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あなたのお陰で今がある。小論文の恩師は、燃え盛るH先生。【#忘れられない先生】

「●ページ、●行目!はいここ!!マーカーチェック!!!」

今日も教室に響き渡る、その声。
筆圧強いな…チョークまた折れんかった?

声の主は、H先生
私の高校時代の、国語の先生だ。

私の進学した高校は、一応、校区一の進学校。
…のわりには、ゆるやかで自由な雰囲気も漂っていた。
そのせいなのか、先生も生徒も個性豊かな面々だった。

その中でひときわ燃え盛っていたのが、H先生。
年齢をお訊ねしたことはないが、当時おそらく20代後半…というところだろうか…う~ん、わからん。
いつもキチッ!とスーツをまとい、バリッ!とした髪型をキメていた。

「おい、おまえら~~~!前回の模試も、S高(ライバル校)に負けてるぞー!!!しっかりしろ~~~!!!」

熱い。とにかく熱い。
マンガから飛び出した、熱血教師のキャラクターみたいだった。
今思うと、私はずっと彼のことを「遠くで燃える焚火のよう」と感じていた気がする。

転機が訪れた。浪人した年の、終盤中の終盤。

…あ。ひとつ説明が必要なので、ちょっと話をはさむことにする。
私の通っていた高校には、当時、敷地内に「予備校」があった。
「研修学園」と呼ばれるそれは、学食の2階。
基本的には、本学をリタイアした先生方が切り盛りされていたが、高校のほうからも、何人か先生が教えに来てくださっていた。
その中に、H先生がいたのである。

話を戻そう。
センター試験でコケ、前期試験で第一志望校に落ち、もう後がなくなっていた私は、作戦変更で、後期試験で地元大学の文学部を目指すことにした。

必要な科目は…「小論文」
今まで、まともな小論文対策などやってはこなかった。
これは、きちんと誰かに指導していただく必要がある。
そこで必然的に名前が挙がったのが、H先生だった。

後期試験までの1ヶ月のうち、何度本校の職員室に足を運んだだろう。
その中でわかってきたのは、H先生の熱さはマンガ的なそれではなく、本物だったということ。

初めて小論文を持って行ったとき。
黙って目を通したのち、オーバーリアクション気味にH先生は言った。

「ヨシダ(旧姓)…これは惜しい、こうじゃないんだ…」

Oh, my god…
国語教師なので、そうは言わない。言わないけれど、アテレコするならこれがしっくりくる。

そして、「お手本」の小論文を見せてくれた。
なるほど、これと比べてみると、確かに「こうじゃない」。

2回目の小論文持参。
H先生は、これまた「欧米か!」と突っ込みたくなるぐらいの様相(?)で、私を振り返った。

「ヨシダ!!!これだ…これだよ…!!!すごいじゃないか!!!」

How wonderful!
なんて言われちゃいないが、聞こえてきてもおかしくない感じ。

決して私の文章力が爆発的な成長を見せたわけではない。
つまり、まあ、言ってしまえば、【見抜いた】のだ。
何と言いますか、小論文の【型】を…(身も蓋もないことを言って、申し訳ない…)

3回目、4回目…
回を重ねるたびに、先生はちょっと過剰なまでに褒めちぎり、そのうえで、「こうすれば更によくなる」を伝えてくれた。

【型】を見つけたといっても、そこに当てはめるのは、私オリジナルの視点やたとえ話。
そこには、試験の点数としては表現できなかった、世界史や古文の授業で聴いた逸話なんかを盛り込むこともあった。
相手に伝わる方法を取りつつ、自分の想いを伝えるって、なかなかやりがいのある作業じゃないか。
試験対策として始めた小論文で、私は「書くこと」自体への楽しみを見出していった。

時期的にも、これが最後の小論文提出。
なんとなく、手ごたえが薄い気はしていた。

「ヨシダ…」

これは、too sad…なリアクションだ。

「ヨシダ、これはちょっと違うな…」

最後の最後に、これだもんな。これだから私というやつは…
いけるかも、と舞い上がっていた分、ぽきりと折れそうなふがいなさを強烈に感じた。

けれど、先生は言った。

「今回は、ちょっと違った。
 でもな、これまで、よくやったぞ。よく書けてたじゃないか。
 いいか、ヨシダ。ヨシダなら大丈夫だ。」

熱い。いや、なんだろ。あったかい。
遠くに眺めていた焚火は、今、目の前。
凍えていた指先は、芯からぬくもっていた。
大丈夫。私なら大丈夫だ。

「ヨシダ!がんばってこい!合格したら、ハグしていいか!?」

…先生、それはセクハラです。とは思わなかった。
きっと青春マンガみたいな、暑苦しいハグをかましてくれることだろう。

後期試験。
感触は、悪くない。正直なところ、「書けた」とは感じていた。
ただ、もしもっと「書けた」人が多ければ、試験の結果としては不合格だ。

同じ予備校からは、もうひとり男の子が文学部を受験していた。
彼もまたH先生に卒論指導を受けてはいたが、私ほど熱心に提出はしていない。
けれど「ヤマが当たった」ようなことを言っていて、自信ありげな様子だった。

後期試験合格発表。
ありがたいことに、サクラサク。合格していた。
もうひとりの男の子もまた、合格だ。

ふたり揃って、H先生のところへ報告に向かった。

「おまえたち~~~~~!!!!!」

熱い…燃え盛る炎が、近づいてくる!

「よくやったなああ~~~~~~~!!!!!」

ガバッ!!!熱い熱いハグ!!!!
…をしているのは、先生と、もうひとりの男の子だ。
あれれ???そっちですか!?

「ヨシダ、おめでとう!」
身体が触れ合わない程度に距離をあけ、大きく背中を腕で囲う。
想定外の紳士的な「ハグ」に拍子抜けしつつも、まあ、結果オーライ。

春。焚火で暖を取る季節は過ぎ、私の長い長い受験戦争は終わった。



「書くンジャーズ」今週のテーマは、【#忘れられない先生】
個性的なメンツの多かった高校時代の先生の中から、「小論文の熱血恩師・H先生」について書いたのは、火曜担当のみねでした。

あれからもう20年!?
H先生、どこでどう過ごしていらっしゃいますか?
先生のお陰で、ヨシダは今も、文章を楽しく書き続けていますよ。

メンバーの皆さんには、どんな忘れられない先生がいらっしゃるんでしょうか。
今週も日刊「書くンジャーズ」マガジン、要チェックです!



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