

<ばちょめんサイドのストーリー>

カズヒロとの約束を決めたその日、まずばちょめんがしなければならなかったことは、20連勤のシフトの確保。

「店長、俺、働きたいっす。」

目がギラついて、顔がどす黒い。そんな高校生を前にして、店長は快くシフトをたくさんくれた。ただ、それだけでは足りない。20連勤を確保するためには、更なる一手が必要だ。

「先輩、シフトもらえないっすか?」
「いいけど、どうしたん?」
「いや、自分、頑張りたいっす」

" ばちょめんに謎のスウィッチが入った " と皆さん快く協力してくれた。

疲れる事、とにかく疲れる事。

そして無事20連勤がスタートして数日が経過したとき、更なる追い風、いや、神風が吹く。

体育の授業で、長距離走、始まる。


<下準備>

長距離走は、何も一回の授業で終わるわけではない。一定の期間続く授業なのだ。完全な、駄目押し。

「20連勤中のここにきて長距離走とか、マジで神風吹いてんな」
「あぁ、強風だ」
「お前、わかってるよな?」
「当たり前だ」

二人して、ものすっごい長距離走、頑張る。

眠い。眠い。疲れた。

いける。世界を狙える。

アルバイトに精を出し、学校で全力で走るアホ二人。

バイト先では、いつも以上に張り切る。自分の仕事ではないものでも率先して行い、

店長「お前、なんか、いいな」

フワッと時給が上がった。

学校では、一切手を抜かず長距離を走り切り、

先生「お前、なんか、いいな」

フワッと評価が上がった。

眠い、眠い、眠い。


<特設会場へ>

こうして、途中で心が折れそうになる事が一切ない、謎のモチベーションに支えられながら、20連勤と長距離走を完走した。

あとは、本番を迎えるだけだ。

話し合った結果、睡眠特設会場は、カズヒロの部屋で決定。
カズヒロは自分のベッド。ばちょめんは床にしいた布団。

さぁ、より深く、より長く、眠ろう。

学校のない週末、バイトの休みは合わせてある。

ばちょめんが、特設会場のあるカズヒロ邸に到着。インターホンを鳴らすと、カズヒロの姉がドアを開けてくれた。

カズヒロ姉「ねぇ、ばちょめん君、顔色悪いよ?」

当たり前だ。背負ってるものが違う。世界を狙うんだ。

特設会場のあるカズヒロの部屋に入る前、カズヒロ母に伝えたこと。
それは、部屋に入らないでほしい事、そして起こさないでほしい事。あまりに長く出てこなくて、どうかしちゃったんじゃないかと心配になる事もあるかもしれない。
大丈夫です。20連勤と長距離走で、とっくにどうかしちゃってます。

<カズヒロが提示した、世界を狙うための、最後のリーサルウェポン>

さぁ、いよいよ挑戦が始まる。

疲れ切った顔面蒼白の勇者二人が、ついに寝室に入った。決戦が始まるコロシアムだ。

ばちょめん「よし、もう寝るぞ。とっとと始めよう。眠い」
カズヒロ「いや、まだだ。最後の追い込みがある」
ばちょめん「は?」

カズヒロ「今から、親父が先月行った川釣りで撮ったビデオを見る」

...............…なんだよ、それ。

話しを聞くと、釣りが大好きな親父さんが、友人たちと8ミリカメラで撮った釣りの映像があるらしく、それが最高に睡眠欲をかりたてる内容だそうだ。

この地球に存在するものの中で、一位二位を争うくらい、おもしろくないらしい。

やめろ。

ただでさえ、もう寝る体制に入っている。そこで親父さんの釣りの映像。

...............…こいつ、マジで世界ねらってる。


映像がはじまった。おそらく親父さんと同世代の方たちが、車からそれぞれの釣り道具を用意し、川に向かっていく。
会話をしているのはわかるのだが、聞き取れないくらいの小さな音量。たまに沸き起こる、小さな笑い声。
釣りが始まる。なんか、話してる。聞こえない。
また沸き起こる、小さな笑い声。

一時間続いた。


マジで、おもんねぇ!!


釣れた魚、一匹。


マジでおもんねぇ!!


カズヒロ、もう限界だ。

俺は、寝たい

<記録への挑戦>

拷問のような映像が、ようやく終わった。
ばちょめんも、カズヒロも、目はもうほぼあいていない。

「よし、いけるか?」
「いける気しか、しない」

寝よう!

目覚ましなどかけず、明日の事など考えず、世界をとりにいこう。

次に目覚めた時には...............…

俺たちが、世界一だ。


<結果発表>


小鳥のさえずる音

カーテンの隙間から差し込む朝日

そんなものとは一切無縁の、月明かりの元、ついに二人の勇者が目覚めた。


ばちょめん 17時間

カズヒロ  18時間


起き上がった二人は、固い握手をかわした。

世界に挑んだ、高校生。そのけがれのない情熱、固く誓ったあの日の約束、育まれた強固な絆。そこには、間違いなくやりきった達成感と、すがすがしさだけが残った。

俺たちは、いつだって、何にだってなれる。

何だって、目指せる。そうだろ?

そう確認し合い、決戦の地、カズヒロ部屋から外へ出た。

明日からまた始まる、バイトのシフトを確認しながら。

「で、世界最長睡眠記録って、何時間なんだろうな」


「知らん」


最後までご一読、ありがとうございました。


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