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私立恵比寿中学「ヘロー」

私立恵比寿中学(エビ中)のメジャーデビュー10周年アルバムが発売されました。

アルバムは、Disk 1が、ファンの投票によるベストアルバム、Disk 2が現在の9名で再録音を行った過去曲と、夏前から配信でリリースされてきた4曲が入ったものです。

今回取り上げるのは、その配信で8月にリリースされ、Disk 2の最後となる「ヘロー」。

配信されてから1か月近く経ちましたが、このアルバムの中の最後に入っていることでさらにこの曲の良さと意味が際立ったなあと感じたので、noteを書いてみようと思ったのでした。

ちなみに、ほかの曲についてはこちら。


MVの美しさと儚さと

まずは何よりも、MVを見ていただきたい。実に美しい映像だと思います。

エビ中のMVとしては、この一つ前の「シュガーグレーズ」から4Kでも再生できるようになりました。「シュガーグレーズ」は360 Reality AudioとVR空間のような3D CGとの組み合わせで、新たな没入体験ができるような実験的なものです。ぜひこちらのインタビューを見ていただければと思います。

メンバーがしっかりと映っている動画で4Kなのは、「ヘロー」からといえます。ぜひ、4Kのディスプレイで大画面で。細かいところまで本当に美しいと思います。

曲と相まって感じられる映像の儚さは、それぞれのシーンやメンバーの表情から感じられますが、特にすごいなと思ったところは、ピント面を絶妙にコントロールしているところ。

多くのシーンで、とても被写界深度が浅い、つまり、ピントが合っている範囲が狭いカットとなっています。微妙にピントが外れていて、それが少し続いたあとに、ピタッと会う瞬間、ある種のカタルシスが感じられます。

例えば、MVの最後(4分00秒~4分04秒)、曲が終わったあとがまさにその部分です。4分2秒ではピントが外れているのに、4分3秒で中山さんの左目にビタッとピントが合う瞬間、中山さんのこれからに向けた意志を強く感じます。そして4分4秒で終わる。実に見事な余韻となっています。

・・・このnoteを書くにあたってMVを見直していたのですが、冒頭(0分00秒)の中山さんのカットも左目にピントがあっています。右の横顔が映るシーンなので、通常で考えたら手前になる右目にピントがあっているところかと思いましたが、奥になる左目にあっているということはそこに意図があるのかななどと考えてしまいます。

「右目は過去を、左目は未来を見ている」などと言われることもあるようなので、もしその意図があったとすれば、「ヘロー」は将来への希望の曲なのだ、という思いは間違いではなかったということになります。

そうです。どんな過去もなかったことにせず抱きしめて、どんな未来もあきらめずに意志を持って切り拓いていくんだという決意のこもった希望の曲だと、曲を聴いて思っていたのでした。

過去を受け入れ未来を拓いていく、そしてそれが回っていく(サイクル)というテーマは、まさにメジャーデビュー10周年の根底に共通するもので、「私立恵比寿中学」(ホワイトアルバム)から継続しているものと思います。そのことについてはこのnoteで書きました。


「容易く笑顔に変えてみせるよ」という強さ

曲を聴いていて、いちばんに印象に残ったのが、歌い出しの小久保さんのパート。しかし何度も何度も聴いているうちに、ああいいなあ、と思うようになったのは、小久保さんのもう一つのパートです。

何にだって成れる
泣き腫らしたその顔も
容易く笑顔に変えてみせるよ

「ヘロー」より

「何にだって成れる」のはこれからのエビ中の未来が拓けていること、そしてそのエビ中がファンであるこちら側の泣き顔を笑顔に変えてくれるということ。そして、「容易く」「変えて見せる」という強さ。

小久保さんの声はエビ中の中でも無垢さを表現しているように思います。その小久保さんがこれをいうからこその「決意」と「覚悟」に、エビ中のコアにある本質的な強さを感じてグッと来てしまったのでした。


ばっちりハマった歌割とアレンジ

ここに限らず、歌割りがばっちりハマっていると思います。ひとりひとりのパートが長くじっくり聴けるところがうれしいところ。多分、メンバーそれぞれがそれぞれの個性を打ち出しながらしっかり歌えるからこそのこの長さであり、この歌詞をこのメンバーが歌うという必然性が感じられます。どこがどう、というとめちゃくちゃ長くなるので、ひとつだけ。「お腹いっぱい」というワードを中山さんが歌うところは最高です。

歌詞カードを見て気づいたのですが、大サビの後はすべてALLだと思っていたのですが、こう分かれているのですね。

【安本・小林・桜木】これまでの全て抱きしめて
【真山・星名・小久保】これからの僕らは何を描こう?
【柏木・中山・風見】これまでの全てを胸に秘め
【ALL】これからの僕らを願っていようよ

これだけ個性的な歌声のメンバーが、3人集まるとエビ中の歌声になるというのは面白いなと思いました。正直3人のセットは聴き分けられません。

そして、とても美しいメロディ。それを引き立てるアレンジも素晴らしいと思いました。

事前のティザーの段階で聴こえてきた部分はイントロだと思っていたのですが間奏でしたね。この部分の抑制された感じがとても好きです。抑制された中にもいろいろな音が入っていろいろな仕掛けが丁寧に作られているように感じています。とても愛のあるアレンジだと思いました。

個人的には、イントロからの抑制されたAメロ、Bメロの後、直前に2小節アコースティックギターっぽい音色のところがあってからの、サビ。安本さんのもつ爆発力を存分に生かしたパーッと開ける展開がとても良いです。
爆発力でいえば、落ちサビの真山さんから安本さんの「シ♭ドレミ♭ファ」からの大サビ中山さん。ものすごい盛り上がり方です。素晴らしいです。


変わりゆくエビ中の「のりしろ」

実は、こういった過去と未来をつなぐことをテーマとしていくところは、「ヘロー」が最後なのではないか、と感じています。「中吉」のラストがこの曲であることがそれを象徴しているというか。

「ヘロー」が公開されたのは、オーディションの初日。この後、パフォーマンスの中核を担ってきた柏木さんの転校が控える中での、最近の桜木さんの快進撃。そんなこの1年はエビ中の新たな時代に向けての「のりしろ」なのではないか、と思います。その集大成としての「ヘロー」。

この曲に、メンバーは最初あまりピンと来ていなかった、という話があります。

すでに次の時代に入っているメンバーからすると、のりしろの必要性があまり感じられなかったのではないか、ということかと思いました。
一方でファンからすると、こういったのりしろがあるからこそ次に向かっていく心構えができるので、多分とても必要な、ターニングポイントとなる曲なのだろう、と思います。

音楽的にも今のエビ中だからこその深みがあり、変化への心構えができて、そして、新たな時代への希望を持てる素晴らしい曲だと思ったのでした。

これはライブではどのような表現になっていくのでしょうか?どんな振り付けになっていくのでしょうか?とても楽しみです。


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